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とにかく意志を持ったシステム領域など認めん。概念存在の権威に傷がつくからな……

 神や悪魔といった、いわゆる概念存在たちの中にも敏感なのはもちろんいる。因果律についての知識を持ち、ある程度ならば理解までしているようなごく一部の存在だ。

 そうしたモノたちは場合によっては、因果改変を察知してくることが予想される。

 

 俺がある程度以上の規模で因果律を弄ることをしないのは、世界の理を破壊しないためというのがメインだけど、同時にそうした勘のいい概念存在に気づかれないようにするため、という理由もあったりした。

 

「因果律周りの知識を持ってるような連中、かかわると絶対に面倒なことになりますからね。大概が概念存在の中でも最上位とか、特例的な立場にいるモノばっかりですし」

「公平くんはそうしたモノたちとは、ある程度関わりがあるのですか?」

 

 興味津々と香苗さんが聞いてくる。神とかそのへんの話って、気になる人は相当気になるだろうしなあ。

 組合本部までの道すがら、歩きながら話すにはちょうど、いい塩梅な長さの話題かもしれない。俺は頷き、答えた。

 

「ほんの一握りだけですけど、関わりっていうほどでもないかもですね。記憶でなく記録のほうで覚えがあるんですよ」

「記憶でなく、記録?」

「コマンドプロンプトに意志が発生する、遥か以前の話です。思い出というより記録というか、ログという方が適切な表現になります」

 

 邪悪なる思念が襲来するより前のシステム領域なんて、一切の意思も生命もない、単なるプログラムの集まりでしかない。世界の正常な進行に必要なコマンドを必要なタイミングで実行するだけの、無限大に等しいサイズの中央演算装置。

 人類やら地球はおろか、まさしく宇宙開闢以前からずっとすべてを管理運営してきた、最上位プログラムとしてのコマンドプロンプトはそれゆえ当然、概念存在の成り立ちさえも記録していた。

 

「惑星に生命体が誕生すると同時に、ワールドプロセッサとコマンドプロンプトは原初の概念存在を生み出します。ひとたび生命体が発生した以上、いずれこの世について思索するほどの高度な知性を獲得するのはわかりきっているので……システム側を隠蔽するためのカムフラージュとして、それを生み出すわけです」

「……と、途方もない話ですね。この星に命が誕生した時だなんて、一体何十億年前になるのか」

 

 いきなり億単位で年月の飛んだ話に、香苗さんは頬を引きつらせて率直な驚きというか、感嘆の声をあげている。

 まあ、経緯の起点としてはどうしてもそのくらい昔になっちゃうんだけど。とどのつまりは概念存在の中でも一番の古株ったら、そのくらい遠い昔に生まれたんですよーってだけの話だ。

 そしてその古株にだけ、俺とワールドプロセッサが直接関わっていたってわけだね。

 

「で。この星の概念存在についても、最初に生みだした何体かだけなら俺もある程度は知っています。ちなみに向こうもコマンドプロンプトを知っていますね」

「システム側について知っているモノも、いるにはいるというわけですか……」

「知っていて吹聴するような真似、するやつもいないでしょうけど。言っちゃうと目の上のたんこぶみたいなもんですからね、彼らから見た私たちは」

 

 全員揃って今や、当たり前のようにお偉い神様やらなんやらだからね。わざわざ自分たちさえ創り出した、真に世界の裏側と言える領域がある、だなんて絶対に言わないだろう。

 わざわざそんなこと言ったら権威が揺らぐし。概念存在にとって格って割と最重要だから、上にいるモノほど面子とか威厳とかに拘りがちなんだよね。人間の世もそんなところあるし、なんとも世知辛い話だ。

 

 と、そんな中学2年生チックなスピリチュアル話をつらつらしているうちに組合本部についた。

 いつもどおり地元の探査者さんがそれなりの数、訪れている。ていうかうちの県、真ん中に湖を置いて東西南北に地域を分けられるんだけど、そのうちの南北に一箇所ずつしか組合施設がないんだよなあ。

 そりゃ探査者だったらどちらかに集中するよね。

 

 一応県庁所在地で、かつ比較的賑わっているから南部には全探組の県本部──つまりここだね──があり。言っちゃなんだけどちょっと長閑な北部には支部があるそうだ。

 支部の規模はこの本部よりずっと小さいらしく、探査者の活動を支援する機能も充実しているとは言いがたいから、北部在住の探査者は本部、あるいは隣県の組合施設を利用することさえあるのだとか。

 

 前に休憩室でのんびりコーヒーを飲んでいた時、北部から来たらしい探査者さんたちが隣の席でそんなことを言い合っていたのを思い返す。

 俺的には結構、そういう長閑というか静かな場所も嫌いじゃないんだよねー。今度小旅行がてら、支部施設を訪ねてみてもいいかもしれない。

 

「──なんて考えてるんですけど。香苗さんって北部には行ったことありますか?」

「北部ですか……いえ、ありませんね。たしかに全探組の支部があるとは耳にしていますが、住まいがこのあたりですから行く理由がないもので」

「ですよねー」

 

 香苗さん、実家は隣県だけど今は一人暮らしをされてるそうだしな。それも二つ隣の県庁前にある駅のすぐそばの、マンションにお住まいだとか。

 前にその話を聞いてへえ~とか思いながらなんとなし、聞いたことある名前だなとスマホで調べたら……実は県内屈指の高級マンションで、マジでとんでもないお値段が出てきて目玉が飛び出るかと思ったのは忘れがたい記憶だ。

 

 A級トップランカー様はさすが、懐事情もトップランカーだなあとか戦慄したもんだ。庶民派コマンドプロンプトな俺ちゃんには到底、縁のなさそうな世界を垣間見たよ、うん。

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― 新着の感想 ―
[一言] コマプロさん、今のペースで香苗さんの年齢まで稼いだ時の貯金額を計算してないw
[一言] この世界の概念存在も人々の祈りや信仰で格が上下したりするんですか?
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