中二系クールポンコツニンジャ(意外と毒舌)
微妙に気まずい雰囲気のまま、それでもダンジョンを進む。あと一部屋、モンスターがいるだろう箇所を押さえればあとはコアのある最奥のみだ。
探査を始めて30分程度経過しているが、F級ダンジョンにしては時間がかかっている方なのは……戦闘よりも道中の会話や三人娘への指導、説明に時間をかけているということの証明とも言えた。
「関口さん、大丈夫ですか……?」
「ん、ああ。大丈夫だよ、ありがとうチョコ」
チョコさんが、考え込む関口くんをしきりに気にする。ついさっき香苗さんに言われてからずっと彼はそんな調子で、だからこそ彼女としては心配なんだろうな。
寄り添って歩く二人を背後から、心配しつつも若干いいなー、青春だなーって眺めていると、アメさんがそんな俺に近づいてきた。なんでもないふうに話しかけてくる。
「山形くんは、どう思う?」
「え。え、な、何がですか?」
「関口くんの、ああいう考え方のこと。あと、御堂さんの主張についてとか。ほら、割とありがちといえばありがちな議論でしょう?」
眼前でイチャついてるカップルのことをどう思う? って聞かれたのかと一瞬焦った。
アメさん的には真人類優生思想の関口くんと、それに反駁した香苗さんのことを言っているのだとすぐにわかったけど、危うく羨ましいですって白状しかねなかったよ。怖ぁ……
それはさておき、関口くんと香苗さんの考え方について、か。まあ言うまでもなく俺としては、香苗さん側だよね。
探査者の理念がどうのこうのって話以前に、そもそもオペレータって別に真人類でもなんでもないし。香苗さんが言ったように、ダンジョンに潜ってモンスターと戦う力を持つだけの、ただの人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。
思想信条というより、システム的見地から真人類優生思想なんてのは違うと言わざるを得ないし。山形公平個人としても、高々スキルやらレベルやらがある程度でドヤ顔しちゃいかんでしょってのは思うし。
あらゆる点から関口くんの味方にはなれないんだけど……敵かっていうとそれもちょっと微妙なところだったりする。
「俺は真人類優生思想なんておかしいと思いますし、香苗さんと概ね同意見ですけど……かといって、関口くん個人の思想信条を否定する気もあんまりないんですよね」
「あら、そうなの? そういう思想を持つこと自体は、悪くないってことかしら」
「人に押しつけたり、ましてひれ伏せさせたりしなければ。ほら、思想信条の自由ってやつですよ。内心どう思っていようと、それに関しては他人にとやかく言われる筋合いはないと思います」
たとえば真人類優生思想を根拠に、非探査者をまるで道具か奴隷かのように扱い支配するのなら、そんなことは絶対に許さない。
誰にも、誰かを踏みにじる権利なんてないと思うからね。そこは一人の人間として絶対に譲れないラインだ。もし関口くんがそんな真似をしたら、俺はそれを真っ向から否定するだろう。
ただ、仮にそんな欲望を抱えていたとしても、それを実行に移さないんならそれは好きにすればいいと思う。その手の欲望は誰もが持つ側面だと思うし、考えることすら許しませんってのはそれはそれで、潔癖すぎるしね。
過去、実際に自分の思想を主張して回ったらしい関口くんだけど、実行にまでは移した感じでもなさそうだし。だったら別に思うだけ、言うだけなら自由なんじゃないかな〜ってのは俺の個人的な感覚だ。
「あくまで個人的には、ですけどね。世の中いろんな考えの人がいますし、中には俺を間違っているって言う人もいるんでしょう。そういう人たちを否定する気もないですから、このへんの考えについても結局、俺の内心や主張でしかないって感じです」
「そう、ねえ〜……難しいところね。私は、あなたの考え方に一番賛同できるけど。でも、それが絶対的に正しいわけでもないものね」
はふう、と息を吐いてアメさん。彼女としてもあれこれ、思うところはありそうだな。
ていうか彼女自身は真人類優生思想についてはどう考えているんだろう。もっというと他の2人、チョコさんやガムちゃんは。
気になって尋ねてみると、彼女は苦笑いしつつも答えてくれた。
「私は、そういうのよくないって思うわね。御堂さんには同感で、でも関口くんを完全に否定するほどでもないから……やっぱりそうね、山形くんに一番近いかも」
「なるほど」
「チョコちゃんはあれで案外、その手の思想は大嫌いよ。だから彼がああなってること、心を痛めてるみたいね」
「……つらい」
俺から見てもチョコさん、関口くんのことが好きなんだろうに。その彼が持つ探査者観ってのが、彼女にとっては決して受け入れられないものというのか。
うーん、つらい。立場の違い的な苦しさも垣間見えて、寄り添う二人がなんだか物悲しいものに見えてきた。
「そして、ガムちゃんなんだけどね……」
「私、そういう思想とかどうでもいいんで」
「おっ、ガムちゃん」
話に上がった途端、当の本人がやってきた。さっきまで香苗さんとあれこれ話に花を咲かせていたみたいだけど、こっちの話も聞いてたみたいだな。
と、アメさんの苦笑いが深まった。同時にガムちゃんがおもむろにクールな真顔のまま、俺にダブルピースを向けてくる。
えっ、何?
「この子、探査者全体というより自分が選ばれた存在だって思ってるみたいで……」
「探査者じゃなくて私が特別なんで。私こそが真人類なんで。仮に支配者になるならそれは探査者じゃなくて私ですからそこんとこヨロシク。まあ、支配とか面倒ですからしませんけど」
「えぇ……?」
「世界は私でできている。今はポンコツでも、そのうちきっと強くなる。ヨロシク」
まさかの覇王思考。そっかこの子、中学2年だもんな……
クール系中二病というまさかの正体を可憐に晒したガムちゃんは、たぶん数年後もだえ苦しむハメになるんだろうなとうっすら考えて、自分にもダメージが入る俺だった。
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