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案外場馴れしてない正統継承者

 拍手が収まり、小早川さんによる今日のイベントについての説明が行われる中、俺はそれどころじゃなかった。

 不意に目が合ってしまった──っていうとなんだかまずいことのようだけど、別に嫌なわけじゃない──香苗さんに、ガッツリ視線をロックオンされてしまっているのだ。

 世間一般でいうところの、いわゆる一つのガン見ってやつですねこれは。

 

「怖ぁ……」

「さすがは伝道師。どこからでも、目の届く範囲であれば救世主様の御姿をたちどころに捉えるのですね。私も早くその領域にまで至らねば、使徒の名が泣きます」

 

 隣の宥さんが感銘を受けたように嘯くんだけども、そんな名前は好きなだけ泣かせとけばいいと思う。

 ていうか、視界に収まる範囲なら俺を見つけられるってどういうことだよ。さすがに信仰心だけで、ナチュラルにスキルだか称号効果だかみたいな真似をするのはよしてほしい。ワールドプロセッサが草葉の陰で泣いてるよ。

 

 視線を合わせる俺と香苗さん。宥さんから事前に、俺がこの場にいることは把握していたんだろう。その顔に驚きとか困惑は一切ない。

 代わりにひどく淡くて嬉しそうな、幸せそうな笑顔を向けてくるばかりだ。頬を染めて目を細めて、まさしく花の咲くような笑み。

 

 なんか……照れるな。めっちゃ喜ばれてるよ、俺が今ここにこうしていることに対して。そこにいるだけで喜ばれるなんて経験、なかなかないから戸惑いがちながらも正直、嬉しさもある。

 目と目を合わせて俺は笑う。狂信者的サーチ能力のことはとりあえず置いといて、今は俺がいることに喜んでくれる香苗さんに、笑顔で応えたかった。

 

「リンちゃんとベナウィさんも気づきましたねー」

「香苗さんがあんな顔して一点を見てるんだもんな。気づくか、そりゃ」

 

 小さくリーベが呟くとおり、香苗さんの隣でリンちゃんとベナウィさんも、俺に気づいたみたいだった。

 お! みたいな顔をしてリンちゃんは小さく手を振って笑うし、ベナウィさんは穏やかに会釈してくれた。

 

 それぞれに手を振り、会釈して返す。お二人と会うのは、ベナウィさんはこの間の祝勝会、リンちゃんは翌日のプールダンジョンにて以来なので、概ね一週間ぶりか。

 本来であれば住まう国からして違うのだから、こんな短いスパンで再会できるはずもない。やっぱり彼と彼女が、夏いっぱいまでこの付近に滞在しているからこそだね。

 

 SNSでいつでもどこでもやり取りできるし、なんなら決戦スキル保持者間ならば俺を介してテレパシーで繋がれる俺たちだけど。

 やっぱりこうして直に姿をたしかめ合えるのは、これは嬉しいことだと思うよ。

 

「──本日のイベントに際し、素晴らしくも偉大な3人の探査者の方々にお越しいただいております。この場をお借りし、恐縮ではございますがご紹介させていただきたく存じます」

 

 と、ちょうどマイクを持った小早川さんの、司会進行も3人を紹介するらしい。観客の視線が、壇上の香苗さんたちへ向かう。

 100人近い参加者からの、一斉の注目を浴びているな。一切動じていない香苗さんやベナウィさんはさすが慣れっこってところだが……リンちゃんはそうでもないか、さすがに。

 

 カチンコチン。そう表現できてしまうほどに、幼い少女拳法家は一気に緊張していた。

 ついこないだA級に昇級したってくらいだものな。業界誌やらテレビのインタビューやら受けた経験があったって、慣れないものは慣れないんだろう。わかる。

 

 未だに俺を苛むあの忌まわしい、シャイニング山形全国デビューインタビューのトラウマににわかに震えつつ、それでもリンちゃんを案じる。

 香苗さんが優しくその背中を撫でた。後輩を励まし宥める、優しい先輩って構図だな。美女と美少女のやり取りなだけあり、なんだか素敵な光景だ。

 タイミングを見計らってか、小早川さんが続けた。

 

「まずお一人目。先日A級に昇級されました、シェン・フェイリン氏。星界拳なる拳法の達人であり、同じくA級はトップ層に位置する姉、シェン・ランレイ氏ともども今、注目を集める期待の新星です」

「どっ…………どうも、はじめまして。せ、星界拳正統継承者、"天覇"のシェン・フェイリンです。よ、よろしくおねがいします!」

 

 紹介されて、リンちゃんは立ち上がり、マイクを受け取って名乗りをあげた。

 いつもよりぎこちないけど、それでも香苗さんの激励もあってかしっかりした、立派な振る舞いだ。全国ネットでゴミのような醜態を晒したどこぞのシャイニングくんとは全然違うな。かなしい。

 拱手して一礼、そして着席。どうにか山場を乗り切った彼女の、強張った顔が達成感に緩んでいく。頑張ったね、リンちゃん。

 

 そんな可愛らしくも凛々しく、何より初々しい姿に参加者たちも大いに心を射止められたみたいだ。イベント開始を告げた時よりはるかに大きな拍手が、それを示している。

 まさに万雷の拍手。若きA級探査者の名乗りを受けて、それを惜しみなく迎え入れる音の洪水。

 

 リンちゃんも照れながら手を振って応えている。かわいい。

 ランレイさんともども美人姉妹って触れ込みで売り出してるみたいだけど、そりゃあ売れるよ、これは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第一巻発売おめでとうございます! 近場の本屋は置いてなかった。売り切れかな?
[一言] 救世主レーダー搭載の香苗さんは、ウンkm先の集団に紛れる山形君を発見することができます これが極まった狂信者の通常スキルか〜
[一言] リンちゃん、鋼メンタルのような気がしえたけどそれなりに緊張してたらしい……ステージ脇からアクション決めながら登場してればそうでもなかったんだろうけどw
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