認めざるを得ない若さ故のあやまち(ペース配分ミス)
「国際探査裁判所。世界探査者法廷とも呼ばれるこちらは、探査業に関わる国際的な紛争、あるいは犯罪を取り締まるべく設置されているものです」
続いて発表された資料には、やはりデカデカと組織名が記載されている。インパクトはあるものの……ひたすら漢字が並んでいて、見る人によってはうひーってなりそうな光景だ。
っていうか、社会科苦手な人にはかなりついていけてない話だと思うんだよ、このへん。だから優子ちゃんは夢の世界に行ってるんだと思うし。この子そもそも勉強が苦手だからね。
母ちゃんをイラァ……とさせた実績を持つ愛しの妹ちゃんへの、そんなフォローはさておいて。
俺にとってはありがたい話で、この国際探査裁判所とやら、知り合いが関わっている組織のようだった。説明が講堂に響く。
「具体的に言えば能力者犯罪の捕縛と裁判、刑の執行までをもこの機関が行っております。とりわけ捕縛においては、探査者および能力者への攻撃、逮捕が世界的にも認められた、能力者犯罪捜査官を管理する組織としてドラマなどでも有名です」
「……アンジェさんとランレイさんだ」
思わぬ繋がりだった。こないだ、ともに探査業に取り組んだアンジェさんとランレイさん。あのお二人も実のところ能力者犯罪捜査官のライセンスを持っているのだとは、すでに耳にしている話だ。
なるほどそのライセンス、国際探査裁判所が発行しているものだったんだな。
探査者としての登録を済ませないままスキルや称号、レベルを闇社会で犯罪に悪用する通称、能力者犯罪を武力をもって取り締まる人たちを、能力者犯罪捜査官というらしい。
国際的に活躍することから、WSO絡みのどこかに位置するんだろうとは思っていたけど、こんなところで発覚するなんて思いもしなかった。
WSOそのものでなく、傘下組織に所属しているんだな、彼女たち。
宥さんがきょとんと俺を見る。
先だっての祝勝会にはこの人もいたからね。アンジェさんやランレイさんとも多少だけどやり取りした仲ではあったから。反応するよね、それは。
「え、と。フランソワさんとシェンさん、能力者犯罪捜査官なんですか」
「ええ。実は来日してきたのも、半分はその関係だとか。近々、首都圏にまで向かわれるそうですよ」
「そうなんですね……能力者犯罪捜査官なんて、A級以上の探査者の中でもさらに上澄みしかなれないって聞きます。さすがですね、お二人とも」
感心した様子で呟く宥さん。っていうか捜査官のライセンスってそんなエリートさんしか得られないものなんだな。
俺としてもそのへんは知らなかったから、同じく感心する。
まあ、事実上人間に対して攻撃していいって許可証だからね。相当実力があり倫理観、良心を持ち合わせた人じゃなきゃ与えられないだろうし、そうなるとA級の中でも上澄みだけってくらい狭き門なのは、当たり前の話ではあるよなあ。
そしてアンジェさんとランレイさんは、A級の中でも専門分野でならば、香苗さんにも匹敵するほどの実力者だ。加えて個性的な性格ではあるものの、その品格、正義感、そして探査者としてのプライドはあのヴァールが太鼓判を押すほどに水準が高い。
能力者犯罪捜査官として世界を股にかけ、裏社会に潜む能力者たちと渡り合うにはこれ以上ない逸材なのだとは、先日その姿を見て勉強させてもらった身として、深く理解できるものではあった。
……まあ、加減という点では危うさはある気はするけどね。特にランレイさん。リンちゃんのお姉さんだけあって、ナチュラルに発言と戦法と技の威力が恐ろしかったし。
なんだかんだアンジェさんが手綱を握ってくれることを祈ろう。切に祈ろう。
そろそろ時間もお昼に近い。うとうとしていた人たちや、もうぐっすり寝ていたリーベや優子ちゃんも体内時計が働いたのか、飯時を察知したらしくゆっくりと目を覚ましていく。
寝ぼけ眼で軽く伸びしているのが、なんとも心地よさそうだ。授業中のうたた寝って、駄目だと思いつつもやたら気持ちいいよね。わかっちゃいけないけどわかる。
発表者のお兄さんもちらと時計を見て、ギョッとした様子で資料を進めた。さらっといくつかページを飛ばして、おそらくは最後らへんの項目だろう資料を表示している。
オイオイオイ、時間配分ミスってるわこれ。若干の戸惑いに空気が染まる。せっかく用意していた資料をまるっといくつか飛ばしているあたり、お兄さんの焦り方が窺える。
脇に控えているグループメンバーのみなさんが何やら、握り拳で固唾を呑んで見守っていらっしゃるよ。ファンかな?
なんなら気持ち早口で、お兄さんは恐らくは最後だろう解説を始めた。
「えー、最後に。全国ダンジョン探査者組合協会。いわゆる全探組ですね。この"全国"という部分は各国の名前が入ります。日本なら全日本、パラグアイなら全パラグアイといった感じですね。こちら全探組は各国国内の探査者とその活動を管理運営しており、組織的にはWSO傘下でありながら各国政府直轄機関でもある、という特殊な立ち位置でもあります」
「一気に捲し立てたな……」
「よっぽどペースを間違えたんでしょうね……」
宥さんと二人、困惑も露に小さい声で話す。お兄さんの焦りぶりがいっそ気の毒で、もういい、休んでくださいと言ってあげたくなるほどだ。
時計はちょうど12時を指した。ああ、タイムリミット。最後の全探組をほぼ一息に話しきったにも関わらず、時間切れを迎えてしまった。
大学でも鳴るものなんだな、チャイムが鳴り響く。肩を落として、それが止むのを待つお兄さん。つ、つらい。
たっぷり30秒は待って、チャイムが収まる。そして彼は、静かに沈痛な面持ちで告げたのだった。
「…………えー、以上で発表を終わります。ありがとうございましたァ!!」
スポーツマン的な爽やかさというより、もはや自暴自棄感がある。怖ぁ……
そんな叫びとともに、午前の部は終わりを告げたのだった。
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7/1、本作「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」1巻が発売されています
WEB版において揺れたりブレたりしていた口調設定その他諸々を統一、言い回しや各シーンをより良い形で加筆修正を行いました
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