もう一度、探査者としての生き方を
その後も、おかし三人娘はしっかりとパーティとして機能した。次の部屋に現れたモンスターも難なく撃破して、ダンジョンを踏破するに至ったのだ。
連携が取れればやはりこのパーティ、相当に噛み合う。ガムちゃんの立てる段取りと指揮が的確なのもあり、チョコさんの剣捌き、アメさんの召喚スキルもあり。およそF級モンスターでは止められないだろう、破竹の勢いで彼女たちはダンジョン探査を完了していた。
消えていくダンジョン。総合スーパーの搬入口が元の、不自由ない姿に戻ったのを確認して、俺たちは一旦組合本部へと向かっていた。
どうやらもう一つ二つ、ダンジョン探査を行いたいらしい。問題解決の糸口が見えたことから、俺と香苗さんは別に帰ってもよかったんだけど……せっかくだし今日一日は、見学と洒落込ませてもらおうということで話がまとまったのだ。
「やー、めっちゃ楽! さすがガムちゃん、名軍師!」
「チョコさんも、落ち着くと動きが見違えますね。切り込みも後詰めもできるスピードはすごく助かります」
「うふふ。二人とも素敵よ〜」
一度流れがいい方向に定着すると、雰囲気も全体的によくなるらしい。先程までのぎこちなさが嘘のように和気藹々としたやり取りを、三人娘さんたちは歩きながらしている。
微妙に距離があったチョコさんとガムちゃんが互いを褒め合い、アメさんがそんな二人を見てニコニコと笑う。花園って感じで素晴らしい光景だね。
「あんまり長引いて、三人が仲違いしちゃうような方向に行かずに済んでよかったですよ、本当に」
「そうですね。思ったより早く済んで何よりです」
香苗さんと二人、笑い合う。うまい具合に問題が解決してよかった、これで長引くようだったら、さすがに俺も香苗さんも継続しての協力は難しかったろうからね。
今後もあれやこれやと何かしらの壁にぶつかりはするだろうけど、今の三人なら問題なく乗り越えられるだろう。
関口くんが再び、俺の隣に立って言ってきた。
「本当に、今回は二人のおかげだ。山形、本当にありがとう」
「いやいや、なんのなんの。彼女たちが自分たちで掴み取った、彼女たち自身の力だよ」
改めて礼を言ってくる彼に、なんともこそばゆさを覚えつつも応じる。
俺たちのアドバイスが役に立ったなら光栄だけど、本当にすごいのはそのアドバイスをしっかり活かしてパーティとしての連携を構築したあの三人だ。褒めるなら、あの人たちを褒めてあげてほしいところでもあるよね。
と、そんなことを言うと関口くんはそうだなと頷いて、やがて穏やかに笑い、続けて言ってくる。
「……今なら、素直に認めることができるよ。山形、やっぱりお前のおかげなんだ」
「関口くん?」
「探査者ツアーの時、お前のくれた言葉のおかげで俺は……探査者に、戻ることができた気がする」
それは、さっきの話の続きだった。関口くんがどんな思いを抱えて真人類優生思想に染まり、そしてそこから脱却しつつあるかというエピソード。
探査者ツアーの際の、俺の言葉がきっかけとなったらしいけど……なんだ? 心当たりがない。
首を傾げる俺に、彼はゆっくりと、その言葉を再現した。
『俺への憎しみだけじゃない。探査者としての誇り、勇者としてのプライドもまた、彼の心にはあった。正義も、良心もだ』
──それは、邪悪なる思念に乗っ取られかけた彼を救った時の。
《風浄祓魔/邪業断滅》の力で助け出した直後、彼は意識を失っていたと思っていたのに。
「聞いてたんだ、あの時」
「微かに、な。その言葉を聞いて俺は、薄れゆく意識の中でたしかに救われた気分になったんだ」
「救われた……?」
「……本当は、真人類優生思想なんて間違っているってどこかで気づいていたって、言ったよな」
ポツリとつぶやく。今度は密談じゃなく、普通の声で、みんなに聞こえるように。
関口くんのことが気になるらしいチョコさんはじめ、三人娘たちも耳を傾ける。香苗さんも意外そうに目を丸くして彼を見る中、彼はさらに思いの丈を打ち明けた。
「人々のために生きる探査者のあり方を、疎みながらも尊いものだと思っていたんだ、腹の底では。だけど、やっぱり俺は、俺自身の人生をよりよいものにしたかった。その思いが先立って、自分を選ばれし存在だと思いたかった」
「関口くん……人を支配する生き方が、よりよい人生だなんて俺には、どうしても思えないよ」
「……だろうな。そんなお前の言葉だから、目が覚めたんだろう。もう一度、人のために生きる道を目指したっていいんじゃないかって、そう思えたんだ。散々嫌がらせをしてきた俺にさえ手を差し伸べてくれた、お前の姿が眩しかったから」
あの瞬間、そんなことを考えていたのか……関口くん。
眩しかったってのはたぶん、マジで物理的に眩しかったんだろうとは思うけど。意識がなくなる間際に言葉と併せて見たもんだから、余計に印象深い光景になってるんだろうな。
「だから、ありがとう。そして今まで本当にすまなかった、山形……いつか俺は、お前のような探査者になりたい」
「俺は、別にそんな大層なものじゃ」
「大層なんだよ、俺にとっては。いいか山形、お前はすごいんだ……そんなすごいお前の、見ている風景を俺も見てみたい。だから、待ってろよ」
差し出される手。握手を求める、関口くんの顔はあまりにも優しい。
俺を、認めてくれているんだな。探査者として人間として、あるいはクラスメイトとして。ついに、彼と心が通じあえた確信がある。
友人であり、クラスメイトであり、あるいはライバルかもしれないそんな関係。
俺と関口くんも、きっとこれからはいがみ合うことなく笑いあっていけるだろう。おかし三人娘が、そうなれたように。
「ありがとう、関口くん。君と並び立てる日を、待ってるよ」
彼の手を取り、熱く握手を交わす。
この夏の暑さにも負けない、厚い友情がたしかにそこに芽生えていた。
次回から新エピソードです
それに伴い本日からまた、一日一話投稿に戻します
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