戦っていたら傍でカップルがイチャイチャしていた汚いなさすが山形きたない
カウンター剣法の練習をしたい、との言葉どおりに次の部屋。草木生い茂る密林めいた空間において、出てきたモンスターに対しても関口くんはカウンター技を連発していた。
シルバーアーマー。アーマー系のC級に相当するタイプで、名のごとく銀色のフルプレートアーマーが自律して動いているモンスターだ。
以前、A級ダンジョンに潜った際にはこのタイプの最上位、プラチナムアーマーとアンジェさんが一騎討ちしてたな。その時はアンジェさんの実力もあり、スピードにパワー、そしてテクニックを織り交ぜて敵を翻弄し、結果としてノーダメージでの完封勝ちを収めていたけれど……
関口くんは慣れない戦法を構築中ということもあり、相当な苦戦を強いられていた。
「──!」
「インパルスカウンター、ぐっ!?」
敵が繰り出す斬撃を、紙一重で避けてカウンターを放つ。けれどやはりというべきか、タイミングが合わずに切っ先が彼の着る、探査者用のジャケットを軽く裂いてしまった。
耐刃仕様のため肉体自身には傷はなさそうだが、それでも攻撃を受けた感触はあるだろう。代わりにインパルスカウンターもモロにシルバーアーマーにヒットさせたけれど、やはり威力が足りておらず、鎧の表面上に傷をつけるに留まっていた。
「──! ──!!」
「こんのっ……! インパクトカウンターッ!!」
さらにもう一合、彼と敵とが交差する。
今度は突きで攻めたてるシルバーアーマーの攻撃に、合わせて関口くんが剣を振るった。インパクトカウンター、威力を重視した分よりタイミングがシビアな技らしい。
ちなみにさっきのインパルスカウンターはスピード重視で、発動から斬りつけるまでが早いためタイミング的にはそこまで猶予がないわけでもないのだとか。
それでも合わせられていないあたり、彼がカウンターという概念そのものに未だ慣れていないことを、端的に示しているね。
「ぉおおあああああっ!!」
「!?」
むしろ今放ったインパクトカウンターのほうが、より的確にタイミングを合わせられたらしい。まさしく紙一重で刺突を避け、隙を突いて力一杯の斬撃が、シルバーアーマーに直撃した。
大きく裂ける鎧、胴体部分。アーマー系のモンスターは見かけだけで中身はない──文字通り、鎧の中には誰もいないのだ──ため、空洞になった内部が裂け目から見える。
大ダメージだ。香苗さんがつぶやいた。
「今のはいい感じに合わせられましたね。もっとも見る限り、狙い定めてのものでなく半ば、我武者羅に反応した結果のまぐれ当たりという感じではありますが」
「敵の攻撃に合わせるの、難しそうですねやっぱり。カウンターについては門外漢なんでとやかく言えないんですけど、やりづらそうです」
「そもそもカウンタースタイルに切り替えて間もないみたいですからね。多少ぎこちないのは仕方ありません。とはいえ、戦いにおいてはなんの言いわけにもなりえないのですけど」
若干手厳しい物言いだけど、まあこればかりはね。
モンスターが"慣れてないなコイツ"みたいな手心を加えるわけもなく、むしろ未熟な部分は弱点と見て、徹底的に責めてくるだろう。
邪悪なる思念が消えて執拗に殺しに来ることがなくなったとはいえ、戦うからには基本、命のやり取りなんだ。それを思うとやはり、関口くんのカウンタースタイルは現時点では、弱みにしかなっていないと言えてしまえた。
けれど、と香苗さんは続ける。
「ですが……それでも慣れていけば、たしかに関口の武器としては機能し得るでしょうね、カウンターというのは」
「それは間違いありません。《勇者》で強化したパーティメンバーを補佐する役割として、自衛策としてのカウンターは有効だと俺にも思えます。正直、彼が自然とそこに思い至ったのは驚いたってのが本音ですけど」
「"謙虚"という言葉が彼の口から出たことが今日、何よりもの驚きでしたよ」
関口くんが見出した、己の真なる役割。それに伴って出てきた謙虚になる、という姿勢について、俺も香苗さんも割と本気で驚いていた。
まさか、まさかって感じだ。俺にとっては春先から、香苗さんにとっては数年来、見てきた彼がついにそんなふうに言ってくれるようになっただなんて。
和解と、改めての友情を結んだことを経たというのもあり、そうした彼の変化はある程度自然なものだと思えばするけれど。
それでもよもや、あの関口くんがねえ……という、まあ失礼ながら意外な思いは俺たちの中にある。
「関口くん……本当に、探査者としていい方向に進んでいる感じがしますね。俺も見習わなくちゃいけません」
「むしろあなたを見習っての変化、成長だと思いますが……ふふ。切磋琢磨というのはいいことです。相手が誰であれ習うべきは習う。そうした姿勢は私も見習いたいです、公平くん」
お互い、顔を見合わせて笑い合う。関口くんの変化や成長、すなわち進化を受けて、俺たちもさらに前へ進まなきゃな、と励まされる気分だ。
これを、香苗さんの言うとおりの切磋琢磨と言うんだろうな、と関口くんを見る。
……なんか、怒りながら笑顔で俺を見ていた。
「俺を見ながらイチャつくな山城ぉ! 《剣術》勇者剣・インパクトカウンターッ!!」
「山形ですけど!?」
「!? ────」
何やらブチギレながらの大斬撃。今までで一番力の入った、それでいてタイミングも完璧なカウンターがシルバーアーマーを見事、両断した。
粒子化していく敵。勝利を収めたのはいいけど。なんか、矛先俺に向いてませんかね怖ぁ……
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