自ら外堀を埋められに行くstyle(無意識)
香苗さんのキャラバン構想はさておいて、探査者用ホームセンターでの必要な買い物を終えた俺は、早速おニューな装備を着込んでダンジョン探査へと赴いた。
時刻はもう17時過ぎ。今回の探査対象である田んぼダンジョンへは、東クォーツ高校のすぐ近くだから大体徒歩で30分。けれど俺と香苗さんの身体能力なら、ほぼほぼ跳ねて飛んですれば3分近くまで短縮できる距離だ。
そこからダンジョン踏破で一時間、組合に戻って報告して、家に帰る……うちは大体19時前には夕飯だから、ギリギリ間に合うかなってラインだ。別に間に合わなくても良いんだけど、せっかくなんだから家族みんなでご飯食べたいじゃん。
ってなわけで多少、急ぐか。
「香苗さん、荷物持ちをお任せしてしまってすみません」
「何を仰るやら。戦闘面でお役に立てない分、私はあなたのサポート兼動画撮影役です。どうかお気になさらず、思いのままに戦ってください」
俺の荷物──ホームセンターで買った諸々が入っていてそれなりの重量になる鞄を、軽々担いで香苗さん。手にはスマホを握っていて、いつでも動画撮影準備万端って感じだ。
ありがたい話だよ、本当に。さっきのキャラバン構想は、言ってしまえば今の俺たちの延長線上にあるんだろう。そう考えるとたしかに、手ぶらでダンジョンに臨めるからすごく楽ではあるんだよな、このスタイル。
ちょっとマジで、戦闘面はからきしだけどサポーターとしては有能、みたいな超都合のいい人がいないか組合に尋ねてみようかな。もしいたら、もう壮絶に勧誘だ。それが駄目でも必ず連絡先を交換したいもんだ、うん。
「そろそろ行きましょう公平くん。ご家族と団欒するなら、時間は有限です」
「ですね。あ、そのうち俺の家族に会ってやってくださいよ。香苗さんにお礼がしたいって、やかましくてやかましくて」
「……ぜ、ぜひともっ」
移動しがてら、前々から家族に言われていたことを伝える。母ちゃんと父ちゃんも優子ちゃんでさえも、一度香苗さんを連れてこいとうるさいんだよな〜。
チャランポランな俺を探査者として一端にしてくれた礼がしたいって言うんだが、少なくとも母ちゃんは有名探査者にミーハー心から会いたいだけだろうし、父ちゃんはただ美人に会いたいだけだと思う。
優子ちゃんまで乗り気なのは意外だったが、なんだろう? どこか切羽詰まった感じもあるし、何かあるんだろうか。
帰ったらちょっと話してみようかな。
そう思ってるうちに田んぼダンジョンに着いた。早い。
香苗さんも荷物があったにも拘らず俺と同じくらいに到達した。流石だけどどこか興奮したみたいに上気している。え、なに急に、怖ぁ。
「どうしたんです? 何か、顔赤いですけど」
「いえ、別にっ! 救世主様のご家族にお会いできる栄誉に浴して興奮と感動を禁じえないだけですから! まさしくそう、これは拝謁と言えるのではないのでしょうかっ!」
「いやうちの家族いたって普通の家庭ですけど。宗教上の偉大な何かに仕立てないでもらえます?」
さすがに狂信者ムーヴに家族は巻き込ませられない。下手するとあの母ちゃんが聖母呼ばわりされちまう。お歳暮の間違いだろ、ハム的に。
バレたら次の日からしばらく、晩飯が俺だけもやし炒めオンリーになりそうなことを考えつつ、ダンジョンを発見。
こないだ手に入れたダンジョンサーチの効果、割合便利だな。範囲が広いもんだから他にもダンジョンが引っかかるけど、田んぼダンジョンと言える位置のものは一つだけだ。
母校、東クォーツ高校から少し離れた田んぼにて当該ダンジョンに辿り着く。
広々した田畑の真ん中に見事な大穴。これ農家の方々からしたら本気でマジ迷惑だな。いや人間の生活圏内に発生したダンジョンで、迷惑じゃなかったものなんてないんだろうけど。
「こんな迷惑な穴、さっさとなくしちゃわないとですね」
「はい。公平くんのご家族にもお会いしなくてはいけませんしね」
「えっ」
「えっ?」
挨拶って、今日来るつもりなのかこの人?
さすがにそれは勘弁してほしい……心の準備もできてないし、何なら家族だって知るわけない。天然のドッキリものになっちゃうだろ。
「ま、また後日にうちに来るってことでどうです? 今日はさすがに、急すぎてちょっと」
「え……あ、そ、そうですね私ったら! そんな急にお邪魔しようだなんてもう、何を馬鹿な」
香苗さんもどうやら、急に家族と会えとか言われて動転していたみたいだ。我を取り戻して、赤い顔を夜風で冷ましている。
まあ、そのうちでいいんだ。そのうちちょっと家族にあってもらう。それだけ。特に難しいことじゃあない。
そんな、ちょっとしたやり取りをしてから、俺たちはいよいよダンジョンへと潜っていった。
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