実際問題、謝りやすい環境って大事
「──なるほど! ガムちゃんに作戦を立ててもらって、私とアメさんはそれに沿って動くやり方でいくわけですね」
店長さんからアポを取り、搬入口への立ち入り許可証を人数分もらってきたチョコさんが、香苗さん提案によるガムちゃんを指揮官に据えたパーティ構想について耳にしての第一声がそれだった。
感心と納得。不満の色は見えないけど、大丈夫だろうかと率直な不安が残る。何しろさっきの光景が光景だったからな……ガムちゃんがちゃんと指示を出せるのかも不安なら、チョコさんがちゃんとそれを聞けるかってのも不安が残るのが正直なところだ。
同じような感覚でいるのか、関口くんが窺うように彼女に念押しした。
「そうなる。やれそうか?」
「やります! ガムちゃんには迷惑ばかりかけてましたし、それに……私、いきなりみんなのことまで考えて動けるのか微妙ですし」
苦笑いして答える、チョコさんのほうに蟠りとかは見えない。直情径行なのも善し悪しと言うべきか、良くも悪くも正しいと思ったことに対しては素直に受け入れる性格のようで、そこは彼女の明確な美点だと思う。
逆にガムちゃんが若干、気まずそうにしてるな。ある程度は仕方ないとはいえ、苛つきに任せて辛辣な物言いをしてしまったのを気にしてるようだ。
明後日の方向を向いてどこか、ばつが悪そうにしている彼女の元に、俺は近づいた。さり気なく肩をたたいて、話しかける。
「ガムちゃん、大丈夫?」
「あ……パイセン。えーと、なんでしょう」
「いや、ちょっとさっきのこと、気にしてそうだったし」
そう言うと、彼女は少しばかり息を詰まらせて、それからあたりを見回した。チョコさん、アメさんは関口くんと話しているし、香苗さんは……店の入口の壁に背をもたれかけつつ、なんでもないふうにスマホを弄っている。
だが俺にはわかる。彼女は今、明らかにこちらに聞き耳を立てている。なんなら"すべてわかってますよ救世主様"とでも言いたげな後方理解者面すらしているのだ、嫌でも気づくよ。
ただ、そうした所作は俺にはあからさまに映っても、ガムちゃんの目を誤魔化せているらしい。
とくに気づく様子もなく、彼女はポツポツと話し始めた。
「……苛立ち紛れにああいうこと言うのは、その時はスッキリしますけど。あとになってよくないなって、嫌われちゃうのにって思って反省するんです。なのに苛つくとすぐ、そんな反省だって忘れちゃって……謝ることも、怖くてできないし」
「そっか……難しいよね。俺にもそういう経験、家族と喧嘩することもあるからさ。全部なんてとても言えないけど、少しはわかると思う」
「どうすればいいですかね……ごめんなさいって言葉、どうでもいい時ばっかり言えるのに、肝心な時には言いにくいんです」
沈痛な面持ちを、関口くんたちに隠すようにそっぽを向くガムちゃん。その姿が痛ましくて、俺は何かしら言葉をかけてあげられないか、あれこれと考える。
先に関口くんも言ってたけど、今回の件は誰か一人だけが悪いとかって話じゃない。みんなそれぞれ問題を抱えていて、その結果としてパーティが機能不全寸前に陥っているという話なんだ。だから、ガムちゃんだけが悪いわけじゃない。
とはいえ、事実として彼女は大切な友人たちに苛立ち紛れの暴言を吐き、そしてそのことを悔やんで謝りたいと思っている。気まずさや恥ずかしさが先立ってなかなか謝れないけれど、たしかにそう思っているのだ。
だったら、どうすれば素直な気持ちで謝ることができるか。俺は少し考えてから、ガムちゃんに言った。
「そうだなあ……まずは期待された指揮官としての役割を果たすことだと思うよ」
「え……」
「ガムちゃんがちゃんと指示してさ。それでチョコさんとアメさんとの連携がうまく取れてパーティとして機能したなら……そこで改めて連携の不備はお互い様のことだったってことで、みんなでごめんなさいってできたら。それが一番丸く収まるかなって個人的には思うかな」
「みんなで、ごめんなさい……」
早い話、喧嘩両成敗ってことだ。実際問題お互い様な部分はそれぞれ大いにあるわけなので、ちゃんと事態が解決の方向へ向かった暁には、みんなでお互いごめんなさいってしたら……きっと蟠りもなくなって、みんなで一丸となってパーティとして活動できると思う。
そのためにもガムちゃんがしっかりと、二人に指示を出してうまく連携を取るのは必須なんだ。言うなればパーティの要として今、彼女の底力が問われていると言えるだろう。
「だから。月並みなことしか言えないけど、頑張って。俺の見る限り君はしっかりと考えて動くことができてる。あとは冷静に、興奮することなく……スキル《忍術》由来じゃないけど、それこそ忍者のように。クールに冷徹に、二人の力を引き出してあげてほしい」
「二人の……ために、ですか。チョコさんとアメ姉が実力を発揮できるかどうか、私にかかってるんですね」
「そう。そして実力を発揮した君たち三人が揃えば、向かうところ敵なしってやつだよ。きっと関口くんだってそう思ってる」
俺の言葉は、彼女の心に届いてくれただろうか?
人のことなどわかりやしないけど、たしかにガムちゃんは力強く頷いてくれた。
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