戦い終わって途方に暮れて
「よーっしトドメーっ!!」
「ぐぎゃあああっ!?」
気炎をあげてチョコさんが剣を振るう。荒削りだが才能は感じる鋭い斬撃がゴブリンを袈裟懸けに断ち、そのまま粒子へと還していく。
部屋に入ってすぐさま、一人で爆走していったのは仰天したけど。さすがにゴブリン一体ならどうとでもなるみたいでよかった。
先走った挙げ句に返り討ちってのは、さすがにちょっと……って感じはするからね。
「ぴぎー?」
「ぴぎぎぎー!」
残るはスライム二匹。ガムちゃんが足止めしていたモノたちだけだ。手裏剣がいくつか刺さっているけど、ダメージはそんなにないみたいで戸惑っているらしいがそれだけだ。
けれどすでにそちらも決着が近い。ガムちゃんがスライムを間に挟むように、サラマンダーと一直線に並ぶ位置についてそのまま指で印を結んだ。
あっ、忍者がよくやるやつ!
「サラマンダー! そっちに吹き飛ばすからあとは任せる! ──《忍術》、忍法・火遁!!」
「ぴぎぎー!?」
「ぴぎぎぎ!?」
「に、忍者だー!?」
スライムのいる地面から吹き上がる炎。モンスターたちをサラマンダーのほうへ吹き飛ばす勢いのそれを見て、俺は思わず声を上げてしまう。
忍者だ、リアル忍者がいる! リアル忍者のマジ火遁初めて見た!
《忍術》に関する知識は当然あったものの、実際に見るのはこれが初めてだ。すごい、忍者って感じで印を結んだら炎が巻き起こった。
見た感じ、指向性がある爆発のような炎らしい。威力は低いけど、スライム程度なら軽く吹き飛ばせるか。レベルが上がれば《炎魔導》の半分程度にまでは出力を高められるかもしれない。
さらに加えてゆくゆくは、水属性の水遁や土属性の土遁、雷属性の雷遁など、多様な属性の攻撃を扱えるようになるだろう。そうなれば汎用性という意味では、恐ろしく器用な探査者になることが期待できる。
新潟花夢……ガムちゃんの持つ可能性は、言ってしまえば他人事な俺でも期待してしまうほどのものがあると言えるね。
『くきゃー! くきゃーくきゃ!』
「アメ姉、指示! 案山子じゃないの、ぼーっとしない!」
「は、はい! さ、サラさんお願い、フレイムブレス〜!」
『くきゃきゃああああっ!』
吹き飛ばされた二匹のスライム。宙に舞うゼリー状のモンスターを、すかさずサラマンダーが迎え撃つ。
ぎこちないながらもしっかりと指示を出したアメさんに応えるように、大きく口を開けた。瞬間、そこから放たれる火炎放射。
サラマンダーは火属性に相当する精霊ゆえ、攻撃方法も当然火にまつわるものになる。条件を一つ満たせばすぐに呼び出せる下級の概念存在だけど、それでも威力はそれなりに見込めるか。
「ぴぎ──!?」
「きぎゃ!?」
『くきゃー! くきゃ!』
「や、やった! すごいわサラさん、ありがとう〜!」
放たれた火炎に飲み込まれ、先の火遁のダメージもあり粒子へ還っていくスライムたち。これですべてのモンスターが倒されたことになるな。戦闘終了か。
勇ましいんだかなんだかよくわからないけど、とにかく鳴き声をあげるサラマンダーに、アメさんがホッとその場にへたり込んで感謝を告げる。
戸惑い、パニックになっていたから大丈夫かよ、とは正直思っていたけど、なんとか持ち直せたみたいでよかった。
《召喚》系も条件を満たせば多種多様な属性、性質を持つモノたちを呼び出せるわけで。そういう意味では先の《忍術》に負けないほどに汎用性が高いスキルだろう。
ただ、やはりレベルを上げていって達成可能条件数の上限を上げないと、より強力な概念存在を呼び出せないので……そこは今後のアメさん次第か。
称号《巫女》が活きてくる段階、神々を呼び出せるのは、条件を3つ満たしたあたりからになってくるので、まだまだ先の話だね。
役割を果たしたサラマンダーが、光とともに消えていく。大概の場合喚び出された概念存在は、戦闘が終われば元の領域へと帰っていくのだ。
概念存在たちの居場所。神界だの魔界だの、天国だの地獄だの、あるいは精神世界だの裏世界だのなんだの。いろいろ呼ばれ方はあるようだけど、要するに現世でない彼岸の領域だ。
ちなみにそういう場所は無論ながら、システム領域とはまた別口だ。システム側の居場所は、そうした此岸も彼岸も併せたすべての領域の裏側に存在する。
まあ、それぞれにそれぞれの住処があるってわけ。
「みんな、お疲れ! さすがに余裕だったね!」
「た……た、助かったわ〜。ありがとうガムちゃん、指示を出してくれて〜」
「…………はあ。まあ、いえ。結果オーライってことで」
戦闘を終えて三人娘が寄り集まって、互いの健闘を称え合って……は、ないな。
チョコさんは余裕綽々って感じで話すけれど、アメさんは胸に手を当ててガムちゃんに感謝している。それを受けてのガムちゃんは、クールな無表情というか、何かをやり過ごすような遠い目で結果よければ的なことをつぶやいていた。
「……どう、でした?」
一部始終を見た俺と香苗さんの傍、関口くんが不意に尋ねてきた。苦い顔を浮かべているのは、彼からしても俺たちがどう答えるかを半ば、予想していてのものだろう。
香苗さんと顔を見合わせる。互いに無表情だ。言いたいことは概ね同じなんだなと、その顔から察する。
決して彼女たち3人を否定するわけではないけれど、と前置きを挟んでから。俺と香苗さん、二人の声が重なって関口くんへの答えを告げた。
『これはひどい』
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