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イベント終わって日が暮れて

 閉会までの最後の休憩時間、知り合いみんなで固まって雑談する夏の夕暮れ。不意に、小早川さんと藤代さんが俺の元を訪ねてきた。

 人数分のジュースやお茶を買って、みんなに配ってくれている。もちろん俺にもだ、どれにしようかなー。よし、コーラ!

 

「ありがとうございます、小早川さん、藤代さん」

「いえ! こちらこそ、本当に今日はお世話になりっぱなしで!!」

 

 感謝を述べると、藤代さんがすごい勢いで反応してくる。初対面に泣かれたこともあって、正直どう応対したものか若干考えあぐねたりしてるんだけど。

 そんな俺ちゃんに、むしろ彼女はどんどん距離を詰めてきていた。

 

「あのっ! 弟も近々、シャイニング山形さんに御礼したいと言ってるんですけど! どこかのタイミングでまた、お会いできませんか!?」

「え、と? お会いするのは構いませんけど、そんなお礼だなんていりませんよ。助かってよかったって、それだけで十分ですし」

「そういうわけには! あいつも命の恩人であるシャイニング山形さんにはぜひ、直接会って感謝を伝えたいと言っています! ぜひ!」

 

 めっちゃグイグイ来るじゃん怖ぁ……スマホ片手に迫ってくるあたり、SNSでも交換したいんだろうか? 肉食系かな?

 と、そんな彼女の肩に背後から、小早川さんが手を置いた。相変わらず穏やかで紳士的な顔をされているダンディマッチョさんだ。目を細めて、ちょっと笑ってる?

 いきなり肩を叩かれて驚き顔の藤代さんが、目を丸くして彼のほうを向いた。

 

「小早川さん?」

「急いては事を仕損じるぞ、藤代さん。滅多にない、まさしく奇跡めいた機会を逃したくないのは分かるが……だからこそ、淑女として振る舞うべきだと、私は思うがね」

「う……そ、そうかもしれません。失礼しました、シャイニング山形さん」

「い、いえ」

 

 大人だ……めっちゃ大人だ小早川さん。

 あくまでも紳士的に藤代さんを制止したその貫禄がすごい。40歳そこそこくらいのベナウィさんにも匹敵しかねない落ち着きぶりだぞ。

 あ、当のベナウィさんが感心して話しかけている。

 

「ミスター・小早川。みごとな男前というやつですねえ。ミスター・公平といい、今時分の若者というのはとても立派で素晴らしい」

「過分なお言葉を……格好をつけて、無意味に年寄りぶっているだけです。社会に出ればしょせんは若造だと、それこそあなたのような真に紳士的な方をお見かけすると痛感します」

「いやいや、私が紳士などととてもとても! 紳士は探査するたび、ダンジョンを半壊させたりしないでしょうしね。はははは!」

「は、あ、いえ……」

 

 でたー! ベナウィさんのうっかりジョーク! 自分からダンジョン破壊の常習犯であることをネタにしていく、いまいち反応しづらい小粋なジョークだ!

 小早川さんが対応に困り愛想笑いしている。そりゃそうだ、年齢も社会的立場も遥か上の大物が、会話の中で突然ぶっ込んでくるんだよこの手の冗談を。どう反応しろってんだか。

 

「いやあこの間も来日前、A級探査者のパーティーにお邪魔させてもらいましてね。気をつけはしたのですがついうっかり、一階層まるごと大部屋にしてしまいまして! はははは!」

「そ、そうなのですか。はは、は……」

「ですがみんなとても優しく温かい。私のうっかりに本物だー! やりやがったー! と叫び、スマホで写真や動画を撮ってむしろ楽しんでくれましたよ。サインも強請られたほどです、正直申しわけなさで泣きそうになりました。はははは……」

「つらい」

 

 もはやバズりネタ扱いされているよこのS級探査者。自業自得ながら悲しい気持ちになる。

 いやうっかりやらかした代償にしてはあまりにも穏便すぎるし、本当に優しく温かい人たちに囲まれて過ごしてるんだな、ベナウィさん。

 

 こほん、と誤魔化すように小早川さんが咳払い。

 うっかりジョークのシュールな空気を払拭するように、俺たちに向けて改めて挨拶してきた。

 

「本日は当サークルのイベントにご参加いただき、みなさま本当にありがとうございました。副幹事長として心より感謝申し上げます」

「こちらこそ……いろんなことを学ばせてもらいました。ありがとうございます」

 

 律儀にそんなことを言ってくる小早川さん。俺のほうこそと応えると、彼は微笑み、さらに言ってくる。

 

「特に山形さんには、シェン氏との演習で大いにイベントを盛り上げていただいたと聞いております。さすがはシャイニング山形さんと、あえて言わせてください」

「公平さん、私からも感謝! 無理なお願いを聞いてくれて、戦ってくれてありがとうございました!」

「リンちゃんまで……」

 

 便乗して礼を述べてくるリンちゃんも併せて、俺としては反応に困ってしまう。

 ていうか小早川さん、すっかり俺をエンターテイナーか何かと勘違いしてしまっている気がする。俺はただの探査者だし、なんならこのイベントにおいてはただの一参加者ですけど。

 

「救世主様が今また、迷える魂たちをたしかに救済しました。わかりますか、使徒宥」

「はい、伝道師香苗。今日という日は我々救世の光にとって、大いに喜ばしい日として今後、語り継がれることでしょう」

 

 そんな二人の様子にまーた、狂信者が反応してるし!

 さっきの伝道活動でもまだ足りてないの!? さすがにもう今日のところはいいでしょ!

 留まるところを知らない伝道への執念にゾッとするよ、怖ぁ……

 

「それではそろそろ閉会式です。最後の最後まで、どうか楽しんでください」

 

 狂信者たちにも穏やかに笑う、やはり渋い声の小早川さんがそう、俺たちを促しつつ────

 閉会式が行われ、長かった探査者イベントにも幕が下りたのだった。

次話から新エピソードですー

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局、お姉さんは連絡先聞けたのかな?
[一言] 今一瞬くだらない駄洒落が思いついた 山形君がモンスターに対してシャイニングウィザードを決めると言う駄洒落
[一言] 君もバズりネタ扱いされてるんやでシャイニング山形君よ
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