暗殺するより堂々と虹を架けたほうが早い現実
以前から、香苗さんのステータスにスキル《暗殺術》があるのは承知していたけれど。
思えば、俺が見てきた彼女の戦闘風景においては概ね《光魔導》がメインであって、暗殺スキルを使う場面に出くわしたことはなかった。
それが今回、スタイルをそちらに切り替えて戦うのだという。この3ヶ月で初めてのことに、目を丸くする俺へと香苗さんは続けて言ってくる。
「私の戦法は基本的に《光魔導》がメインなため、《暗殺術》を使っての戦闘など私自身、年に一度二度あるかないかと言ったところですが」
「そんなに頻度が低いんですか……」
「使う必要がないですからね。大概の場面で《光魔導》のほうが強く、汎用性が高く、そして便利です」
身も蓋もない話だけど、まあこればっかりはね。
《光魔導》はあらゆるスキルの中でも相当レアな部類に入る。自力獲得の条件も判明していないみたいだし、そもそも魔導系スキル自体が稀少というのもあるし。
そんなだから性能もそれ相応に高い。香苗さんの場合は虹を架けてそこから様々な攻撃を行うわけだけど、範囲も威力も自由自在だからとにかく攻撃方面での用途が幅広いのだ。
S級に昇格するにあたって出力調整に、さらに磨きがかかったことでパワーアップまでしてるしね。
そんな《光魔導》に比べると、レア度もそこまで高くない《暗殺術》をメインにする必要は、基本的にはないだろう。
「……ですが、こと新人に対して手本を見せるという意味においては《光魔導》よりも適していると言えます。何しろ立ち回りを意識する必要のあるスキルですからね」
「たしか、対象の意識外からの攻撃に対して補正がつくスキルでしたね。要するに不意打ち時に威力アップするような感じの」
「ええ。ですから、相手の死角に回り込んで攻撃する、という近接戦闘におけるスタンダードを教えるのに都合がいいんですよ」
説明する香苗さん。まさに仰るとおりで、《暗殺術》というスキルの効果は不意打ち時の威力上昇という、地味ながら強力なものとなっている。
意識外からの突然の攻撃って効くからなあ。殴られる! ってわかっていて殴られるのといきなり殴られるのとでは明らかに受けるダメージが違う。精神的余裕もなくなるし、わかりきった大技を食らうよりよほど嫌な戦法だろう。
モンスター相手のみならず、近接戦闘時にはいくつかのセオリーがある。真正面から殴りかかったり、ヒットアンドアウェイを試みたり、あるいは一撃必殺を狙ったりと様々だ。
敵の死角に回り込んで攻撃、というのを繰り返す香苗さんの暗殺戦法は、そうしたセオリーのうち、ヒットアンドアウェイに属するのかもしれない。
関口くんが続けて三人娘に言う。
「3年前、俺も香苗さんの《暗殺術》戦法で動き方を教わった。本当に流れるように敵の不意をつくから、まるで蝶のように美しいぞ、この人の戦い方は」
「へえ……! 近接戦での動きなら私にも学ぶところはたくさんありそうですね! 頑張って勉強します!」
「御堂さんといえば"虹の架け橋"、《光魔導》のイメージが強いけど。そんなサブスタイルも持っていたのね〜」
チョコさんとアメさんが感心する。特に3人の中ではチョコさんとあと、ガムちゃんが香苗さんの暗殺術から学ぶことはあるだろう。
にしてもたしかに、香苗さんの探査者としてのイメージって《光魔導》で出した虹でやりたい放題する姿が強いよね……俺の場合、探査者以前に伝道師としての奇行があまりに印象深すぎてそっちばかり思い浮かぶけど。
普通の探査者からすればなるほど、御堂香苗といえば虹なのかと改めて気づきがある俺だ。
「山形パイセンも、御堂さんからそういうの教わったりしたんですか? 近接スタイルですし」
「え、いや俺は……正直、香苗さんの戦うところだって数回しか見てない……」
「……えぇ? S級の人がいつも近くにいて?」
一方でガムちゃんが俺に尋ねてくる。数ヶ月ずーっと一緒にいてこいつ、ベテラン大先輩からなんにも教わってねーのかよ的な視線が微妙に痛い。
いやこれについては仕方ないんだ。諸々の事情から彼女の戦うところを見る機会なんてなかったんだ。俺と香苗さんの名誉のためにも一応、弁明しておく。
「俺のスキル《風さえ吹かない荒野を行くよ》ってのが一人での戦闘時、全能力10倍っていう無茶苦茶な効果でさ。ソロ戦闘せざるを得なくて、香苗さんには口頭でのアドバイスだけお願いしてたんだよ」
「ああ……聞いたことあります。とんでもない名前と効果のスキルだって。本当だったんですね……」
「あと、俺が真っ向から殴ったりプロレス技極めたり投げ飛ばしたりって方向だったから。香苗さんのやり方とは噛み合わなかったんじゃないかなあって」
「たしかに、さっきも動き自体はとにかく近づいて殺るって感じのストレートなムーヴでしたね。パイセン、マジヤベーって思いました」
「そんなに!?」
忌憚ないお言葉にショック。いやまあ、どうしてもそう思われちゃうよね、俺の戦い方って。
とにかく基礎能力をバフで馬鹿げた領域にまで引き上げた上で、ひたすらまっすぐ襲いかかるというウルトラ暴力殺法だからなあ……
一番簡単で話が早いから仕方ないんだけど、もうちょっとスタイリッシュなやり方を考えてもいいのかもしれない、なんてつい考えちゃうよね。
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