いろいろあったよ大ダンジョン時代(白目)
大ダンジョン時代になって100年。世間一般にはひたすらダンジョンに潜ってモンスターを倒してきた存在として認知されている探査者なわけだけど、界隈の歴史においては意外とそうでもないらしい。
いつの時代も悪いことを考える人たちってのは絶えないようで、驚くような方法でモンスターを利用し、罪なき人々にけしかけてきた事例が何度もあるのだとか。
そしてその都度、当時の探査者によってそうした事件、組織は鎮圧されてきた。
世間の混乱を避けるため、一般にはあまり公表していないというそうした出来事を総称して、モンスターハザードと呼称するとの話だった。
「一番最初のモンスターハザードは90年前。突然モンスターが各地の町村を襲い始めたことに端を発する」
「モンスターが外に出た? スタンピードとか亡命とかでなくか」
「決まって一体、ないし二体ばかりでの襲撃だったことからスタンピードの線は最初から考えられなかったな。亡命の疑いは当時からあったし、今でも表向きはその可能性もあるとしているが……事実は異なる。人間の組織による、悪意を持った行為だったのだ」
「人間が、悪意を持ってモンスターを野に解き放った……!」
にわかには信じがたいけど、まったくありえないかと言われるとそうでもないってラインだ。
そもそもモンスターってたまにダンジョンの外に出るからな。エラーダンジョン由来のスタンピードはもちろん、元いたダンジョンから何かの理由で抜け出し、別のダンジョンへ移り住む通称、亡命だとか。
前者は狼人間、後者はリッチとそれぞれ、一回ずつ間近にあった話ではある。だからなんとなくわからないでもないのだ。
人間が意図的な思惑の元、モンスターをダンジョンの外へと誘導するとか。そして町や村へと導き、けしかけるとか。無論やってはならないことではあるけど、やってやれないことではなさそうなんだよね。
「当時はWSOも発足して間もなく、まだまだ地盤固めもできていなかった時期だ。探査者たちのレベルも低かったので、やむなくワタシがメインで出張り、そうしたモンスターおよび裏で糸を引いていた組織を壊滅させたのだが……」
「ヴァールさんが、第一次モンスターハザードの鎮圧者だったんですね。おばあちゃんもそこまでは話してくれませんでした」
「吹聴することでもないからな。ちなみに立場もあり、以降起きたすべてのそうした事件に参戦してはいる。メインでもなかったが、スポット参戦的な感じだな」
「なんとまあ……」
ヴァール、本当にこの世界を護り続けて来たんだな。モンスターのみならず、犯罪組織の魔の手からも。
受肉した精霊知能として、不老の肉体を持つ彼女だからこその芸当だけれども。一人間、一探査者として頭が下がる思いだ。
邪悪なる思念との戦い、アドミニストレータ計画が密やかに企画立案されていく中。彼女は彼女で100年もの昔から、人類を導き守護してきた。
そんな彼女の功績はあまりにも大きいだろう。そうした奮闘の末に、対邪悪なる思念に必須な四人の決戦スキル保持者が無事、アドミニストレータの下に集結したのだから。
「ヴァール、頑張ってきたんだな。本当に、頭が上がらないや……ありがとう」
「……よ、止してくれ。受け持った役割柄、当然のことをしたまでだ。背負わなくてもいい犠牲まで背負ったあなたやソフィア、歴代アドミニストレータたちに比べて、ワタシなど」
「そんなことありませんよー。公平さんたちは公平さんたちで称賛されるべきですが、それとこれとは関係なくヴァール。あなたの戦いもまた、称えるに値するものですよー」
「後釜……」
「そのとおり。ヴァールは立派だよ、心から尊敬する」
俺とリーベの言葉を受けて、ヴァールは困ったような、それでいて照れたような面持ちで俯いた。
リーベの言うとおりでソフィアさんはソフィアさん、そしてヴァールはヴァールなのだ。犠牲になった歴代アドミニストレータに比べて自分はなどと、思い悩む必要なんてマジで一つもない。
どうもこのへん、ヴァールのトラウマというか根深い罪悪感に繋がってる感じはするんだけど……こればっかりは俺やリーベにもどうにもできないしな。
大ダンジョン時代が終わって日も浅く、遺された爪痕も大きい。心の傷も同様で、やはり時間とともに解消されていくべきことなのかもしれない。
それはともかくとして、コホンとヴァールが咳払いを一つ。
第一次モンスターハザードを鎮圧した立役者が、続けて説明していく。
「モンスターハザードはその後も度々、勃発してな。78年前、二度目の事件が起きた」
「第一次から12年後ですかー」
「それ以降にも度々、忘れた頃に似たような事件が起きてきた。最後に起きたのが26年前、第七次モンスターハザードだ」
俺が生まれる10年も前を最後に、そうした一連の事件はなくなったわけか。
普通なら平和を取り戻せたって感じなんだけど……例のサークルの話をしていてこんな話題になったんだ。決して過去のことじゃないとヴァールは直感しているんだろう。
事実、次いで彼女はこう言った。
「途中の何回かは別の組織による事件だったが、それでも半分ほどは第一次、ワタシが相手したのと同じ名称の組織による犯行だった……幾度となく奴らと渡り合ってきた感覚から、なんとなくの物言いになるがな。件のサークルとやらからは、その組織と同じ感じを受けるのだ」
歴戦のヴァールによる宣言。
それは事実上、第八次モンスターハザードが引き起こされる可能性がある、という警戒にも等しいものだった。
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