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やっぱり年上キラーじゃないか(憤怒)

「まずはアメ姉、部屋に入る手前からサラマンダーであいつらに三発、炎をおみまいしてやって。どれか一体の足下でいい」

「さ、最初は私が……?」

『くきゃ!』

 

 戦闘直前。ガムちゃんがまずは指示した。指揮官役を務める彼女の最初の戦闘、戦端を開くのはアメさんの召喚したサラマンダーによる一撃らしい。

 ゴクリ、と緊張の面持ちでつばを呑むアメさんの隣で、サラマンダーはよっしゃやってやるぜー! と言わんばかりに鳴き声をあげて首を上下させている。さすがに概念存在、精霊なだけはあって人の言語を解するか。

 

「サラマンダーの炎を起点に私が《忍術》で範囲攻撃を仕掛ける。取りこぼしはしないつもりだけど、5体もいるとたぶん漏らすと予想できる。だからそこを、チョコさんに対処してほしい」

「切り込み役じゃなくて後詰って感じだね! 了解!」

 

 策の上では次いで、ガムちゃんが連撃をしかけて敵全体を攻撃するという。火遁だな……火種のないところでも使えるけど、起点となる火種があればより強力な範囲攻撃になる。

 さっきの戦闘ではスライムを吹き飛ばせる程度でしかなかったけど、最下級とはいえ精霊の放った炎を使うなら、ゴブリンくらいは呑み込める範囲と威力が見込めるだろう。

 

 そしてそれでもゴブリンが仕留めきれなかった場合、《俊足》を持つRTA走者志望のチョコさんが倒すわけだね。

 まとめるとアメさんによる奇襲じみた始動、さらにガムちゃんの追撃の範囲攻撃。そして打ち漏らしは速度重視のチョコさんによる近接戦闘で後詰めするって流れか。

 

 変に複雑な手順でない、いい作戦だ。再現性も高いし、シンプル・イズ・ベストかつそれぞれのメンバーが平等に役割を担う、過不足の少ない立ち回りだと俺には思える。

 香苗さんが満足げに頷いているのが見えた。反面、関口くんのあっけに取られた顔が印象的ではあるね。

 

 たぶんだけど、ガムちゃんがここまでしっかり作戦を組み立ててくるって思っていなかったのかも。

 下に見るとかでなく、ほぼ未経験ゆえにいろいろ、非現実的なことを言い出すんじゃないかくらいには思ってた可能性はある。

 だけどこの調子なら問題ないな。中2を患ってる彼女だけど、少なくとも探査者としては地に足のついた考え方をするみたいだ。

 

「わ、わ、私が最初……大丈夫かしら。うまくいくかしら〜……」

「大丈夫ですって、アメさん! 敵に向けて何発かサラさんをけしかけるだけだし、いけますってー!」

「う、ううう。さ、さっきみたいにはなりたくないから、頑張るけど……」

 

 不安を隠せない様子のアメさんに、チョコさんが明るく声をかけるも……さきほどの戦闘でろくな動きができなかったのもあり、ガチガチになっちゃってるな。

 まあ、事実上チームとしての初戦闘の、狼煙を上げる役目のようなものだ。それなりにプレッシャーなのはわかるけど、そう硬直しちゃうとうまくいくものもいかなくなるだろう。

 

 どうにかできないかな? と、何か声をかけられるか悩む。

 と、そんなタイミングでガムちゃんが、アメさんに声をかけた。

 

「アメ姉。アメ姉ならできるよ。さっきもなんだかんだ、私の指示にしっかり応えてくれてたし。絶対大丈夫」

「ガムちゃん……」

「さっき、あんなキツい物言いをした私が言うのはおかしいかもだけど、自信を持って。アメ姉の《召喚》はすごいスキルだし、それを使えるアメ姉はすごい探査者になれるんだよ。ね、山形パイセン」

「……えっ、俺?」

「こういう時こそ年上キラーの出番でしょ、パイセン。しっかりしてくださいよ救世主」

 

 怖ぁ……なんでナチュラルに年上キラーってことにされてんの俺、怖ぁ……

 当たり前のようにアメさんのフォローを投げてきたガムちゃんが俺には恐ろしい。これでなんか裏目になることしたら目も当てられないんですけど。

 

 あー、こほん。と咳払いを一つして俺は、アメさんを見る。

 眉を下げて、見るからに自信ないです感を出している彼女に俺は、とりあえず答えた。

 

「……まあ、アメさんは召喚系スキルに適正があると思いますよ」

「そう、かしら」

「ええ、間違いなく。サラマンダーがそんなに懐いているのが証拠ですよ」

『くきゃー、くきゃ、くきゃ』

 

 アメさんに擦り寄り、心配するように鳴く概念存在を見る。仮にも呼びかけに応じたとはいえ、神霊側の存在がそこまで懐くって実はすごいことなのだ。

 よほど概念存在側が気に入るような魂の色合いというか、雰囲気をしてないとなかなかこうはならない。鹿児島天乃という探査者はそういう点で、才能があると間違いなく言えた。

 

「向こう側のモノに好かれる、これは探査者以前にあなたの素質です。あなたにしかない、あなただけの才能です」

「私だけの、才能……」

「ですから、信じてあげてください。神々にも好かれる可能性を秘めた、鹿児島天乃という人間のことを」

『くきゃー!』

「山形くん……サラさん……」

 

 俺の言葉と、サラマンダーの姿に。アメさんは顔つきを、不安げなものから決意の表情へと変えた。

 強く、凛とした眼差しだ。強気とまではいかないけれど、少なくとも弱気ではない顔。それを見て、ガムちゃんが俺にサムズアップしてくる。

 

 どうにか彼女を動かせたかな? そう思いつつもサムズアップに返す。

 後ろで関口くんが、ボソリとつぶやくのを拾った。

 

「年上キラー……」

「また一人、迷える探査者が救世主によって導かれました……動画だけでなく文字としても残さねば! メモメモメモり、メモメモメモり!」

 

 やめてよ!

 香苗さんも香苗さんで、器用にも《光魔導》で三脚を出してそれにビデオカメラを乗せつつ自分は何やらメモってるし。

 新人三人に比べ、なんだか締まらないよなあベテラン勢。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて一気に読んでしまいました。
[一言] つまり御堂さんの光魔導とは現実で言う所の空中投影されたホログラムを触ることができるという目下開発中の新技術の完成形のようなモノに至っていると… 現実では超音波とかプラズマとかを利用しているら…
[一言] 光魔導って便利なんだなあ(白目)
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