ユニークネームの灯火を絶やしてはいけない!(決意)
「様々な流派や派閥に展開を見せたユニークネームモンスター学ですが、先程も述べたとおりWSOと全探組による規制を受けました。モンスターと直接関係していない名前であり混乱の元に他ならないと、名指しで批判を受けたのです」
「そして10年前からそうした規制を受けた結果、率直に言えば著しく規模が縮小しているのが現状です」
まさかのモンスター食愛好家の一部と、ユニークネームモンスター学会の無頼派と呼ばれる派閥の一部が合流したことに端を発する騒動。
美食派という、モンスターを完全に料理としてしか見ていないネーミングを行おうとした新派閥の発生が、学会にとっては終わりの始まりだったという。
さすがに酷すぎると判断したのだろう、WSOと世界各国の全探組がモンスターの名づけに関する規則を改定し、ユニークネーム絡みにおいては相当の制限をかけたというのだ。
資料が切り替わり、"現在の国内におけるユニークネームモンスター学会の状況"なる画面が表示された。
「国内の状況を具体的に言えば無骨派、無頼派は姿を消しています。特に規制の原因となった美食派の、結果的にですが前身とも言える無頼派は規制によるダメージを最も受けました。何しろドロップ素材を名づけることが禁止されたのですから、根底から存在を否定されたも同然なのですね」
「規制の内容が主に、モンスターの外観を表現していないものを狙い撃ったものである関係上、弱点の明示にこだわった無骨派も完全にアウト。浪漫派も対象モンスターの動作に着目した名づけができなくなったことで衰退しました」
次々に各派閥の名前がスクリーンに表示されては、デカデカと赤いばつ印で烙印を押されていく。
フリー素材のイラストをふんだんに使ってショックを受けている人たちを表現しているのが、状況の悲壮さの割にどこかコミカルさを感じさせるな。
うん……かなり真剣にダメージ入ってるね、学会。
逆によく10年前まで見逃されてたなってくらい、無骨だの無頼だのの派閥の名づけは度を超えている印象があったけども。許されなくなったらなったで、比較的まだマシな派閥もまとめて衰退するんだから、この手の規制は塩梅が難しいんだよね。
もっともWSOやら全探組からしてみれば、一部の探査者のこういう動きとか組織なんてのは、秩序維持や運営管理の観点においては知ったことかと言いたいところなんだろうし。
実際エスカレートするまでは大した制限もしていなかったみたいなので、やはり規制される前に界隈全体で、ブレーキを踏むべきだったんじゃないかなーとも思ったりする。
とはいえもう、何もかも後の祭りとしか言えない。
資料が切り替わる。今度は規制の波を受けてなお健在な、いくつかの派閥についてだ。
「自然派と詩吟派は元より外観にこだわったネーミングを標榜していたこともあり、比較的影響は受けていません。ですが過度に詩的な表現を用いることも規制されたため、やはり衰退の一途を辿っています」
「結果的にはほぼノーダメージだったのは、始祖である妹尾教授による命名派だけです。外観と動作をファンシーに表現しようというだけの名づけ方式は、通常の名づけの延長にあるものにすぎない、と判断されたのですね。つまり現在、国内における界隈の主流派は命名派ということになります」
「廻り廻って、最初の位置に戻ったんですね。なんと言いますか、不思議な話です」
小声で宥さんが話しかけてくるのを、俺はたしかにと頷いて肯定する。
半世紀を超えて世界各地にまで広がりを見せた界隈が、紆余曲折を経た末に一周回って妹尾教授の命名派の台頭を迎えたのだ。散々わけのわからん派生をした挙げ句、最後はエスカレートしすぎて怒られてという形ではあるが、妙な収まりの良さすらある。
「外部からの圧力がゆえのネガティブな推移ではありますが、客観的に見れば……まあ、異様な名前のモンスターが減っていくということではありますので。ええ、世間的には大変素晴らしいことですね」
「規制を受けて界隈が、ある種の過激化していた状態から脱したとも取れます。グレートリセット、あるいは輪廻したと言えなくもないですがここはむしろ! 学会は規制によってさらなる、よりよいユニークネーミングを追求するための一歩を踏み出したと言えるはずなのです!」
怖ぁ……お姉さんはどこかつまらなさそうというか、若干不貞腐れた感じで皮肉げにつぶやいてるし。お兄さんは若干、どこぞの狂信者を彷彿とさせる熱の入り方してるし。
まあ実際、過激化しすぎていたのを仕切り直しができたって見方はできるだろう。規制にしたって、むしろそれまでが野放図すぎたくらいにも思えるし。
よりよい形でユニークネームを追求する、という理念を考えると、規制による一時的な衰退もさらなる飛躍のためのものと考えてもいいのかもしれない。
自分で言っててわけがわからないよ。よりよい形でユニークネームを追求するってなんだ?
変な界隈のあれこれを短期間に覗き見すぎたからか、なんだか俺まで変に染められかけている気がする。いかんいかん、これ以上は危ない危ない。
「……失礼しました。えー、それではこれにて我々カレッジサーチャーズ竜虎大学、モンスター研究グループによる発表を終わります。ご清聴ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
影響を受けかけていることに戦慄した矢先、発表は終わりを告げた。礼をして資料を片づけ、去っていくグループの人たち。
残るはなんていうか、映画を見たあとの気怠い達成感に包まれた空気の会場と参加者のみ。わかるよ、濃かったもんな、なんか……
リーベがふうー、と深く息を吐いた。
「つ……疲れましたー。面白かったですけど、一気に摂取していいタイプの発表じゃなかったですねー……」
こいつにここまで言わせるって相当だよ。
ディープなユニークネームモンスターの世界にあてられて、俺たちは暫し、椅子にその身を預けるばかりだった。
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7/1、本作「攻略!大ダンジョン時代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど」1巻が発売されています
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