年上キラー(対象:150歳オーバーと83歳)
一頻り話をしたあたりで、マリーさんとソフィアさんは俺たちと別れることになった。
そろそろさっき言っていた、古い顔なじみと待ち合わせる時間なので、それに合わせて移動するらしい。
「そんじゃあ公平ちゃん、またすれ違ったら遊ぼうかえ」
「はい。その時はたぶん、リーベたちも一緒でしょうけど」
「うふふ、佐山さんも頑張ってくださいね、いろいろ」
「は、はあ……ありがとう、ございます?」
別れ際にそれぞれからお言葉をいただいて、二人が夜祭の混雑の中に消えていく。マリーさんにしろソフィアさんにしろ元気満々で、すごいパワフルだなあと感心するばかりだ。
特にソフィアさんに翻弄された感のある梨沙さんが、はふう、と息を吐いて俺に近寄ってきた。
「き、緊張したぁ……チェーホワ統括理事さんって、あんな感じの人なんだね……」
「お疲れさま。まあ、いろいろあってようやく一息つけられるようになった人だから。いつもよりテンション上がってるのかもね」
見るからに疲れたご様子に、苦笑を浮かべながらも労りの言葉をかける。初対面の有名人に、ものすごい笑顔でからかわれるのってどんな気持ちだろうか? 考えるだけでも背筋が寒くなるよね怖ぁ……
ソフィアさんがやっと、無邪気に笑えるようになったのは何よりも素晴らしい話だけどね。それはそれとしてあそこまでいきなり距離を詰められると怖いからね。
「でも、すごいね公平くん。本当に知り合いなんだ、フランソワさんとチェーホワさんと」
「いろいろ、縁に恵まれてね。お二人には本当にお世話になったよ」
厳密にはヴァールも入れて三人だけどね、と内心にて梨沙さんに答える。
改めてあの3人には世話になりっぱなしだった。マリーさんには俺の、アドミニストレータとしてのあり方について薫陶を授けてもらったし、ソフィアさんとヴァールにはそもそもの話、大ダンジョン時代の構築を担ってもらえた。
何より最終決戦の時、ともに邪悪なる思念と三界機構に立ち向かったんだ。知り合ったのは最近でも、繋げた絆は深く強いものだと俺は信じている。
「あの人たちがいなかったら、今の俺はなかったと思う。それくらい、いろんな場面で助けてもらったよ」
「そうなんだ……私もお礼、言っておけばよかったな。公平くんを無事に、私たちの元に返してくださってありがとうございました、って」
「梨沙さん……そうだね。あの二人だけじゃなく、いろんな人のおかげだけど。おかげで俺は、こうしてみんなのいる日常に帰れたよ」
顔を見合わせて笑う。たしかに彼女の言うとおりだ。今いるこの日常は、マリーさんやソフィアさんを始めとする多くの人たちに支えられてようやく、たどり着けた今だ。
しっかり感謝と敬意を抱かないとな。二人が去った混み合う人の流れをじっと見つめる。
そんな折、ふと気づくと創作ダンスが終わりを迎えていた。終わりの言葉か、マイクパフォーマンスで若い女の子があれこれ喋り、それに合わせて何度か拍手が起きる。
時刻は18時過ぎ。もうリーベたちも公園に着く頃だし、下手すると間もなく鉢合わせるかもな。
と、ふと横を見ると関口くんとおかし三人娘が俺のほうに向かって歩いてきている。なんなら俺を見て、手を振るアメさんが何やら用件があるのを示している。
なんだろう? 彼らのほうを向くと、梨沙さんも続いて同じほうを向いた。並んで立つ俺たちに、関口くんが話しかけてくる。
「さっきの、チェーホワ統括理事とフランソワさんか……すごいな。生で見ちゃったよS級探査者最長老」
「私も、テレビで見たことあります! S級探査者マリアベール・フランソワさんに、WSO統括理事のソフィア・チェーホワさん!」
「そんな人たちとも知り合いだなんて、さすがシャイニング山形ね〜」
「と、年上キラー……」
続いておかし三人娘もそれぞれ、自分たちが志す道の偉大なる大御所たちを見かけたことについての感想をつぶやいていく。
有名人に会えた感動にはしゃぐチョコさんと、俺がそんな人たちと知り合いなことに感心しているアメさんはいいとしてガムちゃんさあ……年上キラーって年上にもほどがあるでしょ。しかも何ちょっと困惑気味なんだよ、こっちだよ困惑したいのは。
ついジト目でガムちゃんを見ると、この子ったらそっぽ向いて口笛吹きだしちゃった。もうそろそろ日も暮れ始めてるし、蛇が出ちゃうよ?
なんだか微妙に優子ちゃんを相手にしているみたいな感覚を覚えつつ、やれやれと俺は関口くんに応えた。
「マリーさんもソフィアさんも来月末までこっちに滞在してるみたいだし、もしかしたら組合とかでも見かけるかもね」
「マジか? 今度会ったらサインでももらうか……とと、そうじゃなかった。今はお前に話があるんだよ、山形」
「ん、俺?」
意外とミーハーなことを言いつつも、しかし用事は別にあるらしい。おかし三人娘も一緒なあたり、探査者としての話だろうか?
ダンスも終わり、クラスのみんなも周囲に集まってくる。こうなると探査業の話をするのも若干、場違い感はあるので手短に済ませたいところだ。
彼も同じことを考えていたみたいで、やや早口で告げるのだった。
「実はアメとガムが、自分たちのスキルについてお前に師事したいって言ってるんだ。空いてる時間でいいから、彼女たちの師匠になってくれないか、山形」
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