表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
434/1836

天才なりの苦労もあるよね

 ベナウィさんを保護者にリンちゃん、優子ちゃん、リーベ、新島さん。

 彼と彼女らのグループが、学内の食堂を練り歩いてフードファイトに明け暮れる、いわば暴食ツアーを敢行するとのことだった。

 すでにふんすふんすとテンション上げまくり、リンちゃんを先頭にする形であっちのグループは旅立った。一時間半後、戦果を聞くのが怖くもあり楽しみでもあるな。

 

 一方の俺や香苗さん、宥さん、逢坂さん、宮野さんはというと、これはこれでひとまとまりのグループとして動く。

 香苗さんと宥さんが俺基準に動くつもりでいて、逢坂さんと宮野さんが特にこれといって行きたいところもないとのことなので、結果的に俺が行き先を決める集団みたいになってしまったのだ。

 

 もうちょい主体性持ってもいいんじゃない? 特に大人二人? とは思うんだけど、たぶん句読点が消えた言葉の洪水をワッと浴びせかけられて返り討ちに遭うだけだと思うので黙っておく。

 山形も鳴かずば撃たれまい。くわばらくわばら。

 

「えーっと。それじゃあお昼ごはんは普通に済ますとして、そのあとは購買にあるっていう本屋さんに寄りたいですね、俺は」

 

 行きしに宥さんの案内を受けた際、興味を持ったのが購買にあるという書店だ。なんでも学術書が多く売られていて、探査学についての本もたくさんあるとか。

 あくまで好奇心からのものでしかないんだけれど、現行の知性生命体がどういったふうにシステム領域の事物を解釈して研究しているのかが気になるのだ。職業病じゃないけど、まあ俺ちゃんコマンドプロンプトだからね。仕方ないよね。

 

「気に入った本があったら買って、広場のベンチで読んだりとか。あ、喫茶店とかありましたよね。あそこで読むのとか、すごい大学っぽいなーって」

「ふふ、いいですね。公平くんとのんびり本を読むキャンパス……乙なものですね。大学生気分もたまには悪くないです」

「そう言ってもらえると、……?」

 

 いい感じに好感触な香苗さんの言葉に、ふと気になる。

 宥さんは竜虎大学の学生さんだけど、香苗さんも年齢的に大学生でもおかしくないんだよな。この人、進学してないんだろうか?

 思えば香苗さんのプライベートってあんまり知らないんだよな、俺。めちゃくちゃグイグイ来るからなんか、探査者か伝道師かだけな人って感じに思えてくるけど……そんなわけない よね、たぶん。

 

「どうかしましたか、公平くん?」

「あ、いえ。その、香苗さんってそう言えば大学とか通ってらっしゃるのかなって、ふと気になりまして」

 

 言葉を途切れさせた俺に、怪訝そうに本人が聞いてきた。特に隠し立てする疑問でなし、俺は正直に思うところを述べてみる。

 宥さんの一個年上のお姉さんであるこの人は、果たして最終学歴はどこなのか。あくまで世間話程度のトーンでだけど、疑問を呈してみたのだ。

 思いの外あっさりと、彼女は答えてくれた。

 

「ああ、もしかしたら言ってなかったかもしれません。失礼しました、私は大学進学はしていませんよ」

「そうなんですか……なんていうか、意外というかそうでないような。たしかに、今まで香苗さんから大学関係のお話を聞いたこと、ないですし」

「元より高校卒業後は探査業に専念したいと思っていましたからね。ただ予想外だったのはちょうど3年前、つまりは高校3年の春の時に良いやら悪いやら、A級トップランカーになったことでしたね」

 

 遠い目をして語る香苗さん。彼女にしては珍しい、なんていうか、思い出したくないものをそれでも懐かしむような複雑な表情だ。

 高3の時にA級トップランカーかあ……たしかこの人、14歳で探査者になってたはずだから、たった3年でそんな位置にまで躍り出たんだな。

 無茶苦茶なペースだ。通常一年間はF級で活動しなければならないのだから、実質2年でE級からA級まで登りつめてることになる。

 

 それだけ強力な探査者だということでもあるし、それに見合った活躍もしてきたのだということなんだろうけど。

 それにしたってとんでもないスピード昇級なのはやはり、時勢と才覚、そして弛まぬ努力の積み重ねがもたらしたものなのだろう。

 

 とはいえ、そうして手にしたA級トップランカーの栄光も、いいことばかりではなかったようだ。

 学食へ向かって一同歩き出す。その中で俺や宥さんはじめ一同が耳を傾ける中、振り返って過去を香苗さんは話していった。

 

「S級探査者のフォローなどで海外にも行く機会が多くなり、メディア対応も何やら変に増え、その結果学業どころではなくなったのです。全探組からも半ば、日本の探査者の象徴みたいに扱われ出してしまったのも痛手でしたね」

「週刊誌や番組に一時期、引っ張りだこでしたものね伝道師香苗は。ダンジョン探査する暇もなさそうですごいなあって、見かける度に思ってました」

「実際、本業たる探査業が圧迫されてしまうほどにあちこち駆り出されました。あの頃、加えて受験勉強だの大学進学だのとしていたら倒れていたかもしれません」

「そんなに」

 

 香苗さんをして倒れかねないほどと言わしめるのは相当だよ、怖ぁ……高3にしてブラックな生活してたわ。

 弱冠18歳でトップランカーにまで躍り出た才女を、盛大に祭り上げたかったんだろうってのはわかるけど、ちょっとは加減してあげてほしかったよなあ。

 この人、根っこからめちゃくちゃ真面目なんだし。全部の期待に応えようとしていた姿が目に浮かんだよ、今。

ブックマーク登録と評価の方よろしくおねがいします

書籍1巻発売中です。電子書籍も併せてよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 早口で句読点のないステレオ音声は、いくら美女の声でもつらい…いや、美女だからこそ怖いか…
[一言] 逢阪さん大丈夫?フードファイト風だけどたぶんあっちのが平和だよ?
[一言] 一週間に最低でも何回探査しろ、と義務付けているのにそれができないような量の探査外の仕事を押し付けるのはNGでは? 探査者組織には労基署のような組織はないんですかね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ