光るしビーム出すし空まで飛んだりする人たち
その後も出てくるモンスター相手に、香苗さんの彩雲三稜鏡はみごとな性能を発揮していた。
初戦で見せた防御力の高さに加えて、変形機能によるシールドの形成。それらだけでない汎用性の高さをも、披露してくれたのだ。
「《光魔導》プリズムコール・セイバーレイン」
「ウボァァァァァァァァッ!?」
架かる虹から降り注ぐ剣。《光魔導》による攻撃が、モンスターたちを襲った。さきほど関口くんが、カウンターの練習がてらとはいえ苦戦していたフルメタルドッグ3体が一瞬にして粒子に変わっていく。
相変わらずの威力と範囲だ。香苗さん特有の、スキルの仕様さえ超えた緻密な出力調整の賜物か、きれいに敵のいた周辺だけをピンポイントで爆撃しての勝利だった。
普通の魔導系スキルだと、どうしても部屋全体をまとめて攻撃とかになりがちだから、この制御能力ってやっぱ地味にすさまじいんだよね。
虹が消えていく。戦闘終了だ……香苗さんを見る。いや、見上げる。
地上ではない。さきほどよりは低い天井の、それでも10mはある高さの天辺に近い位置で滞空しているのだ、今の香苗さんは。
「あんなこともできるのか、あのマント……」
呆然と、関口くんも彼女を見上げてつぶやく。そう、端的に言えば漆黒のマント、彩雲三稜鏡の機能によって香苗さんは今、空中に足場を浮かべてそこに立っていたのだ。
つまるところ、マントの一部を粒子化させて形成した足場だ。シールドのみならず、こうした足場さえも象ってしまえるらしい。
マントってなんだよ、と言いたくなる気もするけれど。むしろここは素材となった各種モンスターの素材の性質のすごさと、それを殺すことなく合成しきったメーカーさんの技術の高さ。
何よりも即座に性能を把握して自在に使いこなす、香苗さんの発想力や応用力を讃えるべきなんだろうな。
香苗さんは宙に浮いたまま、またも彩雲三稜鏡の機能を使った。自分の足場から俺たちのいる部屋の入口地点に向け、三つほど足場を点々と配置したのだ。遠距離形成も可能かよ。
そしてその足場をタン、タンと軽快に飛び移り、やがて俺たちのすぐ眼前に降り立った。
相変わらずのクールな美貌のまま、言ってくる。
「──戻りました。宙に浮く、というよりは高いところに立つといった感覚でしたね。意外に違和感はなかったです」
「おかえりなさい、香苗さん」
多分初めてだろう、宙に浮いた感想を述べる香苗さん。と言ってまあ、感覚としては浮くというか立つだったみたいだ。
重力自体をどうこうはしてないし、要するに形成した足場に立つ形の、擬似的な滞空だからね。そのへんは俺やリーベみたいな飛行能力持ちとは異なるか。
とはいえ、と興奮して彼女は俺に向かって言った。
「これで公平くんの飛行能力にも追いつけます。これまでは地上から星を眺めるがごとく見上げる形で撮影するしかなかった空中救世主様のご尊容を、すぐ近くで撮ることができるわけですね。このマントの一番の素晴らしい力です。こればかりは青樹さんに感謝しなくては!」
「青樹さん、ますます俺に対しての憎しみが増しそうですね……というかそこなんですか、大事なところ」
「他に何かあります?」
真顔で聞かないでください、他にもいろいろあるでしょう。
相変わらずすぎていっそ、清々しくさえある伝道師基準の有用判定に遠い目をするしかない俺。
すると関口くんが目を丸くして、俺に尋ねてきた。
「飛行能力……? 山形お前、空も飛ぶのか。光ったりビーム放ったりする上に?」
「ま、まあうん。香苗さんの彩雲三稜鏡と同じで称号効果やスキル由来じゃなく、この服。神魔終焉結界の機能だけど」
光るのとビーム放つのと同列に扱われてしまった飛行能力。怖ぁ……彼の中で俺がどんどんビックリ人間になりつつある気がする。今更かもしれないけど。
ただまあ、飛行については称号効果やスキルによるものでない、俺自身の持つ固有能力だからね。重力絡みの因果律を操作するプログラムを神魔終焉結界に仕込んだ、歴としたコマンドプロンプトとしての権能なのだ。
とはいえそんなこと彼に言えるわけがないので、まあ普通にコートのおかげとする。
マジかよ、といよいよ胡散くさいものを見る目を向けながら、彼は今度は香苗さんに言った。
「香苗さん。飛行能力を持つ装備って、もしかして結構あったりするものなんですか? いろいろ特殊とはいえ、俺と同級の山形さえ持ってるなんて」
「神魔終焉結界については、公平くんが特殊だからとしか言えませんが……飛行、滞空、滑空などの機能を持つ装備をC級でとなると、難しいと思いますよ。たしかバウンドアメンボというモンスターが落とす素材から、飛行に近いジャンプを可能にする特殊な靴を作ることができるとは聞いたことがあります」
「ジャンプ……飛んだり浮かぶというよりは跳ねる、に近いわけですか。バウンドアメンボかあ、見たことないな……」
どうやら関口くん、飛行能力に興味を持ったみたいだな。バウンドアメンボとやらの名前をスマホでメモしている。
空を飛ぶといえば人類にとって永遠の夢だと聞いたこともあるし、ロマンがあるのはたしかだしね。俺や彼くらいの世代にとっては余計、憧れる気持ちもあるってことなんだろう。
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