そろそろ隠居しろ500歳!(意訳)
その後、俺の連絡先をチョコさん含めた3人に伝えて、なんやかやと話はまとまったというので三人娘とはお別れとなった。
関口くんもついて行ったりするのかと一瞬思ったけど、さすがに今日はクラス優先みたいで普通に手を振って別れを告げていた。そりゃそうだよね。
「それじゃあ関口さん、山形さん! 今後もよろしくお願いしますね!」
「それでは私たちはこれにて失礼しますね、先生。不束者ではありますが何とぞよろしくおねがいします」
「弟子ってか嫁入りみたい……パイセンマジマニアック」
「俺が言わせたみたいに言わないで?」
ここが野外じゃなかったら、三つ指揃えての挨拶なんかされてしまいそう。ってくらい丁寧にお辞儀してくるアメさんは、弟子という概念について何か勘違いしている気がしてならない。
それ以前にそもそも師弟関係じゃないつもりなんだけど、彼女の中ではもうすっかり俺が先生で、御自身は教え子ということになっているみたいだ。そして俺がなんと言おうと、その立ち位置を変えるつもりはないらしい。
こうと決めたらてこでも動かない。そんな一面もあるんだな、アメさん。
「なんていうか、賑やかな3人さんだったね」
「そうだね……個性的というか、目立つというか」
苦笑を浮かべる梨沙さんに、同じく苦笑いで応えて俺たち。
すっかり演目の終わったホールの前、未だ人はいるけどさっきよりは疎らなそこに設置されているパイプ椅子に腰掛ける。
なんか、やけに疲れたな。人で混雑する中で知らず、緊張しているってのは間違いなくあるんだろう。
加えてマリーさんやソフィアさんに加えて三人娘との遭遇、しかも教えを請われるなんて突拍子もないイベントまで発生したんだ。気疲れもするよね、そりゃあ。
結局、アメさんには《召喚》についてを、ガムちゃんには《忍術》と戦闘時の動きについてをレクチャーさせてもらう流れになったけど……できるかな、俺。
「教えられること自体はあるけど、それをちゃんと教えられるかどうかは微妙だなあ……」
「できるよ、公平くんなら」
思わず弱音を漏らしてしまう俺へと、梨沙さんは優しく微笑んでそう言ってくれた。そっと、膝に置いた俺の手を両手で包み込んでくる。
柔らかくて、ひんやりしてて、けれどたしかに血の通った温もりも感じる。梨沙さんの体温が伝わってくる。そんな体勢のまま、彼女は続けて言った。
「探査者じゃない私が、言えることじゃないかもしれないけど。公平くんはいろんなことを知ってるみたいだし、結構説明とかも上手だし、何より頑張り屋さんだから」
「そうかな……」
「そうだよ。だから大丈夫。公平くんはすごいんだから、自信を持って? ね?」
こんなにも励ましてくれる梨沙さんって、実は聖女とか神みたいな称号を持ってやしないだろうか? なかったら俺から認定させてほしい、この子は女神だ。
優しさが限界突破している。春先からすでに、こんな陰キャ相手にもめげずにコミュニケーションを取り続けてくれただけのことはあり、寛容さと慈悲深さがヤバい。
いい子すぎるだろ……
「────ん?」
「? どうかした、公平くん」
「あ、いやあ……なんでもないよ。梨沙さん、ありがとうね」
「こっちのセリフだよ……いつもありがとう、私たちの暮らしを護ってくれて」
不意を突かれてつい声に出してしまった。訝しむ梨沙さんを誤魔化しつつ、彼女の手を握り返す。柔らかい。
なんだ? こんなタイミングで称号が変わったぞ。ワールドプロセッサの出歯亀はいつものこととして、なぜ今この時なのか。
口の中だけでステータスと唱える。俺にしか見えない、俺だけのステータスが眼前にて表示された。
名前 山形公平 レベル813
称号 新たな時代を兆す萌芽へ、次なる夢を託す時
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 救いを求める魂よ、光と共に風は来た
名称 誰もが安らげる世界のために
名称 風浄祓魔/邪業断滅
名称 ALWAYS CLEAR/澄み渡る空の下で
名称 よみがえる風と大地の上で
名称 目に見えずとも、たしかにそこにあるもの
名称 清けき熱の涼やかに、照らす光の影法師
名称 あまねく命の明日のために
称号 新たな時代を兆す萌芽へ、次なる夢を託す時
解説 時代を拓くのは、その世界に生きる者たちなのです
効果 なし
《称号『新たな時代を兆す萌芽へ、次なる夢を託す時』の世界初獲得を確認しました》
《初獲得ボーナス付与承認。すべての基礎能力に一段階の引き上げが行われます》
《……自身で成すのではなく、これから育とうとする者たちへと託す。信じて、任せる。それが新たな時代での我々の姿です、コマンドプロンプト》
「信じて、任せる……」
小声でつぶやく。意訳すると"そろそろ隠居して、世のことは世の人たちに任せたら? "ってなところだろうか。ワールドプロセッサというかシステム側らしい、現世のことは現世にて収めさせるスタイルのあり方だ。
翻って俺ことコマンドプロンプトにも、俺自身が自力で問題解決をするのでなく、他者に知識なり技術を伝えることで解決させるべき、ということか。
そしてそれを、目下のところアメさんとガムちゃんに対して行え、と。
なるほどなあ……正直難しい案件だけど、ここまで言われたらやってみるしかないよな。
俺は内心で、わかったよワールドプロセッサと答えるのだった。
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