そこそこ不思議なダンジョン
配信チャンネルの話から思わぬ称号獲得を果たした俺は、とりあえず田んぼダンジョンの最奥に向かい、ダンジョンコアを回収して踏破を果たした。
これで後はダンジョンを出て、報告をして、実家に帰って晩御飯だ。今日はトンカツって言ってたしな、腹はバッチリ、空かせてあるぜ〜。
道すがら、先程得た称号《世に向け己を放つ、大きなうねりの生まれる兆候》の解説と、半径1km以内にいるモンスターの位置を特定できるという効果について香苗さんに説明する。
まさかシステムさんまで、俺に教祖めいた立場になれとか思ってるらしいとは。香苗さんじゃあるまいに、さすがにそれはないだろうとか思っていた俺は浅はかだった。
『と言ってもー? システムさんと香苗さんとでは、公平さんへのスタンスは違ってそうですけどねー。香苗さんは本当に宗教集団の教祖として据える気満々でしょうけど、システムさんはあくまで……げふんげふん。ごめんなさい口が滑りました忘れてください』
おいこらぁ……そこまで言って忘れてくださいで済むと思ってんのかお前ぇ!
あくまでなんだ? その続きは? 言えリーベ、言うんだリーベ、言えリーベ!
『れ、レベル300になったら言いまーす! それまでがんば、がんば!』
がんば! じゃないよ。お前が頑張るんだよ!
……だんまりか。こうなるとリーベは中々出てこない。ほとぼりが冷めるか、それどころじゃないことが起きるまで反応しやがらないのだ。
まあ、良いけどさ。元よりリーベを現出させるレベル300って目安があることには変わらない。あいつの本体が現れた時、締め上げて聞き出すことがまた一つ、増えただけだ。
ということで今はさておき。香苗さんと、称号の効果について話す。
「モンスター探知の効果はたしか、スキルの方でありましたよね」
「《気配感知》ですね。取得条件が判明しているため、大体の探査者ならば取得しているスキルですよ。私も持ってますし、ほら」
自身の探査者証明書を見せてくる。たしかにスキル欄に《気配感知》がある。なるほど。
取得条件──何もかも意味不明な俺のスキルと異なり、一般的なスキルってのは概ね、特定条件を満たすと取得できる仕組みになっている。剣をウン千回振るうと《剣術》が手に入るとか、刃傷を一定回数受けると《耐刃》を身につけるとかだ。
ちなみに俺もいくつかの汎用スキル、取得条件がすでに広く知られているものを得ようとしたことがあったが、何をどうやっても手に入れることができなかった。
リーベ曰く『公平さんの取得可能スキルは特別製のみ。アドミニストレータ用のスキルを獲得できる時点で、それは確定している』とのことだ。
何がどうなってそんな勝手な話が確定したのか、問うてもやはりはぐらかされたんだけれども。
俺の手にしているスキルや称号の効果のことごとくがインチキ効果ばかりだし、多少は仕方ないかなとも思って深くは考えないでいる。
それに言ってしまうと、たぶん今後も称号やスキルは適宜与えられるんだろうし。受動的な姿勢で自分でも呆れる話だが、こればかりはシステムさん次第ってやつだな。
ともかく、称号にて得た今回の気配感知効果のことだ。
場所、環境を問わずに半径1km以内のモンスターをすべてサーチする──分かりきった話だがこれも大概な性能だ。
何せスキル《気配感知》を持つ香苗さん本人が認めるところなのだから。
「障害物やコンディションを無視しての場合、私で精々が300mといったところですか。環境や体調を考慮した場合、さらに狭まりますね」
「それを思うと俺のは、その辺の時々の条件をすべて無視して一律1kmですか。ダンジョン内でそんな広範囲、何の役に立つのかって話ですけど」
「今はまだ、ですね。公平くんならじき、昇級と共に分かるとは思いますが」
ピッと指を立てる香苗さん。
そのまま歩きつつ、ダンジョンの壁に指差す。
「B級やA級のダンジョンにもなると、通路や部屋も異様に広かったりするものがよくあるんです。ものによってはそれこそ、一部屋1平方キロメートルくらいはありそうなダンジョンさえ、あります」
「え、えぇ……? なにそれ、怖ぁ……」
「まるで異世界に訪れた気分になりますよ。そもそもそんな大きなダンジョンが時折、そう距離も離れていないところに点在していたりするんです。物理法則というか、この世の常識を完全に無視していて笑えてきますよ。学者的には発狂ものでしたが、ね」
そう告げる香苗さんの、どこか遠い目をした乾いた笑み。
どうも本当に、よく分からない何かを目撃するみたいなんだな……上級探査者ともなると。物理法則や常識を無視って、ファンタジーじゃないか。
「それを考えれば、あなたの気配感知はこれから先を見据えた、長期的価値のあるものだと思います。さすがですね、救世主」
「これから先……俺が上級探査者になってから、ですか」
割合すぐに登り詰めると思いますよと、香苗さんは親指を立てて俺に向けてくれた。
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