魂が侍りたがっているんだ。
ひととおりメニューを見て、俺たちは何を食べるかを決めていった。俺は例の激辛ラーメン、香苗さんは天ぷらうどん、宥さんは冷麺で逢坂さんと同じだ。宮野さんはあっさりとざるそばだね。
で、俺は激辛ラーメンを一口食ってみて、だめだこれ! ってなったら宥さんの冷麺と交換する手筈になっている。まあ、食いさしを渡すのもどうかと思うので泣きながらでも食べきるとは思うけど。
さて各々が何を食べたいか決めたので、ホールの奥、カウンターがあるのでそこへ向かう。レジで注文と精算を行い、受取口で料理を受け取る仕組みだ。
ただ、席を確保している都合上、一応だけど誰か一人は荷物を見てないといけないだろう。ないとは思うけど、まあ安全を考えるとね。
「俺が残っときますから、みなさんは先に注文しに行ってください」
そういう守役となるとやっぱり、ここは俺の出番だろう。男だ女だって話はするつもりないけど、レディファーストとさせてほしい。
先に香苗さんたちが注文して、戻ってきたら今度は俺が向かうのだ。予め何を食べるか決めているから、そんなに時間差があるわけじゃないとは思う。
ただ、香苗さんはちょっと渋っていた。俺を残して自分たちが先に料理を受け取るというのが、どうにも引っかかったらしい。
「そんなこと……残るならば私が残りますよ」
「いやいや、ここは俺一人に任せてくださいよ。みなさんでどうぞ、行ってきてください」
「救世主を置いて、先に自分だけ料理を取りに行く伝道師がどこにいますか? 私も残りますよ公平くん。私はいつだってあなたの傍にいます。あなたの傍が、御堂香苗の居場所です」
すごく感動的で、聞きようによっては情熱的な台詞なんだけど、これ昼飯の話なんだよなぁ。
そこはかとなく残念な香りのただようやり取りだ。なんなら宥さんまでなんか言いたげな顔をしている。やめて? 絶対ややこしいことになるからやめてね? 宥さん?
切なる思いと裏腹に、宥さんは耐えかねたと言わんばかりに俺と香苗さんに向かい、ホールにもまあまあ響く声で言った。
「伝道師香苗だけではありません、私もぜひお傍に! 使徒望月宥も、常にあなた様とともにおりますれば!」
「使徒宥! さすが、それでこそ使徒です! 先程の激辛料理の機転といい、信仰心が高まっていますね!」
「うふふ、ありがとうございます! まだまだ伝道師には及びませんけど、今後も精進します!」
ほら来た! はいそこ二人だけで盛り上がるのやめなさいよ、話がややこしいことになっていくから!
伝道師に呼応して使徒まで変なことを言い出してしまった。俺の傍にいるとか今はいいから、とりあえず注文して来てほしい。そばとかうどんとか待ってるよ?
「あ、あはは……尊敬する望月さんが、S級探査者の御堂さんと仲睦まじいというのは、嬉しい話なのでしょうけど……」
「困ってるシャイニング山形……い、いい……」
「えぇ……?」
逢坂さんが困って笑うしかない状態になってしまっている。おう片割れは君の師匠だぞ、なんとかしてくれよ。
そして宮野さんはその……俺の困っている様子に何かをいいねしているね。怖ぁ……癖の発露は当人がいないとこでやってほしい。切に。
これ以上は本当にややこしいことになる。なんとかしなければ。
まともなのが俺と逢坂さんしかいないこの地獄に、俺は意を決して異を唱えた。
「こうしてる時間が惜しいですから、行ってきてくださいよ。俺、書店行きたいなぁ〜」
「う……く、わかりました。他ならぬあなたのお言葉、従いましょう」
「むむむ。ですけど公平様、私たちは離れていてもあなた様のお傍におります。肉体でなく心が、魂が侍っていますから!」
「幽体離脱しないでください」
ちゃんと意識は保ってもろて。
香苗さんと宥さんは俺の言葉に呻きつつも、どうにか折れてくれたみたいでよかった。なんのかんのこの二人、聞き分けはいいから助かる。但し暴走時は除く。
で、そうなると逢坂さんと宮野さんも二人について、女性陣はやっと注文に行ってくれた。ふうと息を吐く。
ていうか宮野さん、本当になんか興奮してたな。鼻息荒かったし、顔を赤くしてドン引きする俺を見ていた。新しい扉、マジで開いちゃってたんだな。怖ぁ……
女子中学生にして、俺には理解できない境地に辿り着いている彼女に一人、戦慄する。
と、そんな折。背中越しに俺の名前が呼びかけられるのを聞いた。
「ウェイウェイウェーイ! ヤマちゃーん、ぁ山形公平さぁ〜ん? なぁんか暗い顔しちゃってんねぇウェイウェ〜?」
「タカちゃん、久しぶりの再会で飛ばすなあ」
「パリピったらぁ、ビビったほうがテンションサゲサゲなのよねェ〜! ウェイウェイウェーイ!!」
「…………え」
この声、二人組の男性。
さっき講堂でも聞いた、馴染みのある声だ。数ヶ月前、GWの際に知り合った、ドラゴン騒ぎでもお世話になった人たち。
まさかと、すぐさま振り向く。
金髪ロン毛であちこちにピアスをつけた、見るからにヤベーチャラいパリピ。だけど俺は知っている、この人めちゃくちゃ良識的で優しくて頼れるチャラ男なんだ。
その隣には物静かな雰囲気の、パリピとは対象的な硬い印象の男性。この人にも世話になった、なんか過去に壮絶な何かを背負ってそうなスゲー人。
「──高木さん! 中島さん!?」
「ウェーイ元気してるぅ? タカちゃん参上仕りーのウェウェウェウェーイ!!」
「やあ、山形くん。お久しぶり、君の活躍は方々で耳にしているよ。お元気そうで何より」
高木さんと中島さん。
かつて隣県での探査者ツアーにて、まだ巨大だった頃のアイを相手に手を組み協力して立ち向かった、かけがえのない友人たちがそこにいた。
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