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勇者印のこだわりカウンター

 二匹いるフルメタルドッグのうち、一匹が大きく吹き飛んだ。関口くんの肩口に牙をめり込ませんと飛びかかった途端、剣による斬撃を受けたのだ。

 カウンター。それも、攻撃を受けるギリギリのところから発動したにもかかわらず成立するほどの速度の斬撃だ。

 

 さすがにアンジェさんやマリーさんのスピードとは比べるべくもないけれど、それでもC級探査者としては十分、破格な領域の動きのように俺には思える。

 隣でほう、と香苗さんが感嘆していた。俺に向けて小さく、話しかけてくる。

 

「カウンター狙いの技でしたね。動き自体はまあまあ、といったところですが……タイミングは見誤りましたね。無傷とはいきませんか」

「ダメージ、受けてますしね。それにモンスターも仕留めきれてないみたいです」

「痛……っ」

「グル、ゥア……!」

 

 見ると、吹き飛ばしたフルメタルドッグは大ダメージを受けている。それでも粒子になっていかないことからまだ、戦闘可能ではあるみたいだけど。

 対する関口くんも顔を歪めていた。牙が身体を掠めたのか、ジャケットの肩口が少し破れている。攻撃が当たる寸前にカウンターを入れるつもりが、タイミングを間違えてダメージを負ったらしい。

 

 ダメージ量は敵のほうが大きいが、結果的には痛み分けに近い格好だ。カウンターに驚いて距離を置くもう一匹も含め、しばしの睨み合い。

 緊張感漂う空気の中、なおも香苗さんによる解説は続く。

 

「肉を切らせて骨を断つ、というのをやりたいのでしょう。しかしいかなる理由からのものにせよ、現状では未完成のスタイルと看做すほかありません。一々ダメージを受ける覚悟で放つ技であれば、せめて同格のモンスターくらいは一撃で倒せてほしい。今のままではリスクに対してリターンが低すぎますね」

「まあ、ダンジョン探査は基本的に連戦ですからね。毎度攻撃の度にダメージを受けてると、終盤には息切れしそうで怖くはありますよね」

 

 肩口に僅かな傷、と言ってもそれが積み重なれば大きな負担にもなるだろう。戦闘ごとにダンジョンを出て、回復してから再トライというのを繰り返すのもありといえばありなんだけど……

 難度が上がるにつれて大規模になっていくダンジョンの、探査効率というのを考えるとちょっと非現実的な部分はある。

 それを思うと、毎度ダメージを受けつつのカウンターって戦い方は、ちょっと難しい気がするよね。

 

「グルァ──」

「っ! 《剣術》勇者剣・インパルスカウンター!」

 

 健在なほうのフルメタルドッグが、再度攻撃を仕掛けようと動いた。途端、関口くんは距離を詰めて技を放つ。

 名前からしてまたカウンター関係だな。敵の動きの起点に合わせて斬りかかったか。

 

「でりゃあああっ!!」

「グリュァ──!?」

 

 的確に敵の首を裂き、鼻先に剣を突き立てる。先程のインパクトカウンターにも増してスピード感のある動きだ。

 攻撃を食らう間際のカウンターに比べ、そもそも相手の出足を挫く意味合いも込めての技だろうから、速度がないと成立しないのだろう。

 

 その分、威力は少なめにも見えたが今回の場合、的確に喉と顔面を狙えたので致命傷にはなったみたいだ。技を食らったモンスターが粒子になり、宙に消えていく。

 よし、これで一対一だ!

 

「キャイ──」

「次っ!!」

「グルァアアアアァッ!!」

 

 一体目を撃破し、しかし一切油断することなく関口くんは残るもう一体に向けて構えた。すでに手傷を負っているそのモンスターは、胴から後ろ足にかけて血を垂らしながらもなお、戦意を絶やさずに彼へと吠えている。

 おそらく次の一撃で決着はつくだろう。ダメージの差は歴然、下手を打たなければ問題なく斬りかかって終わりだ。

 

 だが。

 関口くんはそこで一息に飛びかかることなく、やはり正眼の構えをもって静かに佇んだ。完全なる受けの、待ちの体勢だ。

 

「関口くん……?」

「……来いよ、犬」

「ッ──グルァァアアアァァァァッ!!」

 

 戸惑う俺を後目に、挑発するかのようにポツリと、彼は敵へと呼びかける。応えるように、フルメタルドッグは駆け出した。

 ふぅー、と大きく息を吐いて、関口くんは真剣な眼差しでその動きを見る。構えはそのままに、しかし可能な限り脱力してリラックスしようとしている。

 

 これは……カウンター狙いか。だけど、この局面で?

 訝しみつつ、香苗さんが言った。

 

「やけにカウンターにこだわりますね……なんでしょうか、これは」

 

 たしかに、最初とその次のカウンター技は理解できなくもないけど、今のこの状況でわざわざそれを狙う必要はない。普通に一撃入れたらおそらく終わるだろうからだ。

 関口くんの戦闘スタイルだからそこは彼の自由だけど、一体なんの理由があって、敵の一撃を食らうかもしれないカウンターを狙うのか。

 

 そこがよくわからないまま見守る俺たち。そして再び、フルメタルドッグはその牙を彼へと向けた。

 

「グルァアァアァアアアアアッ!!」

「──《剣術》! 勇者剣・インパクトッ、カウンターッ!!」

 

 今度はタイミングがちょっと早いかな? カウンターというには、間合いが遠い気がする。

 とはいえ攻撃自体は当たった。噛みつこうとして口を開けたフルメタルドッグに、関口くんの剣が一閃したのだ。裂帛の叫びとともに、逆袈裟に打ち上げられる斬撃。

 

 ズバッ──と。一刀両断する形となり、分かたれていくモンスター。同時に粒子となって消えていき、やがては何も残らなくなる。

 

「…………くそ。まだまだだなあ、俺も」

 

 悔しげに呻く関口くんを残して、戦闘が終了したのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 某テニヌのトリプルカウンター……?
[一言] カウンターはドンピシャで上手く決まればカッコイイけど、使いどきを見極めないと、ちょっと間抜けっぽく見えちゃうのが難点かな 他人に見せる前にもう少し低級ダンジョンで練習したほうがよかったので…
[一言] 食らったの手の甲なのか肩口なのかはっきりしたまえな関山くん しかしカウンタースキル言う割にオート反撃しないのな 与ダメ増えるだけ?
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