起き抜けのアイスコーヒーは夏の至宝
居間に向かうとすでに父ちゃんと母ちゃんは起きていて、それぞれ早朝のテレビを見ながら新聞を読んだり、あるいは朝食の支度をしていた。
7時にもならない頃合いに、普段休みとなれば8時過ぎから下手すると9時になってようやく降りてくる長男の姿を見たのが意外だったんだろう。二人とも目を丸くしている。
「あら? おはよう公平、早いわね。仕事?」
「おお、おはよう公平。雨だぞ外、行かなきゃならんのか?」
「おはよー。いや別に、なんとなく早起きしたからね。たまたまだよ、今日はオフの日ってことで」
食いしん坊アルマの策略で、眠気を吹き飛ばされてさえなければいつもどおり二度寝を楽しんでいたんだろうけど。残念ながらそんな感じじゃなくなったので、仕方ないしと朝食を摂りに来たってだけだね。
適当に両親に答えつつ洗面所へ。冷たい水でよく顔を洗えばいよいよ気分もしゃっきりしてくる。タオルで水気をよく取ればほら、いつもどおりのよくも悪くもないお顔。
寝起きで乾いた口の中を水で濯いで、さあ一日も始まりだ!
軽く伸びをして身体を解しつつ再び居間へ。母ちゃんが毎朝ご飯を作ってくれるんだけど、今日は朝早いからまだ調理段階だね。
まあ今日は一日のんびり過ごす山形くんだ、いくら待ったってなんの支障もありゃしない。と言っても、10分もしないうちに出来上がるんだろうけど、と予測しつつ俺は冷蔵庫からペットボトルコーヒーを取り出し、コップを持ってテーブル席に着く。
「夏休みの朝ったらどうしてか、アイスコーヒーなんだよなあ」
言いながらコップにコーヒーを注ぐ。なんでかな、小さい頃から夏休みの朝には必ずアイスコーヒーを飲むんだよね、俺。
キンキンに冷えて実に美味しいんだけど、お約束みたいな感覚でいるのはこの家だと俺だけだったりする。いつの間にか夏の朝にはアイスコーヒー! みたいな刷り込みがされていたみたいで、別に気にする話でもないんだけどたまにふと気にしたりするのだ。
たぶんなんかのCMか広告の影響だろうけど、実際アイスコーヒー美味しいしね。優子ちゃんや父ちゃんはどっちかというと麦茶派なんだけど、俺自身は断然、コーヒー派だ。
というわけで冷えたコーヒーを飲みつつテーブルの上、朝刊を手に取って読む。居間での暇つぶしにはやっぱり新聞ってのはいい読み物だよね、案外面白い記事もあったりするし。
「……お? 香苗さんの記事だ」
と、早速気になるニュースを発見。俺にとっても馴染み深い人、香苗さんのS級探査者昇格に関する記事だ。
要約すると来る8月25日、首都にある全探組の総本部施設にて彼女のS級認定式およびライセンス授与式、並びに祝宴を行うらしい。式には探査者界隈ばかりか国のお偉い政治家さんたちも勢揃いだとか。
WSO統括理事ソフィア・チェーホワ、同じくWSO理事のマリアベール・フランソワとグェン・サン・スーン。WSO日本支部局長やら局長補に加え、全探組の理事やら果てはダンジョン聖教の当代聖女シャルロット・モリガナまでもが出席するとのこと。
さらに加えて香苗さんにとっては先輩にあたる、国内S級探査者が2人、祝宴に姿を見せるとか。豪華な面子だなあ……知り合いも数人いるみたいだけど、世界がまるっきり違う感じがする。
「新聞にも載る人なんだもんな、あの人」
「ああ、香苗さん? すごいわよねえ、そんな大きく記事になるなんて。はい、お待ちどお様」
感心していると母ちゃんが、朝食を持って来つつも香苗さんの記事に反応した。どうやら先にチェック済みだったみたいだ。
いつもどおりの野菜にウインナー、スクランブルエッグ。空腹もあってかなんとも美味しそうなメニューだね。ご飯は自分の好きな量を入れるのが山形家スタイルなので、早速お茶碗を取りに行く。
「おはよーございますー! 今日は恵みの雨模様! ですねー!」
と、唐突に居間に響く元気で明朗な声。見れば金髪の、夢かと見紛うような美少女がニコニコ笑顔で手を振っている。
リーベ。精霊知能の一体であり山形家の一員であり、俺にとっては唯一無二の相棒である少女が毎朝ながら、とにかく明るい挨拶をしてきていた。
茶碗片手に炊飯器を開けようとしていた、俺がまずは応じる。
「おはよ、リーベ。生憎の天気だけど、たしかに恵みでもあるよな、雨は」
「はいー! って、あれ? 公平さん、いつもよりだいぶお早いですねー」
「なんとなく目が覚めちゃってな。アイだけ寝かせたまま、先に起きてきたんだ」
リーベにとっても俺が、こんな時間に起きているのは意外らしかった。まあ夏休みモード全開だしな、ここ最近の俺。
軽く説明だけしてご飯をよそって席に戻る。腹減りなのもありまあまあ白米を盛ってるけど、育ち盛り山形くんには造作もない量だ。
ほへー、と間の抜けた声を上げつつもリーベが俺の対面の席に座る。顔洗ったのかな、こいつ……でも目はパッチリしてるし眠気も感じさせない、元気満点な様子だ。たぶん先に洗面所に行ってからこっちに来たんだろうな。
ま、そのうちこいつもご飯にするだろう。それはそれとして俺は一足先、朝飯にありつかせていただくとしよう。
いただきます、とだけつぶやいて、俺は箸を手にとった。
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