表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
461/1837

あゝ憧れの内勤探査者

 組合本部に入ってすぐ、まずは受付に向かう。ここに来る探査者は大体そうでひとまず探査依頼を受けるか、あるいはすでに終えた探査の報告を行うのが何をするにも一番最初の行動となる。

 今も何人かが窓口で話をしている。ダンジョン探査は24時間いつでも行えるわけだけど、受付は朝9時から夕方5時までの日中のみ対応だからね。緊急の話でもない限り、その時間帯に合わせて探査者も動くのが通例となっていた。

 

「内勤を選択する探査者にとって、毎日決まった時間の勤務というのも魅力の一つだと聞きます」

 

 受付の順番待ちて並びがてら、軽く雑談などに花を咲かせる。香苗さんとはこうした待ち時間の時、特に決まった話題もなく適当に話すのが常だ。

 さすがは元A級トップランカー、そして現S級探査者なだけはあって彼女の探査者界隈への造詣は深く、知識の幅と量もすさまじい。話術もあるから、毎回異なるテーマで面白くてためになる話をしてくれるという、なんとも贅沢な思いをさせてもらっている。

 

 加えて言えば、こうしたトークは俺にとって非常に有意義なものだ。

 コマンドプロンプトとして世界の裏側、データ面の知識は誰より詳しいと自負している俺だけど、表側の人間社会のあれこれに関しては全然と言っていいほど知らないからね。

 元々の山形公平から地続きなので、つまりは探査者歴半年未満の新人と同等のことしか知らないのだ。だからそういう部分もあって、香苗さんの話はとてもためになっているわけだった。

 

 そんな香苗先生が、続けて俺に内勤について語ってくれる。

 

「外勤の探査者の仕事は基本、ダンジョン探査です。それゆえダンジョンの規模や難度、そもそもの位置の都合もあり、探査時間が伸びたり縮んだりしがちなところはあります」

「級が上がるにつれて、一つのダンジョンを踏破するのにかかる時間がぐんぐん伸びていくってのは、聞いた覚えがありますね」

 

 当たり前ながら、級が上がるというのはほぼイコール、ダンジョンの難度が上がるということだ。

 モンスターが強かったり、内部構造が広大だったり難解だったり。あるいは周辺の地形情報を読み込んだ結果、特殊な装備やチームを組まなければならないケースも出てくる。

 

 例で言えばそれこそこの間アンジェさんやランレイさん、ヴァールと一緒に潜ったダンジョンであったり。はたまた、その少し前に出くわした、プールの情報を読み取った結果水中に存在することになったダンジョンであったりだね。

 前者はA級ダンジョンとしては小規模らしかったが、それでも半日かかったし。プールダンジョンのほうはたまたま俺がいたから秒殺できたけど、本来ならば潜水用装備とか用意してゆっくり丁寧に、時間をかけて探査しなければならない性質のものだ。

 

 いずれにせよ難度の高いダンジョンとは、探査に乗り出した探査者を長時間、拘束するものだと言えるだろう。

 それを踏まえて、香苗さんは探査者の内勤事情について語った。

 

「そうしたランダム性が嫌だ、性に合わないという人は当然います。誰もがみんな、やりじまいの仕事につきたいわけではありませんから」

「まあ、毎日ここからここまで働くぞ! って気分の時には結構、段取り組まないといけませんからね」

「高難度ダンジョンになればなるほど、トラブルでスケジュールが狂うなどはつきものになります。ともかくそうした人たちにとっては内勤の、ピッタリきっちり朝から晩まで、という勤務体制は願ったり叶ったりの職場だったりするのです」

 

 なるほどなあ。たしかにダンジョン探査って、その日の気分次第でペースを決められるけど、逆に言えば安定性は低いからね。

 俺だって最近は2日に1日ペースで大体1つから5つくらい、ダンジョン踏破をしてるけど……早い時は一つのダンジョンに一時間もかけないし、逆に長くなると何時間もかかる時がある。

 

 空間転移能力で時短できる俺でそれなんだから、他の探査者の人たちはもっと時間や手間を食うんだろう。となると決まった時間に勤務開始はできても、決まった時間に勤務終了とは中々、いかないのはやむを得ない。

 そういうのがちょっと嫌だな〜って思う人が出るのは、至極当然の話ではあった。

 

「ましてダンジョンに潜らないので危険もない。外勤に比べると収入は落ちますが、安全安定を志向する上では理想的な環境と言えるでしょう」

「収入が落ちるとはいえ、それでも探査者業は高給ですもんね。それで勤務は9時から17時って、すごく条件いい気がします」

「もっともその分、仕事の内容は多岐に渡りますがね。今見ている受付から事務、広報、営業、財務、法務、その他もろもろの雑用に至るまで。外勤がダンジョン探査を安心して行うために、それ以外のほぼすべてを受け持つわけですから」

「……そう聞くと、内勤の方々には頭が上がりませんね」

 

 思えばいつも、当たり前のように依頼を受けて探査して、完了した旨を報告してるけど。そうした手続き一つとっても依頼者や各組織各部署間で相当なやり取りを交わしているはずなんだ。

 そうした裏方をこなしてくれて、俺たち外勤がダンジョン探査に専念できるように頑張ってくれているんだから、内勤の人たちには感謝する他ない。

 いつもありがとうございます、と俺は、前に並ぶ探査者さんに対応している職員さんに内心で呟くのだった。

ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします

書籍1巻発売中です。電子書籍も併せてよろしくおねがいします。

Twitterではただいま #スキルがポエミー で感想ツイート募集中だったりします。気が向かれましたらよろしくおねがいします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 内勤兼外勤の探査者は一般的じゃないのかな?(一人内勤から外勤になってる人居たけどどうなっているんだろ?) 後逢坂さんあたりが気付いたらこんな感じに働いていそう(緊急時の探査者の捜索、救…
[一言] Sランク特典で列に並ばなくても受付を済ませられる気がする(ついでにシャイニングも顔パスで)
[一言] 勤務時間がホワイトだ……ちょっと羨ましい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ