ちょっと不思議なパーティ探査
さて、話もひとしきり終わったというわけで、俺と香苗さんは予定どおりダンジョン探査に向かうことにした。
今日は夕方からクラスのみんなで夜祭に参加するから、探査って言ってもそんなにガッツリこなすつもりはない。軽めのを一つやったら家に帰って支度するつもりだ。
「というわけでみなさん、我々はこのへんでお暇させていただきます。お疲れさまでした」
「こちらこそ。貴重なお時間を割いていただき、まことにありがとうございました」
香苗さんと斐川さんが挨拶を交わし、一同立ち上がる。
話を聞くにこれから斐川さん、荒巻さん、早瀬さんは三人娘と面談するとのことだ。俺たち相手にやったような経緯説明と謝罪と、今後についての意思確認を行うのだとか。
「まあたぶん、今後も関口をメインに据えての指導とはなるでしょうが。今度は我々のうち最低でも一人は常時、彼についてフォローできるようにしますよ」
「ま、下手さえ打たなきゃ何も言うつもりはないですが。関口、今のあんたならきっとやれるさ」
「……はい! 精進します!」
互いに今度こそ、ちゃんとした指導体制を整えようと息を合わせる指導陣。力強く頷く関口くんのやる気満々ぶりに、これならきっと大丈夫だろうと安心する。
これで、三人娘さんたちについては解決だな。なんだかんだ、俺にとっても勉強になるいい経験を積ませてもらった。いつか、万一にも誰か新米さんに何かを指導する、なんてことになった時、今回のことはしっかりと活かさせてもらおう。
「……あの、香苗さん。山形」
解散して、俺と香苗さんの二人で受付へと向かおうとする。と、そこで関口くんが声をかけてきた。
先程までのラフな私服に、上から探査用の防護ジャケットを装備している。背中には鞘に収めた剣を提げていて、今からダンジョンに潜りますよって感じの服装だ。スボンもよく見ると探査者がよく使う、防刃用の分厚いズボンだ。暑そう。
そんな彼が呼び止めてきたものだから、俺たちも怪訝そうに立ち止まる。香苗さんが戸惑いもあらわに応えた。
「? どうしました、関口」
「これから探査に行かれるんですよね? もしよければなんですけど、俺もご一緒させてもらってもいいですか?」
「関口くんが、俺たちと?」
意外な提案。てっきり彼も夜祭に参加するもんだから、今からは何かしら用事でも済ますのかと思っていたんだけど。普通にクラスのグループチャットにも彼、いの一番って感じに参加表明してたし。
思わず香苗さんと二人、怪訝に彼を見る。何やら笑って関口くんは、続けて言った。
「二人には一度、今の俺の実力を知っといてほしいと思いまして。山形はもちろん香苗さんも、探査者としての俺については3年前に見たきりでしょう?」
「たしかに、それはそうですが。なぜあなたの実力を我々が知る必要があるのでしょう? 気を悪くしたらすみませんが、純粋に意義が見えてこないといいますか……」
困惑しきりに香苗さん。なんでわざわざついてきて、自分の実力を見せるつもりなのかがわからず、ただただ首を傾げている。
俺的には、彼の探査する姿を見てみたいところはあったりする──そもそもいずれ、彼と一緒に探査がしてみたいとはかねてから願っていた──ので、問題ないんだけれども。
いきなり言い出されたらそりゃ、戸惑うよね。
関口くんへの隔意とかそういうのを抜きにハテナマークを浮かべる彼女に、彼は恥ずかしそうに頬をかいて笑った。
「その……俺のこれからの目標は、山形みたいな本当の探査者になることですから。二人には今の俺を知ってもらって、そこからどんどんと成長していく姿を、どうか見定めてほしいと思うんです」
「俺みたいって……もうちょっと目標は高く持ったほうが。ほら、それこそ香苗さんとか」
「強さの話だけじゃないからいいんだよ。探査者としての姿勢、在り方。今までずっと目を背けてきてしまったものに、お前を通じて向き合うことに決めたんだ」
「関口くん……」
澄んだ瞳で俺を見る、彼の姿はもう立派に探査者な気しかしないんですが。まあ本人がそう言うんなら、それは関口くんの意志を尊重するしかないしね。
探査者としての姿勢とか在り方なんて、そんな大層な話で俺を目標に設定されるのも何やら大役というか、責任重大だよなあ。
関口くんのそうした言葉に、我らが伝道師香苗さんもさすがに何か、思うところがあったんだろう。
彼をじっと見つめ、不意に小さく息を吐いた。軽く笑みを浮かべて、仕方ないですねと告げる。
「私は構いません。今日はどのみち探査するダンジョンは一つきり、それも私の新装備の試験運用も考えている程度のものです。ついでにあなたの今の実力とやらも、見ることもたまにはいいでしょう。公平くんはどうです?」
「俺はもちろん、断る理由なんかどこにもありませんよ。関口くん、俺のほうこそ君の戦いを学ばせてほしい」
「無茶言うなよ、ビーム出したり光ったりするやつの参考になんて、なれそうにもない……でもありがとうございます、二人とも」
彼との探査を断る理由なんて当然ながらない。俺の言葉を受けて、苦笑いしつつも関口くんは頷いた。
となれば今日は俺、香苗さん、関口くんの変則的なパーティでの探査だな。関口くんの実力、見せてもらうのが楽しみだよ。
「それでは行きましょう。探査者として今日も、ダンジョンを探査し踏破します」
「はい!」
「わかりました」
香苗さんの促しに、俺と関口くんが頷き応える。
そして俺たちは談話室を出て、組合本部の受付へと向かうのだった。
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします
書籍1巻発売中です。電子書籍も併せてよろしくおねがいします。
Twitterではただいま #スキルがポエミー で感想ツイート募集中だったりします。気が向かれましたらよろしくおねがいします




