きた! メイン増援きた! これで勝つる!
突如現れた老翁と青年。青樹さんを助けに割って入ったと思われる二人組に、空気が一気に緊張を孕んでいく。
とりわけ老翁が、際立ってこちらを警戒していることに違和感を覚えたのは、俺だけではないみたいだった。状況の変化に俺の発光も収まっていく中、ジャージ男が鼻を鳴らして、そんなこちらを指差し翁へと言った。
「こんな陰キャ丸出しのガキ、そんな恐れるもんかね? 俺らの力ならどうとでもなるだろうがよ」
「愚か者がここにもおるのう……若造。お主一人ではこのモノに、指一本とて触れることは叶うまいて。その程度のこと、幹部であるならば分かるべきじゃろう。小娘もじゃがな」
「くっ……」
「……ジジイがそこまで言うのかよ。戦ってみてえなあ」
老翁の静かな戒めに、悔しげに呻く青樹さんと獰猛に笑うジャージ男。その様子に俺は、この3人の関係が薄っすらと見て取れる感じがしていた。
まず、間違いなくこの3人は仲間だ。同じ組織、同じグループにいるのだろう。それは青樹さんを助けに入ってきたことからも分かる。
加えて言えば彼らはその組織における幹部格というのも、今しがたの老翁の言葉からも察せることだ……老翁自身はあるいはもっと、上の立場なのかもしれないが。
翁の言葉にそれぞれ反応しつつも、けれど二人とも抗弁しないのも上下関係が伺える。
いずれにせよ今、この場において数の上では俺が劣勢ということには変わりない。この局面を切り抜けて後、ヴァールたちに持ち寄るには結構いい情報なんじゃないかと思えるね。
もうちょっとなんか、情報をポロッと溢してくれるとこっちとしては嬉しいんだけどなあ。などと警戒しつつもなんとなし期待する俺。
そんな俺を見透かしたかのように老翁はこちらを一瞥し、皺だらけの顔をさらにしわくちゃにした。笑ったのだ。
「クククク……怖いのう、年寄りをそんなに睨むでないわい、シャイニング山形」
「……失礼しました。ですがこちらの警戒も理解してほしいです。何せ今の今まで僕、襲われていましたから」
「クカカカ! 洗脳しとったの間違いではないのかのう!」
高らかに哄笑して言う翁。この人もまさか、俺が香苗さんを洗脳してるなんて馬鹿な話を信じているのか?
……いや、違う。この老人は狡猾だ、しまった!
してやられた感覚にヒヤリとしつつ青樹さんを見る。
先程まで、少なくとも俺の話に耳を傾ける気になっていたはずの彼女が、またしても猜疑に塗れた目で俺を睨みつけていた。
「山形公平……ッ!! 香苗のみならず私までも、その妖しげな光で呑み込まんとしたかァァァッ!!」
「っ、違う! 俺のこれは単なる称号効果で、なんか勝手に光りだすだけで!」
「勝手に光るって、ガキの玩具かなんかかよテメェ」
ジャージ男が呆れたように俺を、得体の知れない何かのように見てくるけどそれどころじゃない。
やられた……この翁、たった一言で青樹さんを元の木阿弥にまで引き戻してしまった! 聞く耳を持ちかけていた彼女に再び俺への疑念を植えつけて、話を混ぜ返してきたんだ。
どうにか、香苗さんと話し合わせる方向に持っていけそうだったのに。老人の一言ですべてが振り出しに、いやむしろより悪い方向に行ってしまった。
あくどい笑みを浮かべる老翁を見る。悪意に満ちた顔で、面白そうに青樹さんに告げる。
「危ういところじゃったのう、青樹。あやつの光は人を惑わす光ぞ、見てはならん」
「どうやらそのようだ……! 恩に着るぞ、火野老人! ついでに手助けも感謝する、翠川」
「カカカカ! 仲間ではないか、気にするな」
「へっ……へへ、まあ気にすんなよ、青樹ィ」
私は目が覚めた! とでも言うように病みきった目で感謝を告げる青樹さん。告げられた老翁とジャージ男──火野と翠川というようだ──は、そんな彼女を小馬鹿にする笑みを浮かべて答えている。
……完全にわざとやったんだな、この人達は。青樹さんが俺の言葉を信じかけているのを見抜いて、即座に彼女を引き戻したんだ。
「さて青樹や。勝てはすまいがこのまま逃げても気が済むまい。儂らも加勢してやるでな、ここで彼奴めの足腕の一本でもへし折って帰ろうかえ」
「三人がかりだ、そんくれぇできるだろ。おうガキ、覚悟しなァ、へへへへ」
「おのれ山形公平ィィィ!!」
「怖ぁ……」
物騒すぎるだろこいつら、足腕の一本でも折るってそれ、完璧アウトなやつじゃないか。
まるで火野の手のひらで踊らされているような、そんな青樹さんは再び俺を、憎悪の篭った目で睨みつけてきている。そして左右からは、楽しげに笑う火野と翠川が臨戦態勢を整えている。
これは、あまり良くない状況だな。
早い話、倒すだけなら3人まとめても問題ないけど、探査者同士で戦うのは正直避けたいところだ。普通に法律違反だし、後で過剰防衛とか言われても困るし。
でももうここまで来たら俺個人の社会的立場がどうなろうとも、3人ともとっ捕まえたほうが世の中のためになりそうだしなあ。
「──やれやれ。せっかくの祭の日に、ずいぶんと嘆かわしい者たちもいたものだな」
どうしたもんかと少しばかり考えていると、ふと神社の鳥居、その上へと探査者が飛び移る気配がした。同時に境内に響く、女の声。
咄嗟に鳥居のほうを見る。つられて青樹さんたちもそちらを向くと、そこには俺もよく知る人たちの姿が2つ、あまり知らない姿が2つ。
なんでここに? 疑問に思う間もなく、とっさに俺は助かったとばかりに声をあげた!
「マリーさん! ヴァール!」
「ファファファ! 公平ちゃん、なんか面倒なことになっとるねえ」
「この場は我々が受け持とう。そこな者どもには、聞きたい話が山とあるのでな」
夜祭でリーベたちと行動をともにしているはずのヴァールとマリーさんが、武装した探査者を2人伴ってそこに立っていたのだ。
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