地元の祭りあるある:謎の団体による創作ダンス
そろそろ17時。公園内には屋台がずらりと設置されており、いよいよ調理を開始している。焼きそばやらわたがしやら、目に見えるだけでも美味しそうなものかいっぱいだ。
ことここに至ればクラスメイトも、来ると言っていたメンバーは全員やって来ている。となれば遠慮なし、夜祭の会場をみんなしてうろつけるってわけだった。
「まあ、屋台を巡るにはちょっと早すぎるけど」
「オープニングセレモニーを野外ホールでやるし、見に行こうぜ」
「金魚すくいとかやってるしそっち行きたいなあ」
とまあ、あちらこちらにそれぞれ目移りするクラスのみんな。集合と解散こそみんなでやるけど、その間については概ね自由行動だ。極端な話、一人でうろついても特に問題がないといえばない。
けどまあ、せっかく友達とまとまってこういう場所に来たわけなので、みんなで遊ばないってのはさすがにちょっとねえ? ロンリー山形も大概にしろって言われちゃうよ。
「公平くん、私たちどうしよっか」
「花火も打ち上がるみたいだけど20時からだしなー。それまであっちこっち見て回ろーぜ」
梨沙さんや松田くんたちがやって来る。木下さん、片岡くん、遠野さんも一緒だ。いつものグループでいつものメンツだね。
松田くんは花火にご執心みたいだ。そういえばちょっとだけだけど打ち上げるみたいなこと、夜祭の看板とかに書いてあったな。しばらく見てないなあ、打ち上げ花火。
「なんかフリマとかやってるんだって。行ってみない?」
「関口くんたちと野外ホール行くのもありかも。なんか創作ダンスやるんだって」
「くじ引きしようぜ。一回300円で夢が買えるんだってよ」
次々にあっち行こう、こっち行こうと提案が続く。フリーマーケットにしろ、野外ホールでダンスを見るにしろ、みんなで行くなら楽しそうではある。
ただ片岡くん、夢を買うのはなかなかリスキーな気がするよ俺。子供の頃に行った夜祭で、もらった小遣いほとんど使い切った記憶が蘇る。怖ぁ……
「く、くじ引きは俺は遠慮しとくけど。そうだなあ……とりあえずダンス見て、終わったらフリマ行くとか? フリマはしばらくやってるだろうけど、ダンスは一回きりだし」
「ま、それもそうだな。金魚すくいとかヨーヨーすくいとかも、後から行けばいいしなあ」
「それでいい感じの時間になったら屋台であれこれ買ってさ、みんなで話しながら食べるの。そうしてるうちに花火も上がるでしょ」
「一応ブルーシート持ってきたから、祭りからちょっと離れたところで食べるのもいいよね」
と、用意周到にも遠野さんが大きめの手提げバッグを掲げた。中にはたしかに、ブルーシートが見える。
決まりだな。まあぶっちゃけ俺、ご飯食べながら友達と話せたらそれでいいかなーって程度の無計画さで今回やって来てるし、合間合間のスケジュールについてはみんなに合わせる方針だよ。
くじ引きはちょっと、遠慮しとくけどね!
「よーし、じゃあ野外ホール行こうか!」
ダンスが見たい派の木下さんの号令の下、俺たちグループは歩き出す。同じタイミングで、関口くんたちリア充グループも動き始めるのが見えた。
みんなで入る、夕映えの公園。たぶん俺たちと同じで野外ホールに行くんだろうな。
ちなみに他のグループ2つはそれぞれ、別々の方向に向かっていった。たぶん適当にあちこちうろついていたら、リーベたちのグループ同様、ひょっこり出会うこともあるんだろう。
と、隣並んで歩く梨沙さんが不意に、俺の浴衣の裾をつまんでくい、くいと引っ張ってきた。なんぞやと彼女を見ると、いたずらっぽく笑って屋台を指さしている。
あれは……せんべい?
「公平くん、えびせんべい売ってるよ。一緒に食べよ?」
「お……いいねー。えびせんべいって日常だと、あんまり食べる機会ないんだよねー俺」
「ふふ。私も!」
どうやら小腹がすいていたみたいだ、俺もなので一も二もなく話に乗っかる。
こういうの、たまにしか食べない分余計に美味しく感じるんだよなあ、不思議。祭の雰囲気とか、空気によるものもあるのかもしれない。
梨沙さんと俺が屋台に向かうのに釣られて、松田くんたちも続いて来る。なんなら関口くんたちも一緒だ、カルガモの親子かな?
結果としてそこそこ大所帯になった我ら、東クォーツ高校1年13組のメンバーたちが、挙ってえびせんべいを買うという事態になったのだった。
「えびせんべい、えーっと11枚お願いしまーす!」
「あいよ! 一枚200円だから2200円ねい!!」
威勢よく声を上げるお兄さんにお金をそれぞれ払い、順次せんべいを作ってもらう。まだ17時過ぎで人も少ないからよかった、混んでる時にこんな大人数で行くと、下手するとトラブルだもんなあ。
「ん、公平くん来たよー、はいどうぞ」
「梨沙さん先に食べなよ、俺と同じやつ頼んだでしょ?」
いくつかある味付けの中で、一番オーソドックスなソースと青のりのかかったものを俺と梨沙さんは注文していたはずだ。
それでまずは一つ出来上がったんなら、そりゃあレディファーストってことで梨沙さんに食べてほしいかも。
そういうわけで梨沙さんに、先にどうぞと言ってはみたんだけれど。
「もうすぐ私のも来るし、先に食べてよ。公平くん、今日も探査してたんでしょ? お疲れ様」
「あ、ありがとう」
と、労われながら笑顔で渡されては無下にもできない。
まあたしかに、梨沙さんのももうすぐ来るよなということでありがたく、先にえびせんべいをパリッとかじる俺だった。
美味しい!
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