おっとり召喚士と 自称覇王忍者が 弟子になったぞ!
と、ニヤニヤしてその様子を見ていたガムちゃんまでもがここに来て口を開いた。しれっとした声音で、けれど面白がって言う。
「あ、私もアレです。《忍術》についても知ってそうなのと、そもそも動きとか学ぶところが多そうなんで。よろしくお願いしますねパイセン。あっ、それか先生とか呼ばせちゃいます? マニアックっすねセンセー」
「こっちはこっちでノリが軽い! パイセンでいいですそのままの君でいて!」
俺と同じことを考えていたみたいというか、やっぱり第三者から見ても年上美女に先生と呼ばせているに等しいこの構図はマニアックなんだろう。隣で梨沙さんも困ったように愛想笑いしてるし。
しかしガムちゃんまでもかあ。たしかに《忍術》についても知ってるのは知ってるので、教えられるか否かで言えば教えられるって感じだけれども。
やはり師弟関係になるってのが引っかかる。探査者になってまだ5ヶ月くらいの俺が、師匠だ先生だなんだってのはいかにも調子に乗ってる感が出ていてあんまりなあ。
「え、ええと。師弟関係はともかく、アポを取ってもらえれば都合のつくタイミングで知ってることをお話しますから。それでどうです?」
「本当ですか!? ありがとうございます、先生!」
「いや、あのう……」
師弟関係はともかくって言ってるのに、なお頑なに先生と呼び続けるアメさん。意外と熱血してますね?
どっちかというと文系っぽいかなとか思ってたんだけど、実は体育会系だったりするんだろうか。ご実家が神職とは以前に聞いたけど、やっぱり上下関係とか礼儀作法とかに厳しいお家柄なのかもしれない。
ガムちゃんがえぇ……? みたいな顔をしてアメさんを見る。この子、たぶんそういう体育会系なのはあんまり好きじゃなさそうなんだよね。
最終的には何やら覇王的な忍者を志してるっぽいから、我が上に人はおらず!! みたいな考えしてそう。怖い。
「アメ姉、案外熱血……あ、私はそれでいいですよ。山形パイセン的にも、そっちのが気が楽でしょ? 私ほどの麒麟児はそういう繊細パイセンの機微、分かっちゃうんですよねー」
「繊細パイセンて」
ガムちゃんの気遣いはありがたいけど、いかんせん俺への認識がだいぶおかしい。そんなナイーヴなつもりはないんだけど、彼女からしたらそう見えるんだろうか? 謎だ。
自らを麒麟児と言い張る、相変わらずの覇王思想ぶりに思わず遠い目になりながらも。そういうことならと俺は応える。
「それじゃあ、俺でよければ知ってることは教えさせてもらいますよ。連絡先教えるんで、日取りはまた追々決めましょう」
「本当ですか!? ありがとうございます先生!」
「ありがとうございますパイセン、お世話になりまーす」
「ああ、はい、うん……」
あくまで先生とするつもりらしい折り目正しいアメさんと、逆に風船みたいに軽いノリのガムちゃん。なんていうか、性格って出るよねこういう時。
しかし奇妙な成り行きになったな……まさか新米なのに人にものを教えることになるなんて。まあ、レアスキル保持者ということで参考にできる人や資料も少なそうだし、困っているならなるだけ力にはなるけれども。
忍術はともかく召喚については、どこまで教えたもんかなあ。下手に深い理屈まで話し始めると、普通にシステム領域の話になっちゃうからなあ。
あれこれ考え込む俺。勢い余って教えなくてもいいことまで教えちゃうと、概念存在が絡むスキルだから普通に危険な目に遭いかねないんだよね、召喚関係のスキルは。
まあ、このあたりは少し考えるか。切り替えて俺は、関口くんに言った。
「ええと、他に何かあったりする? チョコさんについては大丈夫?」
「いや、特にない。チョコは俺が前まで使ってた、カウンターじゃないほうの剣技を教えるからな。アメとガムについて、山形のほうからレクチャーしてあげてほしい」
「ん、分かった」
なるほど、チョコさんは関口くんとマンツーマンの個別授業か。なんていうか強くなるための努力ではあるんだろうけど、あわよくば的な下心も彼女からは感じられる。
あるいはアメさんガムちゃんもそんなチョコさんに慮るところもあって、関口くんでなく俺のほうに来たのかもしれない。そして周囲の、クラスメイトの女子たちの目が怖い。関口くんに手取り足取り剣技を教わるチョコさんへの、視線が怖い!
「先生って。すごいね公平くん、お師匠様だよお師匠様!」
「いや、師弟関係ってのはちょっと……」
「いいじゃんカッコいいし! へぇ〜、師匠さんだぁ」
と、俺の隣で梨沙さんがそんなことを言う。からかってるとかでなく本音から、俺がアメさんガムちゃんにアレコレ教えることについて感心している様子だ。
なんとなく照れくさい気分になりながらも、そんなことないよと答える。周囲のクラスメイトたちも口々に、俺へといろいろ囃し立てていた。
「山形くんすげぇーな、師匠だってよ、師匠! 漫画みてぇ」
「ていうか本当に探査者なんだね山形くん。なんかその……大人しすぎて存在感がないから、しっくりきてなかったや」
「関口くんとも仲いいし、なのになんで普段はあんななんだろ?」
「ぶっちゃけ影が薄いよね」
ぐぅっ……口さがないお言葉! 大人しくて何が悪いのか!
関口くんの言うとおり、どうやらクラスでの俺はマジで存在感がないらしい。
改めて自覚させられて、地味にショックな俺ちゃんである。
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