年頃忍者は毒舌ツンデレ
モンスターがすべて消え去った部屋の真ん中へ移動してから、慎重に、言葉を選びながらも関口くんは話し始めた。
今まで嫌われたくなくて黙っていたこと──三人娘のパーティとしての完成度があまりに低いこと。チョコさんもアメさんもガムちゃんも、それぞれがそれぞれに問題を抱えていること。
そして今、本当に3人がパーティとしてやっていくための指導を行う決心がついたということ。それはすなわち、たとえ嫌われたとしても厳しいことを言わなければならないと、彼自身が覚悟したことである、と。
「すまなかった、本当に。今からこんな俺の言うことを聞いてくれなんて、虫のいい話だとはわかっているけど……絶対に3人をパーティとして機能させるよう力を尽くすから。どうかもう一度だけ、もう一度だけ俺を、信じてほしい……おねがいします」
「関口さん……」
深々と謝罪する関口くんに、チョコさんが愕然とその名をつぶやいている。
彼女にとってはまさしく青天の霹靂、といったところか……自分たちが今まで、問題はあれどどうにかやってこれていたと思いこんでいたみたいだからね。
それがまさか、どうにかもなってないしむしろ全然ダメだなんて、言われるまで思ってもみなかったらしい。
正直、いくらなんでも周りを見てなさすぎるんじゃないのかって感じではあるんだけど。まだまだ探査者になって間もない彼女だし、仕方のないことなのかもしれない。
というかそれこそ指導役に指摘され、是正されるべき事柄ではあったんだろう。それを考えるとやはり、関口くんのこれまでのことなかれ的な接し方は、問題を先送りしているに過ぎなかったと言わざるを得ない、かな。
と、そこでガムちゃんがポツリとつぶやいた。
クールな無表情には明確な呆れと、いくばくかの疲れが滲み出ている。
「…………正直、あーやっと言ったかこの人って感じですね」
「ガム……」
「この有様でなんにも言わないし、なんならやたら奢ってくるばっかりだし……見た目だけかよこのイケメンって思ってました、ぶっちゃけ」
「むごい」
カミングアウトした関口くんに触発されてか、露骨に口が悪くなったよガムちゃん。彼でここまで言われるなら、俺なんて服を着て歩いているポンコツくらい言われちゃうんじゃないだろうか怖ぁ……
毒舌をモロに受け、呻く関口くん。そのまま俯き、弱々しく唇を噛みしめると、やがて自嘲の笑みを浮かべて言う。
「そうか……そうだよな。本当、指導役失格だな俺は……」
「そこまでは言わないですって。一応それなりに親身にはしてもらってましたし、座学なんかは分かりやすかったですし。これでもそこそこ感謝はしてます。ていうか変なメンヘラムーヴやめてもらえます? ぶっちゃけ、3人揃ってポンコツな私たちが一番悪いんですから」
「う……お、俺だってポンコツだよ。すまない……」
「……こちらこそ、口が悪くてごめんなさい。まあ、今後はお互い腹を割っていきましょうってことで。よろしくおねがいします」
「ああ、よろしく頼む」
落ち込む彼にバツが悪くなったのか、目を逸らしつつももごもご謝るガムちゃん。口が悪い自覚はあるけど、苛立つとついつい口走るのを抑えられないって感じだろうか。
口は災いの元、あるいは舌禍という言葉もあるくらいだ。たとえ内心はどう思っていようと、言葉にしないように気をつけたほうがいいと俺は思うんだけどね。まあ、そこは機会があったら伝えてみてもいいかもしれない。
続いてはアメさんが、すごく落ち込んだ様子で関口くんとガムちゃんに話しかける。さっきもだけど、彼女に関しては自分の課題についてはっきりと自覚的みたいだ。
申しわけないですオーラ全開で、二人に謝っていく。
「その、関口くん。ガムちゃんもだけど、ごめんなさい。私が足を引っ張っちゃって」
「アメ……そう、だな。状況に即して動けない今の君は、明確にパーティにとっては枷になっている。と、言うしかない」
「って言っても、指示さえ投げればそれなりに動いてくれるんで、私的にはまだマシなんですけどね。召喚された精霊とか自体は頼りになりますし……アメ姉自身も、戦闘でこそものの役には立ちませんけど」
「うう……」
関口くんとガムちゃんもことここに至り、もはやなあなあで済ませるつもりもないみたいだ。言葉を選びながらも、戦闘時に棒立ちになりがちなアメさんの姿勢について論じていく。
オブラートに包む関口くんはさておき、はっきりとものの役に立たない、というガムちゃんの辛辣さが目立つ。けどまあ、言えばやってくれるからまだマシなんてフォローっぽいことを入れるあたり、彼女なりに気を遣った物言いなのだろう。
実際、落ち込むアメさんに慌てて二の句を継いでいるしね。
「立ちませんけどっ。でも、普段はやっぱり頼れますし。テンパらない場面だとすごく気遣いしてくれる、優しい人ですから……私はアメ姉のこと好きですよ、割と」
「ガムちゃん〜……!」
「わぷっ!? ちょ、抱きつかないで、暑い!」
感動して抱きつくアメさんに、頬を染めながらも抗議するガムちゃん。けれど跳ね除けたりするわけでもないあたり、本気で嫌がってるわけではないんだろう。
口は悪いけど、チョコさんにしろアメさんにしろ関口くんにしろ、嫌いなわけじゃないんだな。むしろ日常の場面では好きで、だからこそ連携も何もあったもんじゃないパーティの現状に、自身の負担の大きさも踏まえて苛ついているのかもしれない。
そう考えるとやっぱり、今このタイミングで腹を割って話す機会を得たのはよかったんだろうね。
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