モンスターのロマン! 夢の1ターンキルモンキー!
部屋に踏み込んですぐ、飛びかかってきましたナニモノか。とっさに見れば人型のモンスターのようで、俺は即座に応対した。
右手で敵の腕を掴み、引き上げる。引っ張られる形になった胴体に左手を添え、力を入れれば──軽々とその身体を持ち上げる形になり、俺はすぐさま敵を背中から地面に叩きつけた。
「ぬぅぅんっ!」
「ギギャア!?」
ズドン、と部屋全体に轟音が響く。向かってきた勢いをそのまま活かす形でしかも、俺の膂力までプラスしての投げつけだ。威力は相当なものだろう。
ひとまず俺は一歩下がり、俯瞰して部屋の中を見た。今しがた向かってきたモノ以外には何もないみたいだ、気配もしない。
つまりは今、仕掛けてきたやつだけということか。改めて視線を向ければ、敵はどうにか立ち上がろうとしている。まあフラフラで足元も覚束ない様子なので、もう一撃入れれば問題なく倒せるだろう。
敵の姿形を観察する。2m近くある大きな巨躯に、さらに長い両腕と1mほどの尻尾が目立つ。栗色の体毛が深く、先程カウンターを入れる際に触れたけど、かなり硬度のあるたわしのような毛だった。
あれを攻撃に転用されると、擦り傷くらいじゃ済まなさそうだ。
C級モンスターについてはそれなりに予習しているつもりだけど、覚えのないタイプだな。
新種ってわけじゃないだろうし、どういうんだ? 俺は視線は敵に向けたまま香苗さんに話しかけた。
「猿……ですよね。こいつは一体?」
「C級モンスター、金剛猿ですね。初発見時、ダイヤモンドでできた鎧を一撃で粉砕したことから金剛猿。安直ですがまあ、ユニークネームモンスターのようなおかしな名前よりは全然いいでしょう」
「たしかに。しかしダイヤモンドの鎧、ですか。そんなものを砕けるやつが、なんでC級に?」
名前の安直さはさておき、由来が異様すぎて気になる。ダイヤモンドったら大ダンジョン時代以前においては、世界で最も硬いとすら言われていた鉱物だぞ。
そんなもんでできた鎧ってのがそもそも意味わからんけど、それを一撃で粉砕できるなんて芸当、C級扱いでいいんだろうか、果たして?
俺の疑問に、香苗先生はやはり答えてくれる。
「単純な話、対処が容易だからですね。金剛猿は一撃目にすべての力を込めるらしく……その威力こそダイヤモンドさえ砕くほどですが、代償にそれ以降は瀕死になるのです」
「え……あっ、本当だ死にかけてる!?」
「ギ……ガ、ギグ……」
まさかの生態。たしかに金剛猿は立ち上がろうとして失敗し、その場にへたり込んでいる。瀕死としか言いようのない姿だ。
まさか今の飛びかかりが、最初の一撃目だったのか? アレ、まともに食らうとダイヤモンドさえ粉砕しちゃうような一撃だったのか、怖ぁ……
念のために回避しておいてよかった。一撃目だけならA級にも匹敵するだろうそんな攻撃、まともに受けていられないよ。
「研究の結果、一撃目を放った金剛猿は完全回復するまでに約3日、休息を必要とすることが判明しています」
「それはまた……極端な話ですね」
「出会い頭の一撃をいなせばあとはスライム以下。それを自分でもわかっているからか、先手必勝とばかりに奇襲を仕掛けてくる習性。そのへんを考えてもやはり、金剛猿はC級相当のモンスターとして扱われていますね。一時期、一撃必殺猿ともあだ名されていましたがすぐに廃れています。別に、最初の一撃とて致命打にはなりづらいですからね」
「まあ、C級まで至った探査者なら死ぬところまではいかないでしょうしね……」
A級モンスター並の攻撃が当たり前に飛んでくるなら危険だけど、一撃程度ならC級探査者であれば、奇襲といえど落ち着いて当たればやり過ごしようはいくらでもある。
そうした意味ではやはり、一撃必殺と呼ぶには当たらないということなのだろう。ついさっきの俺にしたところで、痛いのは嫌だから避けたけど、別に受けたら受けたで殴り返すくらいは全然できたしね。
以前に邪悪なる思念本体と、一撃あたるごとに顔やら腕やら胴体やらが吹き飛んでは無理矢理再生してまた殴る、みたいなイカれた最終決戦を行ったのは伊達ではないのだ。
いや、まああんなの二度としたくないけど。発狂するほど痛かったのは後にも先にもあの時だけだ。本当に地獄だったよあれは……
ついこないだ行われた地獄絵図バトルを思い返しつつ、俺は心穏やかに構えた。
最初の一撃がすべてなら、あとは煮るなり焼くなりこちらの思いのままってわけだ。無論、長引かせて苦しめるような真似はしないけど、余裕を持って相対できるのも事実。
呻く金剛猿を見据えて、俺は力を引き出していく。
「ギ、ガ、ガガ」
「さて、そういうことならサクッと倒せるわけですね」
「そうですね。一撃目を放ち終えた金剛猿なら、F級探査者でもどうにでもできるレベルです」
「わかり、ましたぁっ!!」
香苗さんの説明を聞くや否や突撃する。わずかな距離だ、即座に詰めることができる。
眼前に広がる、疲れ切った金剛猿の顔。まだ何が起きているのか、これから何が起きるのかも認識していない様子だ。ならばと俺は、モンスターが気づくより先に拳を突き出した。
「輪廻に還ってくれ、金剛猿」
「ギ──!?」
アッパーカット。顎を抉りぬく俺の右パンチは、青白い光を纏い輝いている。
腰の回転を加えた、至近距離からのコンパクトな一撃は、金剛猿の顔面を的確に打ち抜き、即座に消滅へと導いていた。
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