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今回ばかりは山形も悪い

 金剛猿撃破後、トントン拍子で進撃すること今は早、4階。ここに至るまで特に目立つモンスターやダンジョンギミックもなく、概ね予定どおりに探査は進行している。

 俺と香苗さんは次の部屋へと向かう道をひたすら歩いていた。見えてきた部屋の中、すでに気配は感知していて二匹、モンスターがいる模様だ。

 

「ぬーん」

「むーん」

 

 部屋の入口前で立ち止まり、そこからこっそり内部を見る。なんだろう、スライム? みたいな赤と緑の人型が二つ、部屋の中をあちこちうろついていた。低く唸るような音をあげているが、口とかはついてないのでどこから鳴らしているのかわからない。

 モンスターなのは間違いない。香苗さんがそいつらを見て、軽く驚愕の声をあげた。

 

「カップルスライムでしょうか……珍しいモンスターがいますね。私も探査者になって7年にもなりますが、初めて見ました」

「スライム、え、カップル? 夫婦とか恋人、なんですか?」

 

 香苗さんですら初見という。それだけレアなモンスターなのだろう、スライム二体を遠巻きに眺める。

 たしかに夫婦と言われるとそれらしさはある。色違いなだけで同じ形だし。ただ、マジで夫婦だったりするならかなりビックリだぞ。モンスターに身内の概念とかあるのか?

 

 思わず怪訝な顔になる俺に、香苗さんはたしか……と思い出すように話していく。

 

「私も人伝に聞いた程度でしかないのですが、色違いで二体一組で出現するモンスターなのだとか。必ず赤と緑の組み合わせで現れることから、面白がったのか第一発見者はカップルと名づけたみたいですね」

「色違いで、しかも必ずセットで現れるから夫婦みたいだ、というわけですか」

「そうなります。しかも厄介なことに、やつらは極端な性質をそれぞれ、有していたはずです。たしか、一応メモを取っていた、はず……ええと?」

 

 と、そこで懐からメモ帳を取り出す香苗さん。俺に向けたカメラを片手にもう片方の手で、器用にパラパラと捲っていく。

 別にこういう時くらい、カメラは控えてもいいんじゃないかなあ……あとで編集する時にどのみちカットするんだろうしと、思いながらもなんとなくレンズを見る。これがいつも、例のチャンネルの動画を映してるんだよな。

 

 思い立ち、いたずら半分にカメラに向けて手を振って笑ってみる。いえーいみんな見てるぅ〜? 救世主(笑)のシャイニング山形でーす。

 

「……何してんだ俺」

「信者たちに向けての素晴らしい笑顔と挨拶をありがとうございます公平くん」

「うぉわっ!?」

 

 ふと我に返って呟くと、まさかの反応が返ってきてビビる。見ればカメラの向こうで香苗さんが、開き終えたメモ帳はそのままに俺に向け、めちゃくちゃ嬉しそうにはにかんでいる。

 見てたのかよ! メモ帳なんか漁ってたの、そんなすぐ終わったのかよ!?

 一人遊びを見られていた。恥ずかしさに顔が赤くなる感覚を覚えながらも、俺は顔を引きつらせて尋ねた。

 

「み、見てました!?」

「それはもうバッチリ! ああなんて素敵なことでしょうついに公平くんが救世主として我々信徒たちに向けて笑顔を向けてくださいました思えば今までは恥ずかしがって照れくさがってなかなかカメラのほうに視線を向けてくださらなかったわけですがおそらく今私がメモ帳に集中していると思って手持ち無沙汰に感じていたところたまたま目があったカメラに向けて茶目っ気を発揮なさったというところですよね最高です公平くんのあどけない照れたような笑みや幼気な感じを受ける手の振り方そして何より私が見ていたと知った時の驚かれた表情赤くなっていくかわいすぎるお顔すべてが至高ですなんて愛らしくも尊い素敵すぎますああ正直この映像は世に公開せず私だけのものにしていたい私だけに向けてくれる笑顔としたいですがそれは伝道師として許されません救世主が私たちにと示してくださった友愛の笑みと手振りを私欲をもって独占しようだなんてたとえ神が許しても他ならぬ私自身が許しませんこのスペシャルサプライズ映像は私が責任を持って必ずや全世界に公開し広く知らしめますのでなにとぞすべてこの伝道師御堂香苗におまかせくださいませ!!」

「発禁です! 封印です今のシーン、カットですカット!」

「なりません!! ノーカットで一部始終をお送りいたします!!」

 

 もはや真っ赤な顔の俺の、全霊の訴えにも香苗さんは力強く拒否を叫んでカメラを回すばかり。

 とんでもないことをしてしまった。取り返しがつかない。ネットで全世界に公開されちゃうよ、アホ面としか言いようのない俺の、腑抜けた笑みと気の抜けた素振りが……何より顔を真っ赤にしてあたふたしている今のこの、醜態がっ!

 頭をフル回転させる。どうにか、どうにかあの動画の公開だけは避けたい。引きつった笑みで、俺はおもむろに、香苗さんにゴマをすってみた。

 

「か、香苗さんにだけの笑顔ってことで一つ……どうです?」

「ふふ、ありがとうございます。そのお心だけで十分ですよ、公平くん。さてカップルスライムの極端な性質についてですが」

「す、スルー……」

 

 怖ぁ……伝道師から探査者へと切り替わることでナチュラルに話を打ち切ったぁ……

 しかも目下のところ最優先事項である、目の前のモンスターについての情報なのだから無碍になどできない。策士すぎるだろ!

 あまりの切り替えの速さとそれに伴うはぐらかしっぷりに戦慄する、俺に構わず香苗さんはまったく真面目な顔をして告げるのだった。

 

「あの二体はそれぞれ、赤いのは斬撃以外、緑のは打撃以外のあらゆる攻撃を無効化するとのことです。緑のほうは問題ないですが、赤のほうは……少し、やり方を考える必要がありますね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分で黒歴史を生み出した……発信されたらアーカイヴに残っちゃうんだぞ!
[一言] かーっ、つれーわー救世主様直々のお言葉で次のステージに登った信者の句読点が死亡しちゃうわー また黒歴史増加で山形悶絶かwww
[一言] そして某同業者から「ウェーイヤマちゃんみたヨー今度一緒にWピースしようぜぇ約束なーウェイウェーイ」と即死攻撃が届くのである めでたしめでたし
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