朋あり遠方より来る、部屋の掃除しなくちゃ……
「と、いうわけで今日はもうすぐ来客があるから。そのつもりでよろしくねー」
唐突極まりないヴァールのメッセージを受けて、俺はとりあえず居間に行って両親に事情を説明した。
ここまでいきなりな話はなかなかなく、面食らっていたうちの父ちゃんと母ちゃんだったけど。すぐに気を取り直して、何やらドタバタとリビングを掃除し始めた。
何してるんだ?
「ヴァールさんったらあれよね、ソフィアさんの裏の顔的な!」
「WSOのお偉いさんが来なさるってんだ、こりゃ急いで掃除なくちゃならんだろ!」
国際組織の一番偉い人が来るという報せに、焦ったように身綺麗にしだす我が家は、いくらなんでもホームコメディっぽさがありすぎると思う。どうなってるんだねあんた方、ていうか来客と言わず普段から整理整頓しときなさいよ。
朝食中の優子ちゃんが呆れ返ってるし、リーベも苦笑してるし、なんならアイなんて首を傾げているし。
落ち着けダディ、マミィ! という想いを込めつつ俺は、どうどうと二人を宥めた。
「片づけとかはまあ、しといてもろてって感じだけど。話は俺の部屋でするから心配いらないよ」
「それはそれで問題じゃない、あんたの部屋なんてどうせろくに片づいてないだろうし!」
「いかがわしい本やらデータやらは隠しとけよ公平! 父ちゃんそれで何回かひどい目見てるからな!!」
「どういうアドバイスだ!!」
思わず叫ぶ。そもそもそんないかがわしいもの持ってないよ! 人聞きの悪いことを自分の実体験を交えて語るんじゃない!
朝からなんて家だ、と思いつつとにかく事情は説明した。あとはヴァールとアンジェさん、ランレイさんの来訪を待つだけだ。ま、軽く整理整頓くらいはしときましょうかね、と自室に戻る。
俺の部屋は至って普通の四畳半、フローリング床にデスクとベッド、本棚が置いてある。何冊か漫画が出しっぱなしになっているので、それを片づけて軽く換気するくらいかな。
リーベがちょくちょくここに来ては、漫画を読んだりスマホ弄ったり、あまつさえ昼寝までしたりするからな……さすがにそれは自室でやれっていってもなかなか聞かないし。
たまに開き直って二人並んで寝ることさえある。ああもちろんいかがわしいアレじゃないぞ、山形くんにそんな度胸はない。
「雨の日に窓を開けるって、なんか不思議な感じだなー」
まあそれはともかくとして、本を片づけカーテンを開け、窓を開く。夏の熱気と雨の湿気がムワッと来るけど、同時に新鮮な空気が部屋に大いに入り込んでくる。これで晴れてたら最高だったんだけどね、仕方ない。
小一時間ほど空気を入れ替えて、そしたら今度は締め切ってクーラーを効かせよう。やって来る三人に暑い思いをさせたくないしな。
ああそうだ、今のうちにコンビニ行ってジュースとおやつでも買っておこうか。思えば部屋に友だちが、しかも女の子が入ってくるなんて初めてのことだ、緊張してくるなあ。
リーベ? 家族ですね、それが何か。ていうかあいつの場合、元が俺の脳内借りぐらしの精霊知能だったから当然のごとく俺の部屋内についても知ってるしね。
受肉してから我が家に来てすぐ、当たり前のようにノックもなく部屋に入ってきて何をする貴様! ってなったのもまだまだ真新しい記憶だ。
と、そんなリーベが部屋に近づいてくる気配を察知する。朝ごはんも食べ終わったみたいだけど、漫画でも読みに来たのかな?
ノック数回。それから開かれるドア。
絶対に面と向かって言うことはないけど、目も覚めるような美少女のリーベちゃんがいつものように部屋に入ってきた。
「こーんにーちはー。おっじゃまーしまーっす」
「おーっすどしたの。漫画読みに来た?」
「それもありますけどー、ヴァールが来るって話が気になりましてー」
ああ、そっちか。同じ精霊知能だ、そりゃ気になるわな。
さしあたり椅子に促すと、リーベはとことこ歩いてちょこんと座る。俺はというとベッドに腰掛けて座り、二人落ち着いたスタイルで話を始める。
つっても急なヴァールの来訪については俺だって、あまり知る由もない。いきなり今朝方メッセージで相談があり、特に予定もないので快諾したってだけの話だ。そうリーベに伝える。
「ただ、アンジェさんとランレイさんまでついてくるってのはなんか、解せないよな」
「ですねー。システム側の話をするんなら、あのお二人を連れてくる必要はありませんしー」
「なんか近々、なんとかいう組織を退治しに首都まで行くって聞いてるから、もしかしたら挨拶がてらかもしれないな」
なんだっけか、サークル? とかいう、ダンジョンコアを密売するという奇行に及んでいる犯罪結社らしいが、それをアンジェさんとランレイさんは能力者犯罪捜査官という、正式な逮捕権を持つ国際エージェントとして潰しに行くらしい。
そのため関西を離れて首都に向かうそうだし、その報告とか挨拶も兼ねて何か、俺に用件があるのかもしれないね。
「ま、何にせよ来客だ、もてなさなきゃな。ていうわけで今からコンビニ行くけど、お前も来るか?」
「あ、行きますー! もちろん奢りですよねー?」
「なんで……?」
怖ぁ……ナチュラルにぶりっ子仕草で奢りを要求されちゃった。まあいいけどさ。道中、リーベと二人なら雨の中でも楽しいし。
というわけで俺たち二人は、雨天の中を連れ立ってコンビニへと向かうのだった。
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