シャイニング山形vs天覇のシェン・フェイリン
リンちゃんの、場の空気を利用した策にまんまと乗せられる他なくなった俺こと山形公平くん。
ここまでくるともう、仕方ないかなと腹を括り、演習のほうに参加することにしていた。
「公平様のご活躍、楽しみにさせていただきます!」
「なんでもいいけどリンちゃんに怪我、させちゃ駄目だよ兄ちゃん」
「俺の心配をして?」
平常運転と言っていい、のもなんだかアレだけど宥さんはともかく。優子ちゃん、ここはいたいけな兄の命を心配するシーンだよ?
俺たちのグループの中でこの二人と宮野さんが演習のほうに参加している。宥さんは実際に戦うつもりみたいだし、優子ちゃんと宮野さんは探査者同士の戦いを見学したいらしい。
リーベ、逢坂さん、新島さんは座談会のほう行きだ。正直俺もそっちに行きたかったけど……こうなったらもう仕方ない。香苗さんが伝道ショーをおっ始めないことを祈るしかない。
さっきリーベになるべく頼むとは言っといたし、信じよう彼女を。できるできるやればできる精霊知能ならできるリーベちゃんならできる! がんばれ、リーベ!
「それではこちらになります、ついてきてくださーい!」
と、相方へ心の籠もった願いの視線をぶつけているうちに藤代さんが宣言した。演習組がゾロゾロと歩きだす。
結構人数がいて、探査者もそれなりにいるな。高木さんと中島さんも、他の参加者相手にウェーイウェーイ言いながらついて行っている。
俺たちも後を追うと、また第二学舎に入った。向かうは購買施設のすぐ横にある大きな講堂。どうやらこの中で演習を行うらしい。
え、マジで? 壊れないか、建物。
「こちらの施設は地下がありまして、そちらでカレッジサーチャーズ所属の探査者は普段、演習や修行を行っています。今日の演習も、そこで行いたく思います!」
「崩壊したら生き埋めになるやつだ……」
「崩壊って、そんなことあるわけないじゃん。兄ちゃん心配しすぎ」
藤代さんの説明を受けて率直に心配になってくる。
リンちゃんってかA級探査者が仮に全力で来るとして、言っちゃ悪いけど人工の施設なんて段ボールハウス程度でしかないぞ。
優子ちゃんは冗談と思ってか、はたまた心配性と思ってか俺を窘めてくるけど……うーむ。
危惧はさておき内部に入る。立派な行動が正面に広がる空間の、脇に下に降りる階段があるのでゾロゾロと整列して降りていく。
かなり長い階段。地下何メートルあるんだか知らないけど、ただ降りるだけで何分もかかったよ。探査者同士の戦いの余波を、上階に及ばせないためのこの深度だろうな。
「こちらになりまーす!」
「お、おお……」
「え、広」
広々とした、さきほどの講堂の何倍にもなる空間。三つの舞台と近くにはトレーニング器具なんかが設置されていて、壁際には演習で使うだろう、刃引きされた武器類が置かれている。
どうやら別の入口があるみたいで、いくつか通路へ続いているな。うち一つは避難経路らしく標識のランプが明かりをつけているので、一応安全対策はしているみたいだ。そりゃそうだよな、ここまでの地下で何も対策なしはありえないし。
この場所の、おそらくあの舞台の上で演習をするんだな。
リンちゃんとのバトルの予感に、少しずつだけど意識を、戦闘モードに変えていく。
そんな俺をよそに、藤代さんがアナウンスをした。隣にはリンちゃんがいて、軽くストレッチなどしている。
「それではさっそく、いくつかのグループに分かれて演習を行いたいと思います……が! その前にエキシビジョンという形で、ゲストのシェン・フェイリンさんに一試合行っていただきたく思います!」
「よろしくおねがいします!」
勢いよく拱手して、頭を下げるリンちゃん。その姿からはすでに漲る闘志、溢れる闘争心が周囲にもわかるほどに迸っている。
やる気満々だな……中途半端な気持ちで行くと、マジで股間をぶち抜かれかねない。
「そして。シェンさんのお相手はすでに決まっております……! 山形公平さん! シャイニング山形さん! どうぞこちらへ!」
「シャイニングを言う必要あるの……? まあ、行くかぁ」
なぜ本名に続いて言ったのかはさておくにして、さっそくの出番だ。
助かる。目立つ機会なんてものは。早めに終われば終わるほどいいからね。優子ちゃんと宥さんに軽く手を振って、俺は参加者さんの横合いから藤代さん、リンちゃんの元へと向かった。
心を鎮め、星界拳正統継承者シェン・フェイリンへと頭を下げる。
「……よろしくおねがいします、シェン・フェイリンさん。胸をお借りするつもりで挑ませていただきます」
「! ……はい! こちらこそ勉強させていただきます、山形公平さん!!」
俺が覚悟を決めたのが伝わったんだろう。彼女も完全に顔つきを戦闘者のそれへと変えて、拱手して一礼する。
異色の対決、そう言っていいだろう。
C級探査者vsA級探査者。
アドミニストレータvs決戦スキル保持者。
コマンドプロンプトvs星界拳正統継承者。
そして何より……山形公平vsシェン・フェイリン。
「……ごめんなさい。嫌がってるのに、無理にお願いして」
不意に、リンちゃんが謝罪してきた。搦手を使ってまでこの展開にまで俺を連れ込んだことに、罪悪感を抱いたんだろうか?
いやまあ、してやられたとは思ったけども。正直そんなに気にするほどじゃないんだ。
苦い顔をする彼女に、微笑みかける。
マリーさんやベナウィさん同様、リンちゃんにもアドミニストレータ計画においては大変な迷惑と世話をおかけしたわけだからね。
蹴り入れられるのやだなぁとか、オペレータ同士で張り合わなくてもいいんじゃない? 的な個人の思想はあるにせよ。せっかくの機会に俺と手合わせしたいと言うならば、応えるのにはやぶさかでない。
失礼な話、リンちゃんにつきあってあげるってのが近い感覚かもね。幼少時の優子ちゃんのわがままを思い出す。
あの子も散々振り回してきたあと、変に殊勝になったもんだと懐かしみながらも俺は、応えた。
「いいよ。ただ、やるからにはお互いルールを守って安全に。何よりも、悔いが残らないようにしようね」
「……うん! よろしくおねがいします、公平さん!」
これから蹴り砕こうという相手にも、太陽のような明るい笑み。魅力に溢れた姿を見せつつ、リンちゃんは俺に向けて構えをとった。
さあ、戦いだ!
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