さすが謙虚な勇者は格が違った
少しだけ攻撃を食らったけれど、問題なく二匹倒しきった、と。結果を言い表すとそのようになるんだけれど、関口くん的には全然、納得のいかない戦闘内容だったみたいだ。
携帯していた消毒液で傷口を浄め、絆創膏を貼って処置をしつつも、その顔は気落ちしている様子だった。
「カウンター……なかなかうまく決まらないな、どうしてもタイミングがズレる」
「最初、技の始動が遅かったですね。二撃目は及第点でしたが、最後のは逆に発動が早すぎた。全体的に、タイミングを見定めきれている感じではないですね」
部屋を出てさらに道を進みながらブツブツと独り言をする。何やら今しがたの戦い方に反省する箇所を見出している様子の関口くん。
そんな彼に、香苗さんが客観的に見た際の感想を述べた。S級探査者としての経験と知識からくるアドバイスはまさに金言で、関口くんも苦笑いしつつもそのとおりだと頷く。
「慣れない相手で、どう来るか読めなかったのはあるんですけど……いえ、言いわけですね、これは」
たしかに、俺から見ても関口くんの技──インパクトカウンターにインパルスカウンターだったか──は、本来発揮し得る威力を十全には、発揮できていなかったように思う。
そもそもカウンターとは、相手の動作に合わせて無防備を突いて攻撃する、ある種の奇襲攻撃だ。攻撃に合わせるのが特に一般的だろう。攻撃の際、どうしたって意識は防御からは逸れるからね。
他にもそもそもの始動を潰すとか、連撃してくる相手の意気を削ぐなど、使いようによってはまさしく後の先、後手にありながら先手を取るスマートな戦い方ができるんだろうけど。
「正直、さっきの関口くんのカウンターはどれも、単なる攻撃に近かったかなって。俺にはそう見えたかなあ」
「だよなあ。特に最初のインパクトカウンターはひどかった。自分でもトチった感覚、あったもんな」
「そっか……でも驚いたよ。まさかカウンター系の戦い方をするなんて」
頭をかいてすっかり弱気に呻く関口くんを、元気づけるように俺は明るく声をかけた。
実際、マジで驚いた。スキル《剣術》の、剣を使った威力を増幅する効果を活かすにあたって当然、自分なりの剣技を編み出しているだろうとは予測していたけど……まさか後の先、カウンターアタックをメインにした剣技を使うとは思わなかった。
ぶっちゃけイケイケの、めっちゃ気障ったらしい技を使うもんだと思いこんでいた。関口くんってば割とナルシストっぽいし、スキル《勇者》を保持する者として、プライドが高いところがあるし。
無論、本人には言えないけれど意外だ。カウンター戦法なんて、割といぶし銀なイメージがあるんだよね、個人的には。
香苗さんも同様に思ったらしく、俺に続けて彼に言う。
「たしかに驚きました。3年前は新人ということもあり、剣技自体編み出していませんでしたが……それでも前衛としてはかなり攻撃的だった記憶がありますが」
「俺も、関口くんのイメージ的にはそっちのがしっくりくるなって」
「ははは……まあ、実際最近なんだよ。このカウンター剣法をメインにしようと思ったのは」
苦笑しながらも答える関口くん。俺たちの言うように、やはりつい最近まではかなり積極的な攻撃をしていたみたいだ。
それをどうしてか、後の先を取って迎撃するというある種消極的な戦法へと切り替えるという。何か理由があってのことなのかと聞いてみると、彼は穏やかに笑みを浮かべ、俺の問いに答えてくれた。
「とにかく仲間を強化しながら前に出て剣を振り、後ろに下がって矢を放ち。俺は《勇者》で選ばれた存在なんだから、当然誰より輝かしくて目立つ位置にいなきゃ損だ、なんて思ってたんだよ、恥ずかしながら。だけどまあ、最近考え直してな」
「ふむ? スタンスを変えたということですか」
「ええ。俺の役割はとにかくスキル《勇者》による、パーティ強化。そして強化されたメンバーの戦いを、要所要所でフォローすること。そう考えてもう少し、謙虚に立ち回ろうと思ったんです」
謙虚。彼の口からそんな言葉が出てきたことに、俺も香苗さんも一瞬、面食らう。
いや、いい加減今の彼は春先の彼ではないってこと、わかってはいるんだけどね。ただあまりにも急激にキャラ変しつつあるもんだから、認識が追いついてない部分があるのも本音だ。
顔を見合わせて息を呑む俺と香苗さんに気づいているのかいないのか、それはさておくにしても。
どこか自分自身に確認するような感じで、半ば独り言のように関口くんは続ける。
「それを考えると、俺は基本的に遠距離からの射撃に徹するべきだと考えた。そしてもし近距離に持ち込まれた場合に備えて、カウンターアタックで速やかに敵を排除、もしくは遠ざけられるようにするべきだ、とも」
「……ああ、なるほど! 関口くんにとって近距離戦闘自体、なるべくしない方向に持っていきたいんだね。それでももし近接戦をしなければならなくなった際の自衛として、カウンターアタックを身に着けようとしていると」
「そうなる。だから多少不自然でも、モンスター相手にカウンター技を連発してるんだよ」
俺の気づきに頷き、笑いかけてくる関口くん。
そうか、一人で戦うと言ったのは、モンスター相手に咄嗟のカウンターを練習したかったからなのか。
そしてそもそも、今の自分の姿を見てくれと言って俺たちの探査に同行を願い出てきたのも……カウンター殺法を身につけるにあたって、俺たちからのアドバイスを欲しがってのことだったのかもしれない。
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