言われて初めて気付くこと
2021/11/27 感想欄より指摘を受け一部修正
逢坂がどういう意図で御堂に頼ったのか、どうやって合法的に上級モンスターのいるダンジョンに潜るつもりなのかを会話中にて記載
「先程は失礼な態度、本当にすみませんでした」
栗律中学校から少し離れて繁華街、ファストフード店にて落ち着いた俺に向け、逢坂さんは深々と頭を下げて詫びてきた。
痛恨の表情とはこういうものかと言いたくなるくらい、沈痛な面持ちで己を恥じたように自責を吐き出している。
「山形さん……いえ、公平さんに優子さんも。焦りのあまり、私は人として恥ずべき輩になっていました。今、自分で自分を心底、軽蔑しています」
「あっ、いや、まあ過ぎたことだし。ちゃんとこうして謝ってくれるなら、ねえ兄ちゃん?」
「そうそう、気にし過ぎは良くないよ〜」
失礼には憤るがしっかり謝られると許す優子ちゃん。というか、かなりガチ目の謝罪に逆に動転している。落ち着け、君は今回、正しいことを言ったんだから。
俺は俺で、そもそも大して気にしてなかったのもあるし軽いもんだよ。それに、こうしてきちんと謝罪してきた子に、何もとやかく言うつもりなんてないからね。
兄妹で謝罪を受け取り、許して、そして話が始まった。
今回のことの発端、逢坂さんが香苗さんを頼ろうと優子ちゃん経由で俺にまで縋ろうとした、その理由についてだ。
それがまた、何とも重いお話だった。
「師匠の、仇を取りたいんです」
「師匠……? 探査者の?」
「はい。望月宥さんという、D級でしたが立派な探査者でした。研修の時からずっと、私はその人のお世話になっていたんです」
探査者としてだけでなく、人間としてさえ、ちょっとした憧れさえ抱いているのかもしれません。なんて、遠い目をして逢坂さんが語る。
3日前。彼女の師匠である望月さんが、探査に乗り出していたダンジョンにて消息を絶った。複数人のE級探査者と組んで、隣町の森の中にできたダンジョンへと潜ったらしいのだ。
恐らくは引率役を引き受けていたのだろう。逢坂さんの話だと、彼女は相当に面倒見の良いお人好しだったみたいだ。だが、今回はそのお人好しさが仇となった。
「そのE級ダンジョンの最深部一つ手前の部屋に、本来いるはずのないB級相当のモンスターがいたんです」
「E級ダンジョンに……B級のモンスターが!?」
「はい。《リッチ》という、アンデッド型のモンスターです」
E級ダンジョンにB級相当のモンスターとはまた、とんでもない話だ。即死級の罠も同然じゃないか、そんなもの。
しかもリッチだって? 前に香苗さんから聞いたこともある、結構ヤバいらしいやつじゃないか。なんだってそんなのが……
「組合の、後からの調査で判明したことなんですが。どうもそのダンジョンの近くにかつて、B級ダンジョンがあったらしいんです。とっくに踏破され、今は欠片も残っていませんけど」
「……まさか、生き残りが別のダンジョンに河岸を変えた?」
「《亡命》と、この界隈では呼ぶそうです。中々見られない、レアな現象とも」
何がレアなものか。引き当てて嬉しくないレアなど、ハズレみたいなものじゃないか。
隣の優子ちゃんも青ざめている。探査者じゃなくとも、本来そこにいるはずのモンスターより遥かに格上のやつが待ち構えていた、なんてゾッとする話に決まっている。
しかし、そこまで裏が取れているとなると、望月さんの率いていた探査者の誰かは生還できたことになるな。
そこを聞くと、逢坂さんは更に、辛そうに顔を歪めた。
「……先程も言いましたが、望月さんはお人好しで、面倒見の良い人だったんです。E級の探査者たちを逃がすために、一人で格上に時間稼ぎを仕掛ける、くらいには」
「……そしてその時間稼ぎは功を奏し、逃げ延びた探査者によってそのE級ダンジョンの正体が明るみになった、と」
「敵を討ちたいんです」
あらかたの事情を話し終えて、またしても逢坂さんは頭を下げた。謝罪のためでない、お願いのためだ。
望月さんをおそらく殺した、そのリッチを、自らの手で討ちたいんだろう。復讐と……ケジメと、使命感と。師匠の弔い合戦を望む弟子らしい、正しく恩讐がその姿には宿っている。
「調査が終わったのはつい先日です。今はまだ、誰も探査には踏み切っていないようですがそれも、時間の問題でしょう。早く御堂さんの協力を得て、探査に乗り出さなくては」
「上級探査者のパーティに参加する形で、リッチ討伐に参加する気か……君に、戦う力はないと聞いた。運動が苦手で、まともに戦闘用のスキルを得られないほどだとも」
「……恥ずかしながら、そろそろ内勤に異動しようと思っていました。ですがサポーターとしてならば動ける自負はあります。直接トドメを刺せなくたって良いんです、奴の消滅する瞬間を、直に見届けたいんです」
「だから、香苗さんの力が借りたかった、か」
事情を聞き終えて、俺はふうむと唸り考える。
相当厄介な話だ、これは。心情的には逢坂さんに寄り添う気持ちではあるのだが、冷静に考えた時、探査者としてはリスクの大きな案件であると判断できてしまう。
彼女の言っていることはつまり、香苗さんに、E級探査者を引き連れてB級モンスターを倒してくれという依頼に他ならない。既に他の探査者を殺しているであろう化物を、言ってはなんだが足手まといを抱えさせたまま倒せと、そう言うのだ。
冗談ではない。ミイラ取りがミイラになったらどうするつもりだ。
師の仇討とは立派な心がけかも知れないけど……非情な言い分になるが、それは生きている誰かを危険に巻き込んでいい理由には、絶対にならないはずだ。
「……逢坂さん。君の志は立派だけれど、あまりに危険すぎる。望月さんの弟子でなく、一人の探査者としてよく考えるんだ」
「っ、それ、は」
「君の復讐に、よしんば香苗さんなり他のA級なりB級なりの助力を得られたとして。《君を逃がすためにその人たちが足止め役にならない》、保証はないんだよ」
「…………っ!!」
彼女の師匠を半ば引き合いに出す、卑怯な物言いだったかもしれない。だけど、そういうことなのだ。
構図は一緒なら、起きることも一緒になる可能性がある。そのことを彼女は、心底から理解していて今の提案をしていたのか?
……していなかったんだろう。可哀想に、顔が真っ青になっている。
自分が何を言っていたのか、聡明に理解してしまった逢坂さんは、茫然自失としてその場に項垂れていた。
昨日の21時に投稿できなかったのでその分の投稿です
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