ナンパできるものならしてみろって感じの集団
マリーさん、ソフィアさんとも別れて歩くこと10分ほどして、俺は家に帰ってきた。今から軽くシャワーを浴びてさっぱりし、改めて着替えたら夜祭に向けて出発だ。
リーベと、たぶん優子ちゃんも祭りに行くんだろうけど父ちゃん母ちゃんは行くのかな? どうなんだろうと考えながらも玄関のドアを開け、中へ入る。
「たっだいまー」
「おっかえりー」
帰ってきての第一声に、返ってきたのは母ちゃんの声。今日はパートも昼過ぎに終わるとか言ってたし、リビングで寛いでいるところだろう。
なお父ちゃんは普通にお仕事で、帰ってくるのは18時とかそのへんになると思う。残業が絡むと別だけど、まあ概ねそんな感じだね。
靴を脱いでリビングへ向かう途中、ドタドタと階段を降りる音がする。優子ちゃんにリーベか、二人分の足音。
あんまりドタバタしてると母ちゃんに怒られるから、ほどほどにしといたほうがいいんだけどなあ。考えていると、やはり予想どおりに彼女らが駆け足気味に玄関までやってきた。満面の笑みを浮かべて、俺の前に並び立って出迎えてくれる。
「おかえりなさーい、公平さーん!」
「おかえり兄ちゃん! じゃーん! どうだこの美少女っぷりー!」
「おう、ただいまー……おお、その格好は!?」
思いもよらない服装で眼前に立つ、美少女二人を目にして驚く。夏らしいといえばもちろんそうなんだけど、そんな服家にあったっけか?
というのも優子ちゃんとリーベはいかにも涼し気な、青を基調とした色合いの、それでいて花柄模様の浴衣に身を包んでいたのだ。紺色の帯が背中できれいに蝶結びされていて、小柄な二人の背後を彩っている。
しかも髪型も、いつもの二人ではなかった。浴衣に合わせてそれぞれ、イメージチェンジをしているのだ。
優子ちゃんは普段ポニーテールなんだけど、それを下ろして大人びた、いわゆる黒髪ロングに整えており。リーベは逆に普段、ロングに流している美しい金髪を頭にまとめ、ヘアバンドで留めていた。
明らかにお祭り仕様の格好で二人、からかうように俺を見て笑っている。
そしてリーベが袖を揺らし、両手を俺のほうに広げて言ってきた。
「じゃーん! かわいいかわいいリーベちゃん、浴衣スタイルですよー! どうです公平さん、思わず心奪われちゃうかわいさでしょー!?」
「いくら兄ちゃんでもこういう時、なんて言ったらいいかくらい分かるでしょ? ほら私たちは? 浴衣が?」
「あ、ああ……二人とも、すごく似合ってる。髪型も変えて、いつもと印象が変わるもんだな、本当。かわいいよ優子、リーベ」
優子ちゃんの微妙に失礼な物言いはさておき、俺だってさすがにこういう時、なんて言えばいいのかくらいわかっている。
きれいだ。可愛くて、美人で、似合っている。心の底からの本音でそう言うと、逆に二人は頬を赤く染め、照れたようにお互い、顔を見合わせ始めた。
「に、兄ちゃんがビックリするくらい素直……! え、こんなサラッと言えちゃう兄ちゃんだったっけ!? タラシ!?」
「こ、こないだまでは照れて恥ずかしがってたかもしれませんけど! 今はいろいろあって精神年齢高くなってますし、何よりこの人、春先から明らかに女性関係増えてますから! い、今なら歯の浮くようなセリフだって素面で言えちゃうかもしれません! キャーリーベちゃんドッキドキ!」
「むごい」
タラシってなんだよ、女性関係ってなんだよ。
いやそりゃたしかに香苗さんはじめ、今年の春から急激に女の人の知り合いは増えたけどさ。それをもってドン・ファン扱いはさすがに風評被害と言わざるを得ない。
そしてそんな、歯の浮くようなセリフなんて仮に酔っ払ってても言えるかよ、関口くんじゃあるまいに。こちとら純真無垢、女の子どころかそもそも友達もろくにいなかった15年だぞ! 言ってて悲しくなってきた。
コマンドプロンプトの頃も含めると、そもそも生命体とのやり取りなんて数百年なかったレベルだ。
そんなぼっちマスター山形プロンプトくんを捕まえて君たち、なんてことを言ってくれるんだか!
「似合ってるのを似合ってるって言って何が悪いんだよ。っていうかそれ、夜祭に着ていくのか?」
「もちろん! じゃなかったら行かないよ夜祭なんてめんどくさい」
「あ、ちなみにこの浴衣はこの間、商店街で買いに行きましたねー。ちょうどその時公平さんは探査に行ってましたから、こういう時に驚かせてあげようってことで内緒にしてました!」
「そ、そうか。まあ驚いたけど」
わざわざ人を驚かせるためだけに買ったのか、浴衣……まあ、リーベも今や探査者だし、金銭面では問題ないだろうし。似合ってるのは間違いないんだから、無駄遣いってわけでもない、のかな?
ていうか、こんな美少女二人が浴衣で祭りに行くのか。ナンパとかされたりしないだろうな? 仮にされてる場面に出くわしたら俺、ちょっと気が気じゃないかも。
優子ちゃんはまだ子供だし、リーベは現世に受肉して日が浅いしなあ。
と、思わず気にかけているとそこはさすがの相棒。リーベが察してきて、俺に微笑みかけてきた。
「リーベちゃんたちがかわいすぎて、ナンパされるとか心配してますねー? そこは大丈夫ですよー、保護者同伴ですからー!」
「今日の夜祭、父ちゃんも来るんだって。あとリーベちゃんが声掛けしてさ、大勢来るんだよ、友達!」
「ああ、なるほど。それならまあ、大丈夫か。マリーさんやソフィアさんもいるだろうしな」
父ちゃんがいるならそこは安心だ。加えて最強無敵おばあちゃんやら、そのおばあちゃんさえ頭が上がらない統括理事様までいらっしゃるんだから、要らぬ心配だったな。
安心して、俺は頷いた。
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