これには肝臓くんもゲッソリ
ランレイさんの話をした流れなのだろう、ベナウィさんがそういえばと俺に聞いてきた。
「ミス・ランレイともう一人、レディ・アンジェリーナともご一緒したと聞いてきますよ、ミスター・公平」
「レディ……ああ、アンジェさんですね。はい、そうですね一緒にダンジョン探査させてもらいました」
意外な人の口から意外な人の名が出た気がするけど、よくよく考えると別に不思議なことでもないんだよな、ベナウィさんがアンジェさんに言及したとて。
何しろこの人、マリーさんの孫弟子だし。たしか彼女のお弟子さんの、サウダーデ・風間さんだったっけ? のお弟子さんがベナウィ・コーデリアさんなんだ。
そういう繋がりがあるなら、アンジェさんと前から知り合いでもおかしくない。
ミスターあるいはミスという呼び方でなく、レディという呼び方を合わせていることからも、なんとなくそれは窺い知れる。
彼はニコリと笑った。
「そうであればミスター・公平、ミス・御堂。私のほうからも礼を。レディ・アンジェリーナがお世話になりました。ありがとうございます」
「え……あ、いえ。そんなことは」
「お知り合いなのですね、ベナウィさん」
「ええ。彼女がまだエレメンタリースクールに通う前から、面識がありますよ」
やっぱりか。エレメンタリースクールって、日本で言う小学校とかだよな? ってことはアンジェさん、今22歳ってダンジョン探査の際に仰っていたから、20年近くも前からベナウィさんとは知り合いってことか。
ちなみにそのへんの年齢的な話をすると、ランレイさんもアンジェさんと同じく22歳とのことだ。香苗さんが21歳、宥さんが20歳なのを考えると、A級探査者お姉さんコンビのほうが、うちの狂信者お姉さんコンビより一、二学年、上ってことになるんだよね。
うーん。こう考えると香苗さん世代とその前後の世代、すごく層が厚いな。
若くしてS級探査者になってたり、S級が視野に入ってたり。そうでなくとも堅実で手堅い立ち回りのできる探査者がいたりと、今の20歳前後の探査者はどうにも粒ぞろいな気がする。
界隈ではまとめて"御堂世代"と称されがちで、ある種の黄金世代扱いされているだけはあるよねと、不思議な納得感を抱く俺ちゃんだ。
「レディ・アンジェリーナが探査者となり、マリアベール様から受け継いだ刀で活躍しているとは聞いていましたが……いつの間にかA級にまで登り詰めていたのだと、知ったのは先日の祝勝会の折です」
「え……と。それまではご存知なかったんですか」
「面識があるとはいえ、接点はありませんでしたからね。結局のところ大師匠のお孫さんと祖母の孫弟子という、離れた関係でしかありませんし」
「なるほど」
肩をすくめるベナウィさん。たしかに、ベナウィさんとアンジェさんの関係って遠いもののはずだよな、本来。
同じ探査者でマリーさんという共通の知り合いがいると言っても、アンジェさんのほうはともかくベナウィさんのほうは遠い関係性だからね、実際。
マリーさんも世界各地にお弟子さんがいるって聞くし。ベナウィさんのような孫弟子さんも、そりゃあたくさんいるんだろう。
「彼女の幼少期にお会いしたのもたまたまなんですよ、実は。師匠に随伴してマリアベール様主催のホームパーティー……という名の耐久呑み会に赴いた時、連れてらっしゃったゆえでして」
「耐久……飲み会?」
「全員が倒れるまで続く呑み会です。マリアベール様は昔からそういうのが大好きでしてね。今や肝臓を壊してお酒が呑めなくなったのも、そんな無茶を週3回ペースで行ったからなんですよ」
「怖ぁ……」
やってることがおかしいだろマリーさん、なんの罰ゲームなんだよそれは。
全員が倒れるまで呑むって発想が率直に狂っている。そんな馬鹿な真似を月の半分ペースで行っていたことも含めてだ。
そりゃあ体も壊すよ……むしろ最低20年前までそんなことをしていたあたり、60歳過ぎまでは保っていたことになる。どんな体してるんだ、探査者だからって限度があるよ。
香苗さんや宥さんが、思わず顔を顰めている。もう成人な彼女らは酒も嗜んでいるし、あるいは他人事ではないのかもしれない。いや、比較対象が狂ってるから真似しようにもできないだろうけど。
「おばーちゃん……今度会ったら《医療光紛》でもかけたげましょうかねー」
「体を壊してまで飲みたいものなんでしょうか、お酒……」
「酒飲みの大師匠は酒飲み……バカ酒飲み!」
一方で未成年組とリーベはひたすらに困惑したりぷんすかしたりしている。
リンちゃん、ベナウィさんにもぷんすかしてたからたぶん、酒呑み自体があまり好きじゃないんだろうな。身内にすごいのがいたりするんだろうか。
そしてリーベよ、ぜひ今度《医療光紛》を試してあげてほしい。長い期間をかけて破壊された肝機能、全快はさすがに厳しいかもしれないけど……嗜む程度の酒は飲めるようになるかもしれないし。
マリーさんにはシステム側も大変な世話になったからな。そのくらい、試してみたって罰は当たるまい。
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7/1、本作「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」1巻が発売されています
WEB版において揺れたりブレたりしていた口調設定その他諸々を統一、言い回しや各シーンをより良い形で加筆修正を行いました
また書き下ろしで山形の中学生時代の話も掲載しております
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