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たまにズケズケ物を言うタイプの陰キャ

 食レポさんの独り言はまさしく正鵠を得るというか、あそこまでブツブツ褒め称えるだけのことはあるお味で大変、素晴らしいものだった。

 だって俺、あっという間に食べきっちゃったもの。食べる前はそんなに腹減ってなかったのに、あんまり美味しいもんだから食べ始めたらガツガツいけちゃったもの。

 

「あー……ごちそうさまでしたぁ……」

『もう二杯くらいおかわりしてよ公平。いけるだろアドミニストレータなら』

 

 いけるわけないだろ、もうお腹いっぱいだよ! アルマに内心にてツッコむ。

 味噌汁も漬物までも食べ尽くして、お茶を呑んで一息ついての至福の完食宣言。満腹中枢が心地よーく満たされている感覚は、たとえるなら長期休暇前の最後のホームルームを終えて下校する時の解放感にも似ている。

 

 最高だった……久しぶりにカツ丼を食べたけど、いつになく美味しかった。

 そりゃあ食レポさんもあんだけ食に没頭するよなと、見ず知らずの彼女に不思議な共感を抱きさえする。

 何はともあれ、美味しかった。

 

「ごちそうさまでした。いい味でした」

「やっぱりこの季節はこういうのが好きです。ごちそうさまでした」

 

 香苗さんと関口くんも相次いで食べ終える。冷麺にしろ冷やし中華にしろすっかり食べ終えていて、食べ残しなど一つもない。二人にとってもここの料理は、満足するに足るものだということだろう。

 3人揃って探査前に、素晴らしい充足体験をできたみたいだ。深い満足とともに、一同席を立つ。お会計を済ませて店を出ると、香苗さんが言う。

 

「ではそろそろ行きましょうか。今回のダンジョンくらいであれば、かかっても往復で2時間未満といったところでしょうか」

「そうですね。夕方までには普通に終わるでしょう」

 

 3階で8部屋、加えて香苗さんの彩雲三稜鏡の試運転や関口くんの活躍を見せてもらう非定常的な探査活動になる。となればいくら浅い構造のダンジョンとはいえ、概ね1時間から1時間半くらいはかかるだろう。

 つまりは今が昼1時過ぎなので、概ね3時前には終わるかな? って感じだと予想できた。夜祭に向けてクラスメイトたちで集合するのが夕方5時なので、家に帰って支度するだけの時間は十分にあるね。

 同じことを考えたのか、関口くんが俺の肩を叩いてきた。

 

「夜祭には参加できそうだな。来るんだろ?」

「あ、うん。結構みんな、来るみたいだし」

「俺の言う話じゃないけど、たまには佐山さんや松田以外にも話しかけてみてもいいんじゃないか? さっきも言ったけどお前、なんでかクラス内だと妙に存在感ないし」

「そ、そう? ていうかそんなに存在感ないんだ、俺……」

 

 電車の中でも言われたけど、改めて念押しするかのように言われると結構ショッキングだ。そんなに地味なの? 俺ちゃん。

 加えて華やかなイケメンに再三言われるのが余計にダメージが大きい。そりゃ、クラスどころか学校中の人気者に比べるとさあ。俺だってさあ。

 若干沈む俺に、呆れた吐息を漏らして彼は続けて言う。

 

「落ち込む話でもないと思うけどな。ま、考えとけよ。なんなら俺たちのグループに話しかけてきてもいいぞ」

「えぇ……? 関口くんとこのグループってリア充陽キャばっかじゃん怖ぁ……」

「そのグループにいる俺に面と向かってよく言えたなお前……ていうか佐山さんと松田もそういう類のキャラだろ……」

 

 図太いんだか繊細なんだかよくわからん、と苦笑いする関口くん。いやでも実際怖いしなあと俺も、愛想笑いで応える。

 こういう話を、彼とスムーズにできる日が来るとは思ってもいなかったなあ。なんだか感慨深いや、としみじみ思う。

 

 彼ともこのくらい打ち解けられたのだから、他のクラスメイトたちともきっと、打ち解けられる気がする。そう思うとなんだか、希望が見えてきたぞ。

 夜祭に向けて若干、期待の高まる俺。さしあたってはまず、目の前の仕事をこなそうとダンジョンの入り口へと向かう。

 

 レストランを出てすぐ近く、駐車場の奥まったところにぽっかり空いた穴。コーンとバーを取り除き、俺たちは穴を囲むようにして中を覗き込む。

 最終確認とばかりに、香苗さんが声を上げた。

 

「それでは、探査を開始しますが……申しわけありませんが今回は、公平くんにはお休みいただく形になります」

「はい。香苗さんの彩雲三稜鏡のテストと、関口くんの実力を見学するんですね」

「ええ。公平くんには客観的に見た、それぞれへのコメントなどお願いできれば助かります。こういう時、第三者の目は大切ですからね」

 

 ブレスレットに変形しているマント、彩雲三稜鏡を撫でつつ彼女は言う。今日の探査においては主役は俺でなく香苗さんと関口くんだ。

 かつての師から受け取った、最先端の技術で創り上げられた探査用の装備のテスト運用をする香苗さん。そして俺と香苗さんに向け、今の自分の実力を知らしめたい関口くん。

 それぞれがそれぞれに目的を持って、今回の戦いへと赴く。

 

 いずれにせよ今回のダンジョンはそうしたデモンストレーションには格好の規模と難度だろう。俺も、勉強させてもらうつもりで深く頷く。

 いよいよ突入だ。香苗さんと、続いて関口くんがダンジョンへと入っていく。

 二人の活躍を期待しつつも、追うようにして俺も内部へと侵入していった。

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― 新着の感想 ―
[一言] みんなの前で1回関口君とプロレスすれば一気に打ち解けるよ?
[一言] >他のクラスメイトたちともきっと、打ち解けられる気がする 頑張れ山形君、どこか魅力のある陰キャへの第一歩!
[一言] アルマ「やってみせろよ、アドミニストレータ!」 シャイニング「なんとでもなるはずだ!!」 関口君「お代わりだと!?」 という謎の構文が頭を掠めたが幻聴ですた 陰キャ気味ではあるが気が弱いわ…
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