メイド服もいいけど割烹着もね?
そんなこんなでリーベと近場、歩いて5分くらいのところにあるコンビニへ行き、お菓子とジュースを買って帰ってきた俺。
コップも用意して、お客さん用の小型テーブルと人数分の座布団も用意して準備完了だ。いつでもヴァールとアンジェさん、ランレイさんをお迎えできる態勢が整ってるね。
空気の入れ替えも終わったし、クーラーもようく効かせての涼しい室内。俺とリーベは各自スマホを見たり漫画を読んだりしながらも、客人が来るのを待っていた。
もう時刻も10時に近い。そろそろ来てもおかしくないけど……、と。
そこでインターフォンが鳴った。探査者の気配が3つ、玄関の前にある。お出ましだな。
俺が出迎えようかと立ち上がった矢先、リーベがそれを押し留めるように制止した。
「リーベちゃんが行きますよー、公平さん」
「へ? いやまあ、別にいいけどそれなら二人で行ったって」
「駄目ですよー! まずはかわいいかわいいリーベちゃんがお客様方を出迎えて案内し、御主人様たる公平さんの元へとお通しする! なんでも様式というのがあるんですよー!」
何やら急にわけのわからない美学を語りだしつつ、彼女はさっさと部屋を出てしまった。置いてけぼりをくらい、途方に暮れる俺。
あいつ、なんか変な漫画なりアニメなり見たのか? 御主人様とか言ってたし、メイド系の作品に感化されたか。
なんとなく、メイド服姿のリーベを想像する。あいつ基本的に何着てもマジで似合うってか、素材がよすぎて着ぐるみパジャマでも絶世って感じなんだけど。
メイドさんの衣装はこれまた映えそうだし、なんなら一部の層にめちゃくちゃ人気が出そうだ。ちなみに俺はメイド服より割烹着のほうがぐっと来る。誰にも言ったことはないけどね。
『ようこそお客様方ー。よくぞ山形家においでくださいましたー』
『……その。何か変なものでも拾い食いしたのか、後釜? それとも何か悩み事でもあるのか。力になれるか微妙だが、話くらいは聞こう』
『拾い食い!? 悩み!? なんですかいきなり、そんな距離感ある優しさを見せてくるくらい似合ってないってんですかー!?』
階下、玄関にてコント的やり取りが聞こえてくる。ヴァールにとってもリーベの妙な態度は訝しいもののようで、オブラートに包めているような包めていないような物言いをしてリーベを怒らせている。
まあ、面食らうよな。そして気遣うよな。ひとつ屋根の下で暮らす俺ですら何々なんなの怖ぁ……って若干なってるのに、たまにしか会わないだろうヴァールからしてみれば余計に困惑するよなって。
『リーベ、久しぶり! どしたのそんな改まって、イメチェン? あははははっ、メイドさんかホテルマンさんごっこ?』
『い、いちおーメイドさん的な? ですねーお久しぶりですアンジェさんー』
『か、かかかわいい! けどそのあのー、服装は普通なんですねってごごごごごめんなさい生意気なこと言いましたあばばばば』
『い、いえいえー。思いつきで振る舞っただけですのでー、あ、あはははー……』
同行者のアンジェさん、ランレイさんからもそれぞれコメントを受けて、さしものリーベもたじろいでるな。
思いつきでメイドさんごっこ遊び的なノリにしたんだろうけど、身内にしかしちゃだめなやつだったよね、うん。爆笑してくれるアンジェさんはともかく、そこツッコむんだ……的なランレイさんのいつもの挙動不審なテンションには、即興のお遊びをしていたらしいリーベにはきついだろう。南無三。
『と、とにかく公平さんの部屋までご案内しますねー。3名様、ごあんなーい!』
『メイド? かと思えばあれね、居酒屋の店員さんみたいね。え、お酒とか出る?』
『あ、アンジェちゃん。あ、朝から呑むのはまずいよぅ……』
『それ以前に未成年者に会いに行くのに酒など期待するな』
『ちぇー』
リーベが、もはや何をモチーフにしてるんだかわからなくなってきたノリで三人を案内する。居酒屋の店員さんだと感じたんだろう、アンジェさんのボケにランレイさんが天然で乗っかってヴァールがツッコミを入れる。
前にも増して仲よくなってるなあ、この三人。元よりアンジェさんとランレイさんが仲よくて、ヴァールはそんな二人を推してたんだけれど。A級ダンジョン探査を経てさらに親交が深まったように思える。
と、ノックの音。なんやかんやで連れてきたか。どうぞと声をかければ、すぐにドアが開かれて4人、美女美少女が入ってきた。
「失礼する。久しぶりだな、山形公平。元気にしていたか? 急な連絡にも関わらず、応対してくれて助かる」
「気にするなよ、久しぶりヴァール。このとおりぴんしゃんしてるよ。こっちこそこないだのダンジョンの時は、いろいろありがとうな」
「こちらの台詞だろう、それは」
金髪をウェーブにしてなびかせる、クールというより無機質な表情の女性。そんな顔とは裏腹に着ている服は割とゴシック的というか、フリフリのドレスだから全体的にはマニアックな愛らしさが漂うな。
もう一つの人格のほうではコロコロ変わる顔つきも、今の人格になるとまさしく鉄面皮といったふうになる。とはいえ感情はしっかり存在するから、喜怒哀楽を感じればしっかりと泣いたり笑ったりもする、一人の魅力的な女性であることには違いないんだけどね。
精霊知能ヴァール。ソフィア・チェーホワのもう一つの側面、もう一人の人格。
一つの肉体を二つの魂で共有している彼女たちの、裏側とも呼べる人物が澄ました顔でそこに佇んでいた。
ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします
書籍1巻発売中です。電子書籍も併せてよろしくおねがいします。
Twitterではただいま #スキルがポエミー で感想ツイート募集中だったりします。気が向かれましたらよろしくおねがいします




