ナズェミテルンディス!?
ところ構わず始まる香苗さんの伝道師ムーヴ。至近距離で食らった俺は、割といつものことなのであーはいはいカルトカルトと笑って受け流すこともできるのだが、そうでない人もこの場には大勢いて。
「に、兄ちゃんと御堂さんが、ち、ちち近い……!」
「あわわわわ、なんかすごい勢いで言ってる……」
「生伝道師の、リアルタイム伝道だあっ」
すぐ隣の優子ちゃんや新島さん、宮野さんが各々慌てふためいている。何度か会っている優子ちゃんですら、香苗さんのこの手の暴走に立ち会うのは初めてだったはずだし、この至近距離含めてビックリするのも仕方ないよね。
新島さんはシンプルに驚いている。一方で宮野さんは生だのリアルタイムだの言ってるあたり、マジで普段から救世の光チャンネル見てるみたいだな。一人だけ感動している様子なのが異質だ。怖ぁ……
他にも、参加者のあちこちから今のこの、見ようによってはマジでアレする5秒前みたいな俺と香苗さんの距離感について反応があがっていく。
「御堂さん……と、あれがアレか、例のアレ」
「救世主とやらの少年か。マジかよこんなとこであんなこと、恥ずかしくねーのかねえ」
「あんな美女に詰められてみたいよなあ」
「でも言ってることがアレだしなあ」
男の人たちの声。そうです一応僕が救世主ですこんなところでこんなこと、恥ずかしいに決まっています。
この人たちは概ね香苗さんに距離を詰められる俺を羨ましがってるみたいだけど、同時に引いてもいるみたいだ。至極真っ当な反応だと思う。俺だってその立場なら同じこと思うもん。
「他のゲストお二人とも知り合いなのね、あの子。探査者さんかしら」
「え、シャイニング山形だよね彼? 春にテレビ出てた、ヘニョヘニョって感じのインタビューしてた子」
「週刊誌の記事で読んだけど、彼が御堂さんの弱みを握ってるとかいないとか。でも見てると、御堂さんのほうがグイグイ行ってるわねえ」
「むしろあの子のほうがなんか弱み握られてそう」
と、どこからか女性の方々のお話が耳に入ってくる。こちらは一般の方々だろうか、やたら言いたい放題である。
ていうかインタビューの話はしないでほしい! ヘニョヘニョなのはまあそのとおりなのでその節はお目汚し失礼いたしましたが、何ヶ月も経って蒸し返すことではないと不肖山形公平は思うわけです!
そして週刊誌の記事とか何それ、俺香苗さんの弱み握ってんの? それは知らなかった、そんなのがあったらまず今のこの暴走を止めてるよ、マジで。
でも最終的にはむしろ俺のが脅されてそうって評になるあたり、俺と香苗さんの関係は傍から見てもそんなもん、ってことなんだろう。複雑だ。
「ウェイウェイウェーイ! イカしてんねえヤマちゃんっフゥーウ!」
「御堂さんがいるからには、もしかしたらと思っていたけど……やっぱりいるよなあ、彼」
「今はお取り込み中だしぃ、後でご挨拶でも噛まそーぜぇナカちゃんウェーイ!」
「そうだね、タカちゃん。積もる話は特にないにせよ、ドラゴン騒ぎでは世話になったしね」
「ウェウェウェウェーイ!」
どこかで聞いた声も聞こえてくる。とてもパリピでウェーイな感じの男性と、反対にひどく落ち着いた、のんびりしている男性の声。
えぇ……まさかこんなタイミングでお二人の声を聞くなんて。いやまあたしかにタカちゃんさんのほうは、キャンパスライフでパリピバーベキューしてそうな感じあるけど。焼いた肉串でクローとかしてそうだけれども。
いきなりの再会の気配に、喜びより先に驚きが来る俺ちゃんだ。
その他諸々、阿鼻叫喚とまではいかないけどみんな、俺に詰め寄る香苗さんにビックリしている。そして俺に対して、何こいつ的な反応も見せている。
もうそろそろ本格的に恥ずかしくなってきた。顔が赤らむ自覚とともに、俺はやはり至近距離に広がる香苗さんの美しい瞳に、言い聞かせるように囁いた。
「あ、あの……ち、近いです、香苗さん」
「そうですか? そうですね……こうやってすぐ近くであなたを見るのは、なんだかとても満たされます」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです。とはいえTPOもあります、今日はこのくらいにしておきますが」
何やら満足げに頷いて、香苗さんはようやっと離れ、適切な距離に落ち着いてくれた。ふうー、心臓バクバク。
TPOを言うならそもそもこんなところでこんな時にやるのはやめてほしいけど、それを言うと『じゃあ二人きりならいいんですか?』みたいなキラーパスが飛んでくるのは間違いない。
そこで頷いたらもうなんか、狂信者の沼に嵌って二度と抜け出せない気がするよね。永遠にさっきの距離感で過ごすことになりそう。悪くはないけど、まだ15歳の男の子だからね、俺。
「ハッハッハ! 相変わらず仲睦まじいようで何よりですよ、お二人とも」
「ドキ、ドキ……! 公衆の面前でラブシーン、大人! ドキドキ……!」
ドギマギしっぱなしの俺に、ベナウィさんは大笑してリンちゃんは手で顔を覆いながらも、指の隙間からガッツリ見ている。
あなた方も相変わらずそうで何よりですよ!
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