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黒歴史になったばかりの過去に殴られる!

 なぜ、指導員として新米だった関口くんにおかし三人娘の指導を一任したのか。彼らは何を考えていたのか。

 斐川さんは関口くんと香苗さん、そして俺を順番に見て、やがてポツポツと語り始めた。ちなみに、ここからは話しやすさ優先で、斐川さんには敬語のほうは崩してもらっている。

 

「言いわけにしかならんが、一応はっきり言わせてもらいたい。あの三人を受け持った時点では特に問題のない、できた新人たちだと思っていたんだよ。俺たち四人、全員がな」

 

 初っ端の断言。おかし三人娘について最初の時点では、至って普通の新人たちだと思っていたと彼は言う。それに追随して他の三人──関口くんさえ含めてだ──も、頷く。

 まあ、そこは理解できる。あの三人の問題点は実戦で初めてわかる類のものではあるし、そもそも日常においては別に仲も悪くないってか、むしろ意気投合してるから3人で活動しようってなってる人たちだからね。

 

 それがまさか、ダンジョンに潜ると途端にギスギスしだす瓦解寸前の様相を呈するだなんて、見抜けってほうが無茶な話だ。

 

「なんなら鹿児島、新潟の両名についてはレアスキルを持っていたこともあり、山形くんに続いての有望株かと期待さえ抱いたほどだ」

「鹿児島さんの《召喚》と新潟さんの《忍術》。両方とも早々お目にかかれないスキルだったからね。ゆくゆくはA級、果てはS級まで行くかも、なんてさ。なんだかワクワクしたのを覚えているよ」

 

 遠い目をする斐川さんに、隣で荒巻さんが肩をすくめて苦笑い。なるほど、この人たちはこの人たちなりに、あの三人娘さんたちを相当買っていたんだな。

 たしかに《召喚》にしろ《忍術》にしろレアなスキルだ。特に《忍術》なんて、大ダンジョン時代全体で見ても数えるほどしか保持者がいないとも聞くし、そんなのを持つガムちゃんを知ればそりゃ、探査者としてはテンション上がるよ。

 

 こう言うと話題に登らないチョコさんが不憫な感じにもなるけど、彼女は彼女でS級探査者の動き方を、一目見ただけである程度エミュレートできるバトルの申し子みたいなところあるしな……

 そのことを知ればこの三人も、彼女を見る目が変わるかもしれない。まあそこのところは追々わかるだろうけど、とにかく今のところは指導教官たちにとり、アメさんとガムちゃんってのは期待の新人さんそのものだったわけだね。

 

「三人娘の、特に徳島の希望もあり、メイン指導は関口に任せることにした。その時点では問題なさそうだったし、関口も初めての指導だ。傍目に見て仲のいい三人なら、なんだかんだ彼ならうまいことやるだろうと、そう考えた」

「関口くんもやる気満々でしたからね。"俺が彼女たちの師匠になってみせますよ! そしたら俺、もしかしたら未来のS級探査者たちの育ての親になりますかね!? "なーんて、指導員というか完全に師匠ポジションを狙ってましたし」

「ちょっ、は、早瀬さん……!」

 

 おおっとここで思わぬカミングアウト。関口くんったら、指導員として三人娘に指導する先に、彼女たちの師匠というポジションを狙っていたみたいだ。

 早瀬さんがのほほんと語る彼の言葉は、思いっきり地位と名声に対する下心が感じられていっそ笑えるレベルだ。チョコさんから想いを寄せられていることもあってありえない話じゃないんだろうけど、にしたってもうちょっと欲目を隠せとは言いたくなる。

 

「関口……」

「関口くん……」

「わ、若かったんだあの頃は! ついでに馬鹿だったのも、まあ認めますけど……っ」

 

 俺と香苗さんの、呆れた目を浴びて関口くんが明後日のほうを向いた。顔を赤らめて恥じ入る様子で、苦々しい表情を浮かべている。

 今となってはさすがに、彼自身も自分がどれだけ露骨だったかというのは自覚しているみたいだけれど。それが逆に、そこに至るまでの彼がいかにアレな感じにすさまじかったかを物語っていて非常に怖い。

 香苗さんが、ボソリと隣の俺にだけ聞こえる程度の声音で、つぶやいた。

 

「……そんな調子で私にも、愛弟子だのと自称してひたすら例の思想を勧誘してきていたんですよ、関口は。私が彼を苦手な理由、ご理解いただけますでしょうか」

「怖ぁ……」

 

 前にも言ってたな、香苗さん。昔の関口くんが、わざわざ嫌いだと知っている彼女に対してしつこく真人類優生思想を勧誘していたと。そこに感じられる下心があまりにもひどすぎて、苦手になったと。

 香苗さんの愛弟子ってポジションや、あるいは香苗さんそのものへの執着とかも混じっていたのかもしれない。とにかくそうした露骨な絡み方をしたのも、かつての関口くんのヤベーやつ感を補強していると言えるだろう。

 

「……ま、関口があの三人の、ってか徳島の師匠になるってのは悪くなさそうではあるんだが。他2名はともかく徳島は関口の戦闘スタイルから学べるところも多いし、何より相性がよさそうだしな」

「逆に鹿児島さんと新潟さんとはあまり相性はよくなさそうだ。教えることも……レアスキルについては私らもそうだけど、大したことは教えられないしな」

「《召喚》のほうなら私の師匠に聞けばなんとでもなりそうですけど、《忍術》はあまりにレアすぎてたぶん、お手上げですね。完全に書物から情報を掻き集めるしか方法がない感じです」

 

 斐川さんたちが口々に、仮に関口くんが本気で三人娘の師匠をするなら、ということについてあれこれコメントしていく。

 彼へのフォローでもありアドバイスでもあるんだけど、ヤベーやつ時代の話をした直後なので死体蹴りみたいなものでもある。

 現に耐えかねて、関口くんてば両手で顔を押さえて机に突っ伏して震えているし。おつらい……

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― 新着の感想 ―
[良い点] おつらい…! [気になる点] 斐川さんくらいのベテランになれば、むしろやる気満々関口くんの方に危うさを感じてフォローしそうなものだけど!
[一言] 黒歴史のイキリエピソードを知り合いに聞かれるとか、なんて地獄
[一言] 関所くんにはこの言葉を送ろう インガオホー!
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