救世主ビィィィィィィィム!!
両拳に青い光が灯る。はじめは小さく、けれどすぐに大きく迸る輝きとなってやがては、風をも巻き起こしていく。オーラ的なパワーの奔流。
最近割とお気に入りの技だ。
称号《すべては荒野を照らすため》の、バフ効果一点集中能力によって実現した超威力の攻撃方法。
直接殴ればモンスターは溶けたバターみたいになっちゃうし、遠距離から正拳を放てばなんか、衝撃波どころかビームが出るようになっているほどの代物だ。
正直、いつの間にこんなことに? ってぐらい気づけばできるようになってたことだったりする。
ええとたしか、三界機構の魔天戦の時にはもうビームだった気がするんだけど、それ以前からじゃないかなって言われたらそうかも……って思っちゃうほどだ。
おそらくはバフを一点集中させる能力が影響しているんだろうとは思う。
ただ、俺が明確に"あれ? これもう衝撃波じゃなくてビームじゃない? "ってなったのはこないだの探査者イベントでのリンちゃんとの戦いでのことなので、どうあがいても気づくのが遅いと言われても反論できないくらい、今更な話であるのもたしかだね。
「と、いうわけで試そうというわけです。なんか気づいたら衝撃波から進化していた、この山形くんビームの使い勝手とか性能についてを」
「なるほど! 名づけて救世主光線とでも言うべき御力を、改めて検証されるわけですね公平くん!」
「ぬーん」
斬撃以外全部無効という、ハチャメチャな耐性を持っているカップルスライムの赤いほう。そいつを相手にせっかくなので、ビームだか光線だかをいろいろ試させてもらおうという旨を伝えたところ、香苗さんが大ハッスルしてカメラを俺に向けてきた。
めちゃくちゃ興奮した様子で俺と赤いのを俯瞰で撮影している。何やら期待してそうなのはわかるけど、それに添えられるかどうかはぶっちゃけ未知数だ。
これまでの経験からして威力は筋金入りなんだけど、無意識というか無自覚で使ってきたからなあ。いまいち、どう扱うべき能力なのかもわかってやしない。
とりあえず安全な位置まで彼女には下がってもらって、俺は赤いのに向き直った。やはり低い音を放つスライムに、力を込めた両拳を腰まで落として向ける。
「たぶん斬撃扱いにはならないとは思うが……!」
「ぬーん」
「耐性までぶち抜かない保証もないしなっ! でやあぁぁぁっ!!」
勢いづけて両拳を前方、赤いのに向けて放つ。同時に溜め込んでいたエネルギーが解放されて、一目散に敵へと放射された。青白いビーム、意識して出すのはこれが初めてかもしれない。
いよいよ人間離れしてきたなあ、この4ヶ月で。身体どころか心、魂レベルであれこれ変わっちゃった目まぐるしい日々につい遠い目になりながら、俺はダブル山形ビームを赤いのに直撃させた。
やつを中心に巻き起こる爆発。香苗さんがその様を録画しながら叫ぶ。
「やりましたか!?」
「それたぶんやれてないやつですねえ」
やれたかどうかわからないうちから"やったか!? "的なことを言うと、大体の場合はやれてない。お約束をみごとに体現してみせた香苗さんにツッコみながらも、言葉どおりのやれてなさ、手応えのなさを覚えた。
爆風と砂ぼこりに塗れた中から、赤スライムの姿が見える。無傷だ。
「ぬーん」
「やっぱりか。どこにも刃物要素なかったし、仕方ない」
相変わらず低音で唸っているやつを見据えつつ、あれこれ考えを巡らせていく。
今のダブル山形ビームは、威力的には普通の山形くん光線と大差ない。少なくともC級モンスターくらいなら一撃で仕留められるものという自負はある。
そんなのが直撃してなお無傷というのだから、やっぱり斬撃系の攻撃でなければ有効打は与えられないということなんだろう。
もしくはいっそ、因果を操ってやつの無効化能力を無効にするか、俺の攻撃をむりやり斬撃ってことにするかというのもあるんだけど……そこまでやると身体への負担が怖いし、何より因果律を操作するに値する案件じゃない。
早い話ナイフの一本でも常備しとけばそれで終わる話を、わざわざ大層なことに手を染める必要はないように思うからね。
「もっとも、今から放つ攻撃次第で……ナイフだっていらなくなるかもだけどな」
「ぬーん」
またしてもこちらに向けて進撃してくる赤いの。両腕に再度青白いオーラを纏わせて、俺は先ほどとは異なる形で構えた。
左拳を腰に据え、右手をそこに添えるように持っていく。ちょうど、居合の構えにも似ているかもしれない。両拳の光は当然重なり合って、一つの大きな輝きとなる。
ここからだ。俺は注意して集中した。
──薄く、鋭く。疾く、強く。すべてを切り裂くような、イメージで。
近づいてくるスライム。射程距離に入った瞬間、俺は一気に動いた!
「──ぉりぃゃぁあああっ!!」
居合抜きの動作。右腕を一気に振り上げる。同時に両手のオーラは勢いよく伸び、一筋の大きな閃光の刃となって解き放たれた。イメージどおりの鋭く、疾風のように力強い、刃型のビーム!
瞬く間に赤いのに迫ったそれは、斬撃でなければおそらくやつを吹き飛ばすだけで留まるだろう。その場合はもう、諦めてこいつをスルーするか香苗さんの《光魔導》に任せるしかない。
だが、それもどうやら問題ないみたいだ。
「ぬ────」
低音で唸ろうとして、それが途切れた敵の姿は。
みごと逆袈裟をなぞる形で、スッパリと両断されていたのだから。
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