剣姫と拳鬼、首都圏へ
ともあれ、狭いながらもそれが楽しい、という方もいるようなのでこのまま話に入る。一つテーブルを囲んで5人、身を寄せ合って座る。
俺、ヴァール、アンジェさん、ランレイさん、リーベという並びで、要するにヴァールとリーベで俺が挟まる感じだ。身内同然の二人だからかまだ安心安全感はあってよかった。
ああでも、いい匂いがめっちゃする。部屋全体にも心なしか、フローラルな香りが漂ってきているほどだ。
女子力がぐんぐん伸びていっている俺の部屋に、半ば慄然としながらも。お菓子を広げ、ジュースを各自のコップに注いでいくリーベに礼を言って、それじゃあと俺は口火を切った。
「で、今日はどうかしたのか、ヴァール。アンジェさんやランレイさんまで引き連れてってのは、結構な大事の予感だけど」
「いや。まあ、大事といえば大事なのだが。別段、あなたにダイレクトに関わる話でもなかったりする」
コップに口をつけながら、そう切り出すヴァール。俺に直接関係がないにしろ、大事な話ではあるのか。アンジェさんとランレイさんまで連れてきているあたり、件のサークルやら言う組織関連じゃないか、とは推測するけれども。
軽く喉を潤してから、彼女は続ける。
「以前にも言ったが、今この国の首都圏ではダンジョンコアを密売するという、不可思議な犯罪行為に及んでいる秘密結社が暗躍している」
「たしかー……サークル、でしたっけー」
「うむ。そしてそのサークルの捜査と逮捕に向け、能力者犯罪捜査官であるアンジェリーナとランレイが首都へ向うのだが……明日の朝、出立となる。それであなた含めた知り合いの何人かに、挨拶をと思ってな」
「え、明日なんだ」
思っていたより早く行くんだな、首都圏。それだけサークルとやらの活動が活発なんだろうか。
しかし、それに先立っての挨拶とはまた、律儀な話だ。少なくとも俺に対してそんな丁重な姿勢で来る必要ってあるのかな? とは、内心思うけど……まあ、ダンジョン探査をともにした仲だしね。友人への挨拶回りと考えれば、ありがたくもあり光栄な話でもあり、納得できることでもあった。
「この二人、方々に連絡するのを忘れていてな……今日の明け方にいきなりワタシに相談してきたから、やむなく無茶なアポを取り付ける形になったのだ」
「いやー、ははは……すっかりボケちゃってて。ヴァールさんにも迷惑かけちゃった、公平もごめんね急に」
「ご、ご、ごめんなさいいい!」
「あ、いえ。そんなお気になさらず」
苦笑いして頭を下げるアンジェさんと、平身低頭のランレイさん。忘れてたのか……それで土壇場に相談を受けたヴァールが慌てて対応したと。
まあ、俺に関しては暇だったし別にいいけどね。ただヴァールについてはお疲れ様って感じではある。
とにかくそういうことならばと、俺はアンジェさんとランレイさんを見た。
互いに居住まいを正してから、俺はリーベとともに二人に頭を下げる。
「お二人とも、先のダンジョン探査では多くのことを勉強させてもらいました。ありがとうございました……首都ではどうかご無理をなさらない程度に、使命を果たしてくださると嬉しいです」
「私たちはさすがにご一緒できませんし、遠くから無事を祈りつつ応援するしかできませんけどー。どうか、頑張ってくださいー!」
本当に、知り合えてよかったお二人だ。アンジェリーナ・フランソワさんとシェン・ランレイさん。
それぞれマリーさんのお孫さんとリンちゃんのお姉さんと、元々の知り合いのご家族にあたる人たちだけど。それとは関係なく、彼女たちと友だちになれたことを誇らしく、そして嬉しく思う。
首都ではどんな敵が、どんな戦いがお二人を待ち受けているのか。それはわからない。
何せ相手は人間……それもオペレータだ。なんらかの事情により探査者とならず外道へと至ったそうした者たちを探し出し、そして逮捕するのだから、モンスターを相手にするのとはまったくわけが違う。
相当な重圧だってあるだろう。けれどお二人はいつものような素振りで笑い、俺とリーベにこう返すのだ。
「堅いわねえ……こっちこそありがとう、公平、それにリーベ。お陰で《重力操作》を身につけてスランプも脱せたし、フルパワーって感じで仕事ができるわ」
「わ、わわ私もっ! ありがとう、ございましたっ! スキル《闇魔導》と双魔星界拳、きっと使命を果たすことに役立てますっ!!」
力強く、そして高潔な眼差しで使命を語るアンジェさんとランレイさん。その姿には百戦錬磨、A級トップ層としての自信や威容も見える。
隣のヴァールが満足そうに頷くのが見えた。前のダンジョン探査ですっかり、二人のことを気に入ったらしい彼女からすれば、今しがた見せてくれた頼もしい姿は何よりも嬉しいものだったろう。
きっと心配はいらない。お二人ならばきっと、この国の裏側にて蠢く闇さえ切り拓いていける。
俺もそう、信じた。
「アンジェとランレイには首都に向かった後、現地ですでにサークルと交戦状態にある特殊部隊員ニ名と合流してもらう」
「特殊部隊員?」
「ワタシ直属のエージェントという扱いだ。神奈川千尋という男で、一年前から組織の調査と散発的な戦闘を繰り返している」
一年も前からすでに、現地で戦いを繰り広げている人たちもいるのか。なんか、本当に大事なんだな。
こないだ首都圏に行った時は、まるで闇なんて感じない普通の大都会で、見上げるとビルが高いなーってくらいのものだったけど……そんな日常の裏側ではすでに、その神奈川さんという人が秘密結社相手に、戦いを繰り広げていたってことか。
「神奈川千尋には相方がいる。ステラという女なのだが……非戦闘員でな、戦闘自体は神奈川しかできん。今後いよいよ激化していくだろう組織との戦いに、お前たち二人の助力を乞いたい」
「もちろん! お任せくださいよ、ヴァールさん!」
「が、頑張りますうっ!」
「頼りにしている。信じるぞ、二人とも」
ヴァールからの依頼。そして向けられた期待、信頼。
それらをすべて受け止めて、若く強い探査者たちは深く、頷いて応じた。
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