星明かりの差す道へ
話し込むこと概ね一時間と少し。11時過ぎ頃になってヴァールとアンジェさん、ランレイさんは帰り支度を始めた。
テーブルの上、すっかり食べ尽くされたスナック菓子と空のペットボトルとコップ。それらをみんなで軽く片づけながら、俺はせっかくだしと3人に声をかけた。
「なんなら昼ご飯とかどこかで食べようか?近くに美味しい店とかあるけど」
「いや。心遣いだけありがたく受け取っておこう、山形公平」
明日から首都に行くお二人に、心ばかりでも何かしら奢るくらいはさせてもらってもいいんじゃないかなあ。
そう思っての提案だったけど、ヴァールが恐縮しがちに手で遮ってきた。申しわけなさそうに微笑みながら、そのまま言ってくる。
「アンジェリーナとランレイの挨拶回りだからな。このあとも御堂香苗、ベナウィ・コーデリア、神谷やサン・スーンなど近場の知り合いたちの元を巡っていかねばならんのだ。ともに昼食を摂るにしても、そこまで長居もできん」
「あ、そっか。俺たちだけじゃありませんよね、挨拶回りっていうんだし」
「そうそう! ちょっとだけハードスケジュールって感じだけどまあ、いろいろ世話になった人たちもいるしね」
「む、む、向こうでお仕事が終わったらそのまま帰国するかもだし……今が最後のタイミングかもって、えへ、えへへ」
にこやかに答えるアンジェさんと、キョドりつつもエヘエヘ笑うランレイさん。そうなんだよねこのお二人、明日にはもう関西から首都に向け出立しているのだ。
さっきも話に挙がっていた、ダンジョンコアを密売している組織サークル。ヴァールの直感が正しければ大変な事態にもなりかねないような連中を相手に、激闘を繰り広げようとしているのだ。
それに向け、今回の来日で知り合った人や再会した人たちに向け、挨拶していくのは至極道理の話だ。
しかも今日中に巡るとなれば時間もタイトだろう。のんびり会食ってわけにもそりゃあ、いかないよね。
「改めて、ありがとね公平、リーベ! 今回この国に来て、あんたたちに会えて本当に良かった。おばあちゃんの言ったとおり、鼻っ柱を折られた気分だったけど……上には上がいて、それは肩書や地位には関係ないって学んだわ!」
「鼻っ柱……って、ああそんなこと言ってましたね、マリーさん」
思い返すは祝勝会の折、初めてアンジェさんとお会いした時のことだ。マリーさんがなんかそんな感じのことを、俺に向けて言ったりしてたんだ。
正直、言い過ぎだとその時は思ったし今ならもっと思う。俺から見てアンジェさんは立派な探査者だし、プライドが先行しているわけでもなかった。
マリアベール・フランソワの孫娘、ではなくA級探査者のアンジェリーナ・フランソワとして、すでに大成されているように思うのだ。
まあ、身内ゆえに辛辣になったところはあるんだろうけどね。
そこのところは俺にとっては関係ない。アンジェさんに向け、思うところを伝えていく。
「俺のほうこそ、アンジェさんと知り合えてよかったです。マリーさんはああ言ってましたけど、あなたは尊敬すべき探査者です。多くのことを教えていただきました、本当にありがとうございました」
「首都に行っても元気でいてくださいねー! あなたの明るさと優しさは、強さだけじゃ助けられない人にだって、きっと手を差し伸べられますよー!」
「公平、リーベ……ありがと! いつだってこのアンジェリーナ・フランソワ様は明るく元気に! バリバリやっていくわよー!」
リーベも交えての贈る言葉に、太陽のように暖かくて明るい笑顔でアンジェさんは答えてくれた。
そう、リーベの言うとおり。強さだけでは届かない領域はきっとある。でも彼女の天真爛漫な心ならばきっと……強いとか弱いとか越えて、孤独に震える人に陽気を伝えてあげられるだろう。
隣で微笑む、彼女のように。
「えへ、えへへ……! アンジェちゃんならきっとやれるよ! わ、私も手伝うから……何ができなくても、敵を蹴り裂くくらいならできるから!」
「ありがとね、ランレイ! あんたも頼りにしてるわよ、双魔星界拳!」
「うん! ま、任せてっ!」
シェン・ランレイさん。思えば彼女とアンジェさんはまさしく二人一組、コンビとして抜群の相性を誇っているように思える。
戦闘スタイルとかでなく、気質、気性の話だ。凸凹っていうとコメディチックだけど、真面目にそんな感じでお互いにお互いのいいところや悪いところを補い合って、より高みへと至っているコンビだと思う。
こないだ相談に乗った、おかし三人娘の目指すべき到達点の一つですらあるかもしれない。
そんなふうに考えていると、今度はランレイさんが俺とリーベに向け、拱手とともに一礼してくる。
「その、あの、公平さんとリーベちゃんも、あの……ありがとうございました! 勉強になりました!」
「こちらこそ、ランレイさん。リンちゃんに負けず劣らずの星界拳の技、とても勉強になりました。ありがとうございました」
「またいつでも遊びに来てくださいねー。私たち、友だちですからねー!」
「! と、友だち……! 謝謝、謝謝!!」
彼女にとって、友だちが増えたということが今回の来日で一番、喜ばしいことなのかもしれない。リーベの言葉に感激したように、涙ぐんで深く感謝をしている。
もちろん、俺にとってもランレイさんは素晴らしい友人だ。リンちゃんの姉でない、シェン・ランレイという一個人として、彼女のことをとても素敵な人だと感じる。
「それじゃ、行ってくるわね! またいつの日か、お会いしましょう!」
「さよなら! 絶対にまた、会いに行きます! 私の友達!」
「世話になったな、山形公平、後釜。また会おう」
ヴァール、アンジェさん、ランレイさん。
揃って素晴らしい探査者である彼女たちは、そう言って俺たちの前から去っていった。
本エピソード終了後くらいに、首都圏へ行ったアンジェリーナとランレイのエピソードを(プロットレベルですが)どこか、たぶんTwitter?あたりで発表するかもです
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