そんなことよりおラーメンたべたい
みんな揃ったしということで、俺たちはお昼ごはんを食べ始めた。手と手を合わせていただきますして、さっそく激辛ラーメンに手をつける。
真っ赤なスープが絡んだ麺は、見てるだけでも口内が刺激されて涎が出てくる。いやマジで辛そうだ、食べ切れるといいんだけど。
レンゲにスープをたっぷり掬って、箸でつまんだ麺を投入。軽く解して、一気に口に入れる!
まずは広がるスープの旨味。舌の上、凝縮されていた様々な素材の風味が一気に紐解かれてそれぞれ自己主張してくる。醤油と鶏ガラをベースにした塩気と脂身の甘さ、とろけるように味わいが深みを増して口内で跳ねる。
麺もいい。コシがある。俺はちょっと固めの麺が好きなんだけど、好みにピッタリ合う感じだ。
そして何より、口に入れて少しすると実感してくる、じわじわと際限ない辛み。
ふんだんに入れられた唐辛子やら何やらが、スープの旨味を追いかけ追い越せでやってきたのだ。
辛い! でもたしかに感じる旨味、うまい!
汗がじんわり出てきた感触。予め手元に置いていたハンカチで額を拭いながら、俺は一口目を食べ終えて呟いた。
「うまい……辛いけど耐えられないほどじゃないし、美味しいです」
「よかったです、お口に合って。あ、お水どうぞ公平様」
「ありがとうございます、宥さん」
促されて水を飲む。舌の上に辛みは残るけど、やはり悶絶するほどではない。
これなら無事に食べ切れそうだ。宥さんに食べ残しをあげる、なんて失礼なことをしなくて済みそうで助かる。
チャーハンも食べてみると、ご飯がしっかりパラパラとしていて、本格中華のチャーハンそのものだ。
こっちも美味しいし、このセットで700円は安すぎるだろ。奇跡かよ。さすがは大学の食堂だ、コスパとクオリティがすさまじいと感心する。
「あ。美味しいです冷麺。冷たくて、チュルチュルいけます」
「お蕎麦美味しい……冷える〜」
逢坂さんも宮野さんも、冷麺とざる蕎麦を食べては涼を取っている。うまそうだ、実においしそう。人が食べてるものってなんでやたらおいしそうに見えるんだろうね、不思議。
宥さんも逢坂さん同様に冷麺を食べている。食べ方まで清楚というか、啜るとかでなくしっかり一口ごとの量をつまんで食べている。まじでお淑やかだな……
「天ぷらもよく揚がってますね。この味で、学生ならさらに値段割引というのはすさまじい」
一方で天ぷらうどんを食べてコメントするのは香苗さん。彼女は普通にうどんも啜っているんだけど、不思議と上品というか、優雅な気風を感じる。
姿勢正しいからというのもあるだろうし、所作がしっかりしているからというのもあるんだろう。いずれにせよ宥さん同様、礼儀作法についての高度な教育を受けているのがわかる、美しい姿だった。
そのまま俺たちは、夢中になって食べ続ける。空腹もあり、ほぼ無言のまま食べて食べて食べまくりだ。
特に俺の勢いたるや。激辛ラーメンにチャーハンと他の人の倍はある量を、それでも誰より早く食べ終えたほどにガッツリ食べ尽くしていた。
「ふい〜……美味しかったあ」
「早いですね、公平さん」
目を丸くして逢坂さんが言った。彼女ももう食べ終える間際なんだけど、冷麺一杯だからね。それより早くラーメンとチャーハンを平らげたのは、さすがの彼女にとっても驚きのようだった。
激辛ラーメン──慣れたら案外スムーズに食べ切れた──の影響でかいた汗を拭い、水を飲みながら応える。
「いやーお腹ペコペコだったから。それにほら、激辛ラーメンが食欲増進にもなってくれたみたいで」
「辛味で胃腸が刺激されたんでしょうね。いい食べっぷりでした、公平くん……ふう。私も、美味しかったです」
続けてうどんを食べ終えた、香苗さんも反応する。そうそう、激辛ラーメンが不思議なもんで、食べれば食べるほど次の箸が進んだんだ。
夏バテ? 何それってなくらいの健啖さを発揮しちゃったよ。夏場に辛いものを食べる理由が、改めてよくわかった気分だ。
俺と香苗さんの後、逢坂さんと宮野さんが食べ終えた。冷麺も蕎麦もおいしそうだったなー……今度、外食する時はどっちかにしようかなー。
と、最後となった宥さんも無事に食べ終える。最後まで美しい所作で、見ているだけでなんだか、いいもの見たなあって気分になる。宥さん、色んな意味で美人さんだ。
「…………お待たせしてしまいましたね。美味しかったです」
「待つなんて全然。お気になさらず」
「素敵な大人の食べ方でした、宥さん! どうやったらあんなふうに食べられますか?」
「ふふ。今度教えてあげるわね、美晴ちゃん」
女性としてどころか人間として、羨ましくなるほどに美しい所作を披露して見せた宥さんに、逢坂さんが瞳を煌めかせた憧れの視線を向ける。
そりゃあ、彼女が師匠として心酔するわけだよなあ。たおやかに微笑む宥さんの姿は、男女問わず魅力的に映ることだろう。
ともあれ、全員食べ終わった。時間は12時30分すぎ、あと1時間近くは余裕があるな。
それじゃあ本屋へ行こうかとみなを見回してから。俺たちは両手を合わせ、食事の終わりを告げるのだった。
「ごちそうさまでした!」
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