もう、パーフェクトもハーモニーもあるんだよ……
さて、いよいよ状況開始だ。
気持ちを切り替えたアメさんが、通路からゴブリンを見据える。サラマンダーも気合十分といった感じで、背中の炎を燃やし、敵を睨んで鳴いている。
『くきゃきゃきゃきゃ……』
「サラさん。力を貸してください……!」
『くきゃ!』
アメさんの願いに任せろー! とばかりに鳴くサラマンダー。彼女の想いに応えるように、力が高まっていくのを感じる。
関口くんが不思議そうにつぶやいた。
「いつもより、出力が上がっている? サラマンダーのモチベーションが高まっているにしたって、こんなに変わるものなのか?」
「概念存在……《召喚》で呼び出したモノだからね。召喚者との絆や相互信頼、モチベーションの高さによって目に見えて強くなったりすることはあるよ」
それにしてもかなりの上昇幅だけどね、と俺は答える。
アメさんを、己の召喚者たるに相応しいと認めているからこそのこの力の入り具合なのだろう。やはり見立てどおり、彼女の召喚者としての素質は抜群と言える。
これならF級のゴブリン程度、5体相手にも引けなど取りはしない。
ましてここまでやる気の入ったサラマンダーの攻撃を、ガムちゃんが《忍術》を使って広範囲に拡散するのだ。下手するとそれだけで決着がつきかねない戦法だね。
「チョコさん、アメ姉。サラさんが火を放ったら、着弾を起点に火遁を使うから。そしたらチョコさんは手筈どおり斬り込んで行って」
「任せて!」
「アメ姉はサラさんに、チョコさんでも対応できないゴブリンがいたら攻撃するように頼んで。私もそっちのほうに回るから、それで取りこぼしも含めて仕留めきる」
「わかったわ。サラさん、頼みますね」
『くきゃー!』
奇襲で全体を攻撃し、倒しきれたらそれでよし、討ち漏らしたら三人と一匹で各個撃破。きれいな流れの作戦だ、問題なく遂行できるとは思うけど、さて。
一瞬の沈黙。のち、ガムちゃんが鋭く短く号令を下した!
「──よし、やろう! アメ姉おねがい!!」
「サラさん! フレイムブレス〜!」
『くきゃきゃきゃあーっ!!』
呼応してアメさんが命じ、サラマンダーが渾身の力で炎を放つ! 大きな火の玉を三つ、立て続けにゴブリンたちへと放つ!
呑気に地面にお絵描きしていたモンスターたちが、不意の熱源に気づくも遅い。身体がとっさに反応し、身構えたのは5体のうちのわずかに1体のみ。
そして、その1体とて無駄な足掻きだ。
「《忍術》、火遁!! 広がり、うねり、巻き起これ火炎の嵐っ!!」
「ぐげぎゃあああああっ!?」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ!?」
サラマンダーの火球がゴブリンの眼前で弾け、大きな火炎となって唸り、襲いかかる。ガムちゃん渾身の叫びのとおり、さながら嵐のような光景だ。
元になった火種が精霊の炎ゆえ、前のダンジョンで披露した火遁とは比べ物にならない威力と範囲。下手するとE級モンスター相手でも倒せそうな勢いだな。
突然広がった火炎をモロに浴びて、何体かのゴブリンが粒子に還っていく気配を感じる。2体残ったか。
位置関係からして一体は別のゴブリンを壁にして凌いだと考えられ、もう一体はそもそも炎からの距離が遠かったゆえ、生じた討ち漏らしだろう。
「切り込み! 頼みます!」
となれば、ここからは作戦の第二段階だ。
ガムちゃんからの指示に応じて、生き残りゴブリンに即座に飛び込む人の影。言うまでもないが一応言っておこう。スピードスターのチョコさんだ。
「よーっし! ようやっと私の出番が来たァーっ!!」
「ぐげげぎゃっ!?」
ようやく、と言っていいほど待たされてないだろって感じではあるんだけど、まあ本人的には焦れったくあったんだろう。嬉々としてゴブリンに斬りかかる。
《俊足》を発動してのスピードはレベル10かそのへんにしてはだいぶ早い。いきなり炎に巻き込まれて何が何やらと混乱中の敵を相手に斬りつけては離れ、死角に移動しまた斬りつける、という典型的なヒットアンドアウェイ戦法を取っていた。
なんなら攻撃の都度、離れた際には大きく後退して周囲を見ることも忘れない。関口くんの教え、よく守れてるね。
「関口の指導を踏まえつつも、私が先程見せた立ち回りを意識していますね……見様見真似とはいえよく死角を取れている。目とセンスはいいですね、徳島さん」
鮮やかに死角を取り続ける彼女の動きに、香苗さんが幾分感心してつぶやいた。
たしかに、チョコさんはさっき、ゴブリン相手に真っ向からゴリ押ししていた。それに比べて今は明らかに、香苗さんの死角を取って攻撃する戦法を真似しているな。
無論、香苗さんのテクニックに比べると稚拙としか言えないけど……一度見ただけで真似てることがわかるほどのクオリティで動けるものなのか?
にわかに信じがたい俺の耳に、関口くんの解説が入ってきた。
「《召喚》持ちのアメと《忍術》持ちのガムに比べて、特殊なスキルは持たないチョコですが……戦闘センスは率直に天才的です。落ち着きさえ身につければもっと上に行けるでしょうね」
「これでっ! 終われぇーっ!!」
誇らしげな彼の、掛け値ない称賛とともにチョコさんの叫びが響いた。見れば相手していたゴブリンを、袈裟懸けにバッサリと斬り倒している。
決着だな。粒子に還るゴブリンを前に、満足げにチョコさんは汗を拭った。
そして、もう一方。
最後の生き残りゴブリンも、ガムちゃんとサラマンダーによって倒されようとしている。
「《忍法》、火遁!」
「ぐぎゃああああっ!?」
「い、今っ! サラさん、サラさんアタック〜!」
火種のないパターンの火遁。足元から急に炎が巻き起こり、ゴブリンは慌てた。
そこに合わせてサラマンダーが駆ける。サラさんアタック……まあ、普通に体当たりだな。火を身体に纏った体を丸め、弾丸のように敵へと突っ込む。
『くきゃきゃきゃきゃきゃきゃ、くきゃーっ!!』
「ぐげえええええええっ!?」
火の玉ストレートってこんな感じだろうか。回転しながら突撃した炎をモロに受け、最後のゴブリンもあえなく粒子へ変じていく。
すべての敵が掃討された。誰一人怪我なく、誰一人手持ち無沙汰になることなくそれぞれの役割を発揮しての、完全なるチームワークによる勝利。
これが、おかし三人娘の真の実力だった。
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