まあまあ長い一日の始まり
そんなこんなで二日後の朝。今日は大忙しの一日だ。
朝からは香苗さんと二人で関口くんや彼の先輩さんたちとお話、そのあとにはダンジョン探査を少々。
そうして夕方から夜にかけては近所の公園にてクラスメイトのみんなと一緒に夜祭に参加するという、夏休みで仕事以外にやることがなさすぎる身の上にしては、久しぶりに朝から晩までスケジュールを立てての行動をする流れになっていた。
「よーし、気合十分! 今日も頑張るかー!」
「一日の始まりを迎えて心身ともに充実した溌剌さを見せつける救世主様! フレッシュな若さがなんという尊さ! バッチリビデオに収めておりますのでなにとぞご安心くださいませ!」
「何一つ安心要素がありませんけど!?」
神魔終焉結界を着込み、背筋をぐいーって伸ばす俺にレンズ越しのガン見。全力でいつもどおりの伝道師ぶりを発揮するのは御存知のこと、香苗さんだ。
何がそんなに楽しいのやら満面の笑みを浮かべる彼女に、俺はもちろん行き交う人たちもああ、またかーみたいな顔を浮かべている。基本みんな探査者さんだし、もはや狂信者の毎度の奇行くらいにしか周知されていない。
そう、今いるここはうちの県の組合本部。時刻はすでに9時半頃ということで、つまるところもうじき関口くんたちと面談する予定だったりするのだ。
そんなわけなので周囲の人と言えばみんな探査者で、俺と香苗さんの組み合わせといえば"一部で救世主と持ち上げられている新米とそんなのを何故か、全身全霊で推している伝道師"なのだとすでに御存知の方々なのだ。
「と、とりあえず行きましょう香苗さん。もうじき待ち合わせの時間ですし」
「わかりました」
呆れと好奇と嫉妬と同情の視線がやばい。朝から暑さに由来しない別の汗をかきそうだ。
一刻も早くこの場を離れなきゃと彼女に声をかけて、俺たちは談話室へと向かう。おそらくもう関口くんたちが待っているし、問題なく話に移れるだろう。
道中、カメラを片付けながら香苗さんが言った。
「関口とともに三人娘さんたちの指導をしていた探査者たち……知り合いもいるかもしれませんが、いないにせよいくらか話は聞かねばならないでしょうね」
「話?」
「あの状態の三人を、承知の上で今回初めて指導教員になった関口に任せたことについてです。はっきり言って判断ミスですし、最低でも一人くらいは関口への指導役としてついているべきでした。そこですね」
淡々と話す。怒ってるとかってわけじゃないけど、それなりに真剣に深刻な話だとは捉えているみたいだ、香苗さん。
たしかに……おかし三人娘の抱えていた課題は、正直に言えば関口くん一人では対応しきれなかっただろうなとは思う。というか彼自身、そう思っていたから俺たちに助けを求めてきたくらいだし。
先輩教官さんたちが、関口くんの指導員としての成長をも見込んでいたのはわかるけど、いきなり丸投げって形でスパルタすぎるとは俺も思っていたのが本音だ。
そして俺ですらそうなのだから、香苗さん的には真面目に言わなきゃいけない案件だと思ったんだろうね。S級探査者として、界隈に対して模範たるべしと自負している彼女らしい生真面目さだ。
「関口や三人娘さんたちからの話を聞くに、悪意があったわけではないのでしょうが……だからこそ、第三者から見て問題があったということは伝えておかねばなりません。そうすることが、次の新人への指導をより良くしていくことに繋がりますから」
「そうですね。新人さんたちのためにも、思うところは言ったほうがいいのかもしれませんね」
話しながら、談話室へと入っていく。
朝からそこそこ賑わっているけど、関口くんたちはその中でも比較的すぐに見つかった。奥の方の席で、こちらに向かって手招きしてるからね。
彼の他に年嵩の男性と女性が二人。計4人か……俺と香苗さんがそちらに向かって歩いていくと、出迎えるように総出で立ち上がり、軽く会釈してきた。
「知り合いはいないようですね。いいのか悪いのか」
「ま、とりあえず行きましょう」
どうやら香苗さんのお知り合いはいなかったみたいだ。会釈に応じつつ彼らと合流する。
手を上げて話しかけてくる関口くん。どうやら双方共通の知り合いであるということで、彼が進行役みたいになっているみたいだね。
「香苗さん、山形。お二人とも今日はお忙しいところ、お時間もらってすみません、ありがとうございます。改めて先日はお世話になりました」
「おはよう、関口くん。こっちこそ、こないだはありがとうね」
「お疲れさまです。それで、そちらのお三方が?」
にこやかに話しかけてくる関口くん。その姿にはもうすっかり、俺への隔意や敵意はない。
なんていうか、感激だなあ……学校1と言ってもいいリア充と俺、友人みたいなやり取りしてるんだもんなあ。元々がギスっていた関係な分、余計に感慨深いものがある。
内心で感動している俺とは裏腹に、香苗さんがさっそく本題に入るべく質問した。こちらも、こないだの探査を契機に関口くんへの刺々しさは多少、消えている感じがする。
俺と和解したことや、真人類優生思想について明確に間違っていると宣言したことで、苦手意識もややマシになったのかもしれない。
それも嬉しいことだと眺めていると、関口くんは質問に対して頷き、答えた。
「ええ。こちらの三人が、指導員としての俺の先輩方になります」
その言葉とともに、向かい合う先輩教官さん三人が、それぞれ自己紹介を始めた。
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