救世主が絡むと町内を一人お祭り騒ぎでうろつく妖怪
受付に並ぶこと10分と少しして、俺たちの番が来た。
いつも応対してくれているお姉さんが、もうすっかり馴染みとばかりに笑って迎え入れてくれた。
「御堂さん、山形さん、こんにちは。今日も探査ですね?」
「はい。お願いします」
わかりました、と頷いてお姉さんは手元のノートパソコンに向き合う。今組合に寄せられている、ダンジョン探査の依頼について調べてくれているのだ。
探査者ごとに異なる級に合わせた、難度のダンジョンをピックアップしてくれる。その上で事前調査で判明している階層や部屋数などの情報もこちらに開示してくれるため、探査者は自分の希望に沿った選択ができる、という仕組みになっていた。
「御堂さんは今回も、見学といいますか撮影で?」
「もちろん。伝道師として救世主の御姿を保存し、あまねく人々に広めるこの活動は私の使命です。すなわちライフワークとも言えましょう」
「わかりました、それではダンジョンの難度は山形さんの現行ランク、Cに合わせてピックアップしますね」
香苗さんのアレなノリをも華麗にスルー。このお姉さん、最初の頃はこうした伝道師ムーヴにひたすら困惑していたばかりだったのが、ずいぶんと慣れてきたものだなあと感心する。
ちなみに受付担当のスタッフさんはシフト制なので、当然ながらこのお姉さん以外の方が相手してくれることも多い。
他のスタッフさんたちは未だ、香苗さんのこうした一面に面食らったりドン引きしたり、はたまた謎の感銘を受けていたりするため、"はいはいいつものこといつものこと"くらいの感じで流してくるのはこのお姉さんだけだ。
なので俺としては一番ありがたい受付担当は間違いなく今。目の前にいる彼女というわけだった。
「……そういえば山形さん。またネットで話題になってますね」
「う……そ、その話は、そのう。今はちょっと、あのう」
「?」
そんなお姉さんが世間話程度だろう、挙げた話題に思わず呻く。首を傾げるお姉さん、美人だけどいや、今はそれどころじゃない。俺は若干のしどろもどろさでやんわり、お姉さんを留める。
ゆっくり、横目でちらりと隣の香苗さんを見る。案の定というべきか悔しげに唇を引き締めていて、苦虫を噛み潰したようとはよく言うが、まさしくそんな感じの表情だ。
お姉さんが怪訝そうに、俺に小声で尋ねてきた。
「あの、どうしたんですか御堂さん? いつもなら狂喜乱舞して神輿の一つも一人で担ぎ、周辺を闊歩するくらいはしそうなもののように思えますが」
「あなたの中の香苗さんはとんだ怪人ですね……とと、そうでなく。その、話題になったきっかけの場面。あの場の近くにいたのに立ち会えなかったってことで、落ち込んでるんですよ」
つられて俺も小声で答えるんだが、当然探査者として身体能力や感覚が強化されている香苗さんの耳には、普通に聞こえていることだろう。さらに落ち込んでる感じの空気が漂う。
そんな彼女に頬を引きつらせながらも、俺はこうなるに至った経緯を思い返した。
つまるところこないだの探査者イベントが発端だった。
午後の部、演習グループのほうに参加した俺は、星界拳正当継承者シェン・フェイリンたっての希望により彼女と一騎打ちをしたのだ。
もちろん互いに安全具を装着した上で、無理無茶は行わない程度には加減した上で戦ったわけなんだけど……他のイベント参加者もたくさんいる中でやったものだから、いろんな人がそれを動画にて撮影していたのだ。
そしたらネットに公開されるのは、もはや一つのお約束みたいなものでして。
リンちゃん渾身のガチ蹴りと俺の絶対急所は蹴らせないビームの、エフェクトマシマシなせめぎ合いは瞬く間に人気を博してしまい、シャイニング山形とシェン・フェイリンの名はさらに広まっちゃったのだ。
ぶっちゃけ俺個人としてはもう、割と今さらな話なのでなんでもいいかなって感じだし。
リンちゃんもリンちゃんで目立つこと自体は拒否感ないってか、むしろ引っ込み思案な姉の分まで私が人気の頂点に立つ……! 的な覇王思考をしているところはあるのでお互い、
『バズったねー』
『ね! またやろう公平さん!!』
『嫌ですねー』
と、こんな程度のやり取りで終わったわけなんだけれども。これに対してガビーンってなったのが、ご覧の通りの香苗さんだった。
件のイベントにはメインゲストとして参加していて、それなのに俺がそんな風にバズろうとしている場面に立ち会えなかったのだ。伝道師を自称する彼女としては、悔やんでも悔やみきれないニアミスっぷりというわけだった。
「それでそんなに落ち込んでいるのですか……」
「くうっ……! あの時、私は私でイベント参加者に伝道していたので、安易にやり直したいなどとは思えないところがまた複雑です! ああでも見たかった! 叶うならば撮影して私のチャンネルで配信して、信者たちと思う存分救世主様のご活躍について語りたかった!!」
「俺と二人で散歩したりお話したりして、それでひとまず落ち着いてたんですけどね。不意にやっぱり、悔しさは脳裏によぎるみたいです」
なるほど……と、お姉さんはドン引きしつつも納得したみたいだ。まあ、要するに傷心なのであまり触れないであげてってことだね。
ところでお姉さん、香苗さんを一体なんだと思っていらっしゃるのか? ソロで神輿担いでお祭り騒ぎとか、妖怪とか怪異みたいなものじゃん怖ぁ……
救世主神話伝説とやらをキメすぎると概念存在にまでなってしまうのだろうか。永久発禁ものだわ俺のエピソード。
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