うぁぁぁ か……怪文書の人が市内を練り歩いてる
明滅を繰り返す電球のように、気配を薄めたり濃くしたりする謎の探査者。何者か分からないがこの夜祭の最中、わざわざ自分を餌にして勘づいたものを誘き寄せるような真似をするのは、なんだか嫌な予感がする。
とりあえず探ってみて危険がなさそうならそこまでとして、何かしでかしそうなら通報するか。そう考えて俺は、気配の主を追っていた。
「……公園を出た? 夜祭が目的じゃないのか?」
『さっさと済ませて戻れよ、ご飯食べろご飯!』
楽しい食事を途中で中断させられてプンスカしているアルマさんはともかく、俺は人の賑わいの中を進む。
その人物の気配はどうしたことか、いくつかある公園の出入り口の一つ、今日待ち合わせた門から外に出てコンビニのあるほうへと向かっているな。
夜祭はこれからが本番だから、むしろやってくる人のほうが多いくらいなんだけど。なんだ?
わざわざ用もないのに祭りに出向いて、大勢の中で気配を消す訓練でもしていたとか、だろうか。だとしたら俺の独り相撲という形で穏便に済むわけだし、それに越したことはないけど。
ちなみに俺の他にこうした謎の気配を気づけた探査者は、今のところはいないみたいだ。大半の探査者が持つ《気配感知》はモンスターの位置を把握する効果だし、同業の気配までは掴めないからね。
俺だってかつて得た称号《心いたわり寄り添う光風》の効果、周囲1km内のスキル保持者の位置を感知する能力があって初めて気づけたわけで。
似たようなスキルはたしか……《スキル探知》とか《称号感知》みたいなやつだったかな。そういうのを持っている探査者ならば俺と同じように気づき、あるいは追跡を行うのかもしれなかったけど、そういう気配も今のところ近くにはないしな。
完全に俺一人で、気配を追っているのが現状だった。
気配の主を追って公園を出る。コンビニを通り過ぎる何者かの、背中がそろそろ見えてきた。
後ろからしか分からないけど、おそらく女性だ。なんかロングコートを羽織っているみたいだ。漫画でたまにある格好いいやつだね。
その人は更に進んで、町中にある神社に入っていくのが見えた。俺はあんまり縁がないけど、ゴールデンウィークになるとお祭りが行われているのを毎年、見かけるなあ。
「そんな場所にこんな時間、なんの用事だろう?」
もう陽も傾いて、空は真っ赤と真っ青が入り混じり、壮絶に幻想的な色合いを示している。昼と夜の狭間。
こんなタイミングで気配を点滅させて、やることが普通にお参りってのは面白いけどちょっとびっくりさせないでよって気分にもなる。いやまあ、気づいた上で乗っかったのは俺だからなんとも言えないんだけども。
一応、普通にお参りをするところまで様子を見て、何もなさそうなら帰ろうかな……そう考えつつも後を追って俺も、神社の鳥居に足を踏み入れる。
外の賑わいに反して極端に人気のない、静寂な社だ。人払いに《遮断結界》か何かを使ってるな、これ。
わざわざスキルまで使って、いよいよ怪しいぞ? と考えていたりその時だ。
前を行く例の人物が、境内の途中で突然立ち止まり、後ろを振り向いてきた。要するについてきた俺を、見てきたのだ。
「本当に引っかかるか……《スキル探知》でも持っているのかな?」
「……!」
周囲に人はいない。完全に俺を、俺だけを見てその女性はそんなことを言っている。
口振りからはどうしたことか、ある程度俺の力について把握している雰囲気があるな、どういうことだ?
その女性──前から見ればやはり女性だった──は、俺を見て嘲る笑みを浮かべている。黒一色のスーツをキッチリと着て、しかもロングコートを肩がけにしている。実に暑そうだ。
茶髪のロングヘアを三編みにして、首から前に垂らしてまるでマフラーみたいで、服装と合わせて女傑感がすごい。
完全に季節感を間違っているのがアレだけど、総じてこう、アウトローの匂いが立ち込めるような人だ。葉巻とか咥えたり虎とか従えてると姐さんって感じがしそう。怖い。
そんな女の人は、続けて俺に言ってくる。
「おかしな気配を訝しんで追ってきたってところだろうが、浅薄。いくら探査者でも新米の小僧が、好奇心だけで動くのは感心しないな? 坊や」
「あなたは……俺だけをここに呼び寄せるために、わざわざあんなことを?」
「半信半疑だったがね。噂の救世主気取りが、どれほどのものか試してみたつもりだが……スキル頼りで状況判断もろくにできない半人前のようで何よりだ。手間が省ける」
「手間?」
散々な言われようだ。俺この人になんかしたっけ?
まあ、俺のことを深く知らない人からすれば、わざわざ不審者に一人で深追いしていった新人ってことで、あんまり良いようには思われないってのは分かるけど。仕掛けた本人が言うなよ、泣くぞ?
ともあれ、ここまで言うからにはこのお姉さん、最初から俺一人を呼び出すつもりでああいうことをしていたみたいだな。自分を餌にして誘き寄せるタイプの荒らしさんというか……率直に、目的が見えてこない。
なんか俺のことを嫌いみたいだけど、そもそも会った覚えもないし。この人の名前すら俺、知らないし。
「あのー、とりあえずお名前のほうだけでもお教えいただいていいでしょうかね。もう御存知かと思いますが俺は」
「山形公平。今年春に探査者となり、そこから破竹の勢いで昇格し名声を広め続ける天才。シャイニング山形の異名を持つ」
「……て、天才はともかくよく御存知で」
「私の弟子が世話になっているからな」
向こう方はどうも俺のこと、それなりに知っている様子。俯いてつぶやく彼女は無表情で、どことなく何か堪えている様子が見える。
えっ、何これもしかしてブチギレる寸前? っていうか、弟子って……!?
「ま、まさか」
「そのまさかだ、救世主気取り」
俺の知り合いに、誰かのお弟子さんって言ったら、まさか。
一気に嫌な予感が膨れ上がる。
そしてそれを肯定するかのように、間髪入れずに女の人は俺を睨みつけ、怒り心頭で叫んだ!
「──私の名は青樹佐智! お前が誑かし洗脳し弄んでいるッ、御堂香苗の不肖の師匠だァァァッ!!」
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