いろいろ罰当たりなダンジョン
お寺のすぐ近くにできたダンジョンだからか、今回のダンジョンは地形情報を読み取り、その内容を変化させていた。内部に入ってすぐに、いつもの土塊でない光景が広がっていたのだ。
草が生い茂る壁。地面には石畳が敷き詰められていて、どことなく和風な薫りが漂う道が続く。そう遠くない通路の先には何やら木造の部屋が見えていて、どことなく遺跡めいた雰囲気がある。
この光景にピンと来て俺は、香苗さんと関口くんに確認した。
「これ、近くのお寺の敷地内……のイメージですよね? 山道を無理矢理通路に収めた感じですけど」
「そうなのですか? 実は私、あそこには立ち入ったことがないのでわからないのですが……」
「そうなんですか?」
意外な言葉につい、目を丸くする。全国的に有名なお寺だから、この県に住んでる人って大体一回は参拝してるイメージがあったんだけど……
香苗さん、元々の生まれ育ちは隣県だからかな。あっちはあっちで有名なお寺や神社がわんさかあるし、わざわざこっちまで来ることもないし、そんなものかもしれないよなあ。
申しわけなさげに頭をかく香苗さん。
その後ろで俺と並んで歩く関口くんが、代わりに頷いた。
「変に通路になってるから違和感があるけど、たしかに敷地内の自然をそのまま、ダンジョン内に持ってきた感じがするな……この分だと部屋には本堂とかあるかもしれないぞ、山形」
「あー……可能性はあるよね。人工物でも容赦なくコピーしてくるし」
なんとも罰当たりな話だけどそのへん、システム領域のやることだからね。普通にコピーされた仏像の前でモンスターが闊歩しててもおかしくない。
格闘ゲームとかの背景みたいだと想像しながらも、俺たちは進んでいく。やがて通路の先、部屋へとたどり着くと、やはりというべきか予想どおりの光景。
見たことのあるお堂だ……木造で中には大きな仏像が鎮座している。間違いない、学校の遠足とか初詣の時に見る、ありがたい感じの仏様だ。
ダンジョン内でこういうのを見るとすごい違和感があるなあ。本物のお堂は山の上にあって、縁側や境内とかもあるんだけどこっちの場合は本堂だけで、草の生い茂る壁に囲まれている部屋の中という不自然極まりない光景だからね。
「グルルルルルルル……」
「ゥウウウウゥウゥゥゥゥ!」
「しかもモンスターもいる、と。ある意味幻想的な光景ではあるんだろうけど」
「お寺の中で戦うって、案外バツが悪い気持ちになるもんなんだな……信心深い質でもないのに、なんか意外だ」
当然モンスターもいて、C級モンスターのフルメタルドッグが二匹、唸りなからも現れた。名前どおり全身鋼鉄のメタリックな犬で、早くて固くて鋭い牙で噛みついてくることから、C級の中では結構手強いとされている。
パッと見お寺の中で戦うという絵面になるため、複雑そうにこぼしながらも関口くんが前に出た。一階層目は彼が受け持つようで、場所柄やりづらそうにしつつもすぐ、戦意を漲らせていく。
「……まあ、戦うとなればしっかりやるんだけどな!」
「おお?」
気炎をあげて彼が動いた。背中に提げていた鞘から剣を抜き放ち、構える。堂に入った動作はスムーズで、何度となく繰り返してきた馴染みの動きなのが見て取れる。
完全に臨戦態勢に入った関口くんは、そして険しい顔つきで叫んだ。
「さあ、いくぞモンスターども! この俺、勇者関口が相手だっ!!」
「グルゥァァアアアァッ!!」
対してフルメタルドッグも吠え、二匹同時に駆け出した。関口くんは剣を正眼に構え、モンスターは牙を剥き出しにする。
戦闘開始だ……同時に香苗さんが俺に向け、説明してくる。
「三年前の関口は剣と、今回持ってきてはいませんが弓を使ったスイッチヒッターでした。距離に応じて武器を変えつつ、スキル《勇者》で味方を強化しつつ自身は臨機応変に攻撃に参加していましたね」
「スキル《勇者》がサポートスキルとして強力ですからね。仲間がいないので強化対象もいませんけど」
「ええ。なのに今回、ソロ戦闘を申し出てきたのです。何かしら当時と比べ、強みになるものはあると思うのですが」
当時新人だった頃の関口くんの戦法や役割について、指導していた教官本人からの解説。
距離を問わない戦闘スタイルや、味方を30%強化するという破格のスキル《勇者》の存在から、彼の役割は基本的にはサポート、支援、そして仲間の強化なのは間違いない。
ところが今みたいに一人で戦う場合、どうしたってメインで切った張ったしなければならないのは当然のことだ。
明らかに不得手なこの状況を、あえて力試しのシチュエーションとして選んだ。彼に何か、香苗さんも知らない秘策があるのか?
「グルガァァァアアアッ!!」
「バウバウバウバウ、グルァァアァァアッ!」
考えている間にも、二匹のフルメタルドッグがいよいよ駆け抜けて関口くんと交錯する。緊張の一瞬。
ついに剥き出しの牙が彼の身体にかかろうとする間際、関口くんは静かに敵を見据え、言葉を発する。
「《剣術》勇者剣……! インパクトカウンター!!」
──そして次の瞬間、モンスターの片割れは吹き飛んでいた。
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