金のあるところに人はやってくるんです
単なる検査ばかりかお祓いまで済ませてようやく、ある程度の安全性が担保された青樹さんからのプレゼント、彩雲三稜鏡。
とはいえ香苗さん的には使う気になれなかったそうだが、検査をしてくれたメーカーや研究所の人たちから説得されて、とりあえず使ってみることにしてみたらしい。
苦笑いも交えて彼女は語った。
「東洋探査素材工業の知人からは、せっかく作ったのだから思う存分使ってくれと。企業からの正式な依頼として、データ収集まで頼まれましたので……断るのもさすがに失礼な話ですからね」
「メーカーさんに向けて、そちらの製品は信用できないって言ってるようなものですからね……」
「WSOの研究所からも、モンスターの素材を複数組み合わせた合成繊維装備は今後の界隈のシーンを一変させる可能性があるから、私が使うことには大きな意義がある、と言われましたね」
肩をすくめる香苗さんだが、そうした人たちの言い分は俺にも理解できるところだ。
せっかく腕によりをかけて作ったワンオフ装備、やはり使ってもらいたいのがメーカー側の本音だろうね。向こうからしてみれば持ち込まれた素材はA級のレア物ばかり、しかも最新技術をふんだんに使用して拵えた、自信の一品だろうし。
研究所からしても、今や話題の人である御堂香苗が最新技術の結晶たる彩雲三稜鏡を使って活躍するならば、それは探査者界隈に新たなムーヴメントが発生すると読んでいるのだろう。
モンスターの合成繊維を使った新装備群は、仮にあのマント並のカタログスペックを標準的に出せるのであれば……本当に探査者業界に激震が走るのは想像できる。
本当に、界隈を一変させてしまうかもしれない新技術。その先駆けにぜひ、香苗さんになってほしいと考えているのかもしれなかった。
駅にたどり着いて切符を購入。改札からホームへ出て電車を待つ。
時刻表的にはもうじきに、電車が来るはずだ。件のダンジョンは駅からそう遠くないところにあるので、問題なく発見できるだろう。
構内に駅員さんのアナウンスが流れ始める中、香苗さんは続ける。
「私としては、我らが救世主に牙を剥く輩からの品ということで複雑なのですが……青樹さんのそうした言動はともかく、メーカー側が技術の粋を凝らして作り上げた傑作とまで言う代物です。それを無碍にするのは、筋が通らないと思いまして」
「そりゃそうですよ。青樹さんのこととその彩雲三稜鏡については、分けて考えるべきです」
「ええ。ですので今回、使用してみる気になったのです。使い心地や実際の性能をたしかめて、よさそうならば普段使いにしたいとは思います」
そう言って、細く長い美しい指で彼女はブレスレットを撫でた。
訣別した師匠からの贈り物ということもあり、内心では言葉以上に複雑な思いがあるはずだ。けれどそれでも、実際に作ってくれた職人さんたちの想いを重んじてくれた彼女を、俺はとても立派に思うし尊敬する。
「…………よかった」
関口くんが隣でホッと、静かに息を吐いてつぶやいた。
彼にとっては青樹さんも、悩んでいた時に教えを授けてくれた恩人だろうからね。おそらく純粋な厚意からのプレゼントさえ受け取ってもらえないでは、さすがに辛い話ではあったろう。
と、電車が来た。乗り込み、二駅移動する。
夏休みもあってか車内は結構人がいる。なんなら浴衣を着ているアベックもしくはカップルもいるのが羨ましいぐぬぬ、あるいはお寺デートとかしてから夜祭に参加するのかもしれないぐぬぬ。
「? どうした山形、って、あぁ……」
「何その反応」
思わずジェラってるのが表に出てしまった。怪訝そうに俺を見た関口くんが、視線の先のカップルを見て何やら納得している。
そしてどこか哀れむような、呆れるような目で俺を再度見て、小声で言ってきた。
「お前、モテなさそうだもんなあ」
「直球!?」
「いや、誤解するな? 実際にモテてるかどうかって話じゃなくて、振る舞いがモテなさそうって話だよ。クラスでもお前、挙動不審な上に不自然なくらい影が薄いしな」
「き、キョドってるのはともかく、ふ、ふ、不自然に影が薄いって……」
なんて言い草だ、いたいけな陰キャを言葉でいじめてくるよこの陽キャ! 思わず声が震える。怖ぁ……
た、たしかに、俺ちゃんってばクラス内ではぶっちゃけ、影は薄いよ? 友だちだっていつものグループの人たちだけだし、それ以外のクラスメイトとはあんまり、世間話さえしないけれども。だからってそんな、どストレートに言わなくたっていいじゃん。
「お前が探査者なのはみんな知ってるんだし、俺みたいにおこぼれ目当てで寄ってくる人だっていてもおかしくないもんなんだがなあ。なんでこう、妙に目立たないのか」
「おこぼれって、えぇ……? そんなあからさまな人いるの?」
「金には困らないのが探査者だぞ? いないわけないだろ。ひどい時には親からの命令で擦り寄ってくる子たちだっているよ」
「こ、怖ぁ……」
知りたくなかった、そんなドロドロ。
陽キャ代表、関口くんも人間関係にはいろいろ、大変なものを抱えているみたいだ。その上でなお人と関わり続けるんだから、そういうところは本当にすごいなあって思う。
俺には真似できそうにないや。
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